第50話 スクランブル交差点のトラウマ
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「あらあら、棒立ちとは余裕そうね」
その5秒後に、奴が上から降ってきた。周囲には炎を腹に溜めたドラゴンが、薄くオレンジ色に光る翼をはためかせながら飛行している。くそ、もう来やがったか。ここは渋谷駅近くのビルの屋上、空には10体のドラゴン、目の前には亡、逃げ場は無い、普通の人間なら。
「どうだろうな」
俺はすぐさま足に力を込め、屋上から飛び降りた。そして手に雷のエネルギーを溜め、奴の降らすガラスの欠片めがけて発射する。
ビリリッ!!
閃光と共に、奴が放ってきたガラスの破片は、雷とぶつかって消滅した。しかしそう簡単には終わらない、奴はレッドに強化されて蘇った存在だ、エネルギーは無限だろう。今もなお奴は空を飛びながらも、ガラスの欠片を作り出している。
対して俺はゴブリンらに雷を落としまくったせいで、エネルギーが足りない。どうもこの世界に来てから、パワーを上手く引き出せない。この世界はやっぱり、体質的に合わないか。
「もう終わり?」
奴は手に溜めたガラスの欠片をドリルのような形に変化させ、飛行する俺めがけて飛ばしてきた。すぐに雷を溜めるのは難しい、ここは逃げるしかない。俺はすぐに体勢を変え、迷路と化した夜の渋谷を飛翔する。
背後に迫るガラスの欠片を、体を横にねじって避ける。しかし、この欠片を操っているのは奴だ。すぐにブーメランのように、奴の手元に戻っていった。避け続けても意味がないってことか。
バリンッ!
スクランブル交差点近くの高架下に入り、飛んできた欠片を壁にぶつけて破壊する。避けても結局は奴の手元に戻るため、破壊しないと意味がない。なら、こういう狭く低い通路に欠片を引っかければいい。ここならドラゴンも邪魔してこないしな。
「姑息だねぇ」
「勝てばいいんだろ?」
高架下から線路に上がり、宙に浮かぶ奴と会話する。攻略法は見えたが、ドラゴンの倒し方は見えない。奴の背後でホバリングしているドラゴンをどう倒すか、戦闘機を呼んで空爆してもらうか、火の海になることは覚悟しているしな。ただ亡の存在がかなり厄介だ。空爆の前に墜落させられるかも。
とはいえ、流石に雷を当てればドラゴンでも堕ちるか。ただし飛翔しながら、破片を避けながら雷を当てるのは非常に困難だ。まずは亡を殺す必要がある。そのためには、弱点を知らなきゃ話にならない。
「江戸崎、何か奴に関する情報をくれ」
「あらら、味方に助けなんか求めちゃって」
小声で江戸崎に聞いたのを見て、奴は嘲笑う。笑ってられるのも今のうちだ、って言ってやりたいところだが、ぶっちゃけ手も足も出ない状況だ。逃げてるだけじゃ攻略はできない、これは俺が1番理解している。
「さてと、次はタダじゃ済まないよ」
奴は同時に20本もの破片を飛ばしてきた。これは欠片じゃない、先端が鋭く尖っている破片だ。俺はすぐさま線路を離れ、放置されたワゴン車の後ろに隠れる……も、破片はワゴン車を貫いて、飛び続ける俺を追う。
グサッ!!
そしてそのうちの1本が、俺の左手を深く貫いていった。あまりの痛みと衝撃で、墜落。地面に強く叩きつけられてしまった。
「弱すぎ、星田くんよりも」
奴は微笑みながら、歩いてこっちに向かってくる。ここはスクランブル交差点、しかし違和感がある。誰もいないからか、車もほとんどないからか、それとも血溜まりの痕跡が多く残っているからか。ここで星田と奴は戦ったんだろ、1ヶ月前に。
左手から噴き出した血は、真っ黒な地面に滴り落ちていく。川の流れのように、サラサラと清らかではない。ドス黒い、ドロドロと汚いものだ。トールの力で治そうにも、力の込め方が分からない。神経ごとイカれちまったか、これだと雷も打てないな。
そしてドラゴンらは今もなお、空にいる。ここにいるよりも、向こうにいる兵士を襲った方が早いだろ。何故俺に固執するんだ。
「左手を怪我しただけで諦めちゃうんだ、星田くんよりも弱いね。あの人は雑に結界まで突進されても戦い続けたよ」
諦めてなんかいねぇよ、ただちょっと疲れただけだ。力を込めれば、すぐに治る。というか、あいつがタフなだけだ。正義の味方かなんか知らないが、自分の信じる正義のために戦っているヒーローだ。俺だってヒーローに憧れていたが、キツい時はキツい。
というか、こっちの世界にも結界なんてあったんだな。懐かしい、マキシミと戦った時のことか。ライムートの王マキシミの城は結界に囲まれていた、だから落下傘と呼ばれるパラシュートみたいな装置を貰って上から侵入した。使ってはいない、ドラゴンのおかげで。
待てよ。星田が渋谷で雑と戦った時に、結界まで叩きつけられたということは……もしかして、亡が結界を作り出しているのか? ならドラゴンが空にいるのも納得だ、結界があって出られないという訳か。
「結界に閉じ込めて、そこまでして殺したいか?」
「気づくの遅いね、まぁ透明だし。気づいただけでもヨシとしよう!」
透明の結界ってどうやって気づくんだよ、というか本当に結界なんてあったのか。そして結界が見えないのもあの時と同じだ。ソーラル城の時も、アレアとロックとガイアさんは結界を視認していて、俺だけ何故か見えなかった。今なら理由が分かる、俺だけ出身が違うから。生まれた世界が異なるから見えなかったんだろう。
「これでもうおしまいか〜」
俺の手を貫いた破片は、奴の手元へと戻っていく。そして奴は血がべっとりと付いた破片をジマジマと見つめている。
「最後に1つだけ聞いてもいいか?」
「時間稼ぎなら死んだ後に」
「どうやって生き返った?」
「ヒントは、レッドさんの魔法」
「……創造魔法か」
「そういうこと」
創造魔法、生命を一から作れるように、死者を作り出すことも可能らしいな。そして記憶も引き継いでいる。とんだ魔法だ、世の理が全部ひっくり返ってしまうぞ。
「……頭だ、頭を狙え」
時間稼ぎはこのくらいにしておくか。ちょうど今、江戸崎から連絡が来た。それにしても遅すぎるが、ないよりはマシだ。
「さて、もういい?」
「いいや、死ぬのはお前だ」
俺はすぐに立ち上がって、奴の頭を両手でガシッと掴み、密かに溜めていた電流を思いっきり放出した。
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