第51話 これが雷神の力だ

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「あああああああっっっっ!!!」


 頭に大量の雷を流された亡は、両手で頭を押さえながら悶え苦しんでいる。血まみれの左手が使えないと思ったら大間違いだ、全ては江戸崎から弱点を聞くために時間稼ぎしていただけ。


「よくもよくもよくもよくも」


 しかし一撃では仕留められなかったようだ。青い仮面の下からは念仏のようにブツブツと、何かを発する声が聞こえる。脳に電気が流れておかしくなったのか、元から思想はおかしい奴か。


 空を見ると、ドラゴンらが火を腹に溜めながら、こっちに向かってきていた。お前らのリーダーを殺そうとしたんだ、そりゃ怒るよな。元から仲間意識が高い種族だったし。俺は急いで足に力を込めて、空を飛ぶ。


「グオオオオオオオオ!!!」


 雄叫びを上げる数々のドラゴンは、俺の後を追って飛ぶ。そして厄介なことに、図体がデカいくせに避けるという行為を知らない。だから俺の通ったビルとかを破壊しながら進んでいく。


「ゴオオオオオ!!!」


 5階建ての雑居ビルが建ち並ぶ、駅の裏側のエリアで着地しながらも、すぐに飛び立つ。その5秒後に、大量のドラゴンが後を追って来る。雑居ビルなんて見えてないのか、そのデカい図体で跡形もなく破壊していった。少しでもよそ見していたら、すぐに追いつかれるな。


 俺は駅前のビルの側面を走り、更に加速する。巨大な電子広告を破壊していったドラゴンは、前から俺を喰おうとした。先回りを覚えたか、だが俺はこの時を待っていた。腹に溜めた炎を吐き出すよりも先に、手に溜めていた雷のエネルギーを、目の前で飛ぶドラゴンの頭に発射する。


 ドンッ!!!


 鼓膜を突き破るほどの爆音と、渋谷全体を照らすほどの青い閃光が発生し、ドラゴンは地に堕ちていった。白目を向いているが、この爆発だ。生きていたとしても、すぐには動けないだろう。


 ドラゴンを1体倒したからか、力が戻ってくるような、不思議な感触を覚えた。体全体に雷がほとばしっている……力がみなぎってきた。左手の傷も治り、全身に青く光る雷が発生している。あの頃のスカイが戻ってきたぞ。


 俺の名はスカイ、雷神トールの力を手にした、唯一無二の生命だ。このままドラゴンを全滅させて、亡を殺す。


「グラァァァァァ!!」


 俺を丸呑みしようと、大口開けて突進してきたドラゴンには、ありったけの雷を喰わせてやる。左手と右手を重ね、雷を玉みたいな形に変化させ、それを思いっきりドラゴンの口に向けて発射した。


 ドゴッ!!


 エネルギーに耐えきれなかったんだろう。雷撃の塊を喰らったドラゴンは、腹の中で大爆発を起こしてそのまま堕ちていった。残り8体、いける。続けて突進してきたドラゴンの翼を雷で破壊し、上に飛び乗ってから、馬を操るように動かす。


 ドシャ!!


 そのまま有無を言わせず、無理やり巨大なビルに突っ込ませた。破壊が大好きなドラゴンでもキツかったのか、ヨロヨロと飛んで空中で爆散した。モンスターのように、赤い液体を撒き散らすこともなく、薬物使用者のように爆発を起こして死んだ。レッドが作り出した、擬似的なモンスターだ、そこまでは模倣できないか。


 そして何体かは崩れた巨大なビルの下敷きになったようだ、手間が省ける。俺は天に手を掲げ、ゴロゴロ……ゴロゴロ……と雷の鳴り響く灰色の雲を集める。雷神の力をなめるなよ、電気を打つだけじゃないぞ。


「これが雷神の力だ」


 それだけボソッと呟き、手を下ろした。同時に灰色の雲から大量の、しかも青白く光る雷が、瓦礫に埋もれて動けないドラゴンめがけて落ちてきた。


 ドゴゴ……


 しかし、当たらなかった。雷が落ちた音はしたのに、それに雲はあるのに、何故か当たらなかった。いや、そうか。結界に覆われているせいで、雷が防がれているのか。雲は結界に入っていない、だから雲から落ちる雷は結界に当たって、ここまで来れない。


「終わって、たまるか」


 これは亡の声、振り返るとそこには仮面を外した亡が空中に浮かんでいた。これが亡の素顔なのか、男か女かは見ても全然分からないが、この際素顔なんてどうだっていい。顔中に電気の流れた痕が残った奴は、震えながらも手にガラスの破片を作り出している。


「まだ死んでなかったか」


「ここで殺すここで殺すここで殺す」


 仮面を取ると理性まで無くなるのか、ただし殺意だけはあるみたいだな。暴走した殺意は持たないに限るぞ、制御できるのなら持っておいた方がいい。さて、俺の前には破片を持った亡がいる。そして奴の後ろには、生き残ったドラゴンが4体。残りの3体は瓦礫に埋もれて動けなくなっている。


「レッドさんの意志のままに」


「今のお前に俺は殺せない」


「うるさいうるさいうるさい」


 奴は声を荒らげながら、5本のガラスの槍を飛ばしてきた。どれも鋭く、速い。俺はすぐに奴に背を向け、飛行する。巨大なCDショップ方面、とにかく東京タワーから距離をとるようにして移動しよう。何もない大通りを、ドラゴンと槍の攻撃からすり抜け続ける。


 しかし、奴らはさっきよりも上手く連携していた。それは人間とドラゴンという他種族同士の連携じゃない、レッドに生み出された擬似的なモンスターと亡の、いわば同種族の連携。


「ゴオオオオオ!!」


 突如、目の前にドラゴンが、火を噴きながら突進してきた。急いで上に避けるも、その上にも炎を吐くドラゴンが。体をひねって方向転換するも、目の前は壁。その壁を蹴り上げて、宙返りして避けても、前には炎を吐き出すドラゴン。高架下を抜けて槍を防ごうにも、ドラゴンが橋を破壊していく。


「グオオオオオオオオ!!」


 大通りの前からも後ろからも、ドラゴンが。上にもいる、横にもいる。絶体絶命だな、これは。ちょうど交差点のド真ん中だ、奴らも狙いやすいんだろう。なら、こっちからも仕掛けてみるか、大爆発を。


「グガアアアアア!!」


 前後上横、別々の方向から突進してくるドラゴンに対して、俺は着地し、エネルギーを溜める。ここは大通りの交差点の中心、そして腰にはガジェットが。星田のチームが開発した、手のひらサイズの小さな武器が入っている。その中の、スタンガン・チップ。型落ちだが、それでも威力は強い。そのスタンガン・チップを胸につけ、深く息を吸った。


「ゴラアアアアアアア!!」


 ドラゴンらが俺のすぐ目の前に到達した瞬間、勢いよく胸についたスタンガン・チップを叩いた。


 ドカン!!


 すると巨大な爆発音と共に、プラズマ波と衝撃波が勢いよく発生し、ドラゴンらは遥か遠くまで吹き飛ばされていった。その一方、俺は戦闘用スーツの胸部分が黒焦げになっただけ、何も起きていない。


「何をした?」


「今のお前には言っても分からないだろ」


 簡単に説明すると、胸につけていたスタンガン・チップには電流が込められている。それを俺の体の中に流し込み、雷神トールの力を擬似的に強化させた。雲が使えたら、そこからエネルギーを借りることができるが、あいにく雲は範囲外。レッドも擬似的にお前らを作り出している、これはお互い様だろう。


 それで雷を使った爆発を起こした。結果、殺そうと突進してきたドラゴンらは、全員吹き飛ばされた。上から来た奴は結界に叩きつけられて爆散、横から来た奴は線路を越えた先にある赤いビルをも突き破って、向こう側で倒れている。前後から来た奴も結界の端まで追いやられた様子。


 これで邪魔する者はいなくなったな、亡。


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