第109話 人類最後の希望

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 それから数十秒後に、亡の死体は爆発し消滅した。同時に、俺の体に刺さっていた破片や氷の柱は粉になって消滅。集中し、体の傷を修復させながら、急いでショウの元に向かう。


 何故、上から地下鉄の車両が降ってきたのか。答えは簡単、怪力スーツを着用したショウが持ち運んできたから。俺たちが指名手配されていた時に、海軍基地で武器や装備を渡された。そのうちの何個かは、その時に乗っていたヘリに搭載したままだった。ヘリは燃えても、武器は燃えていなかったんだろう。


 怪力スーツは、銀色でゴツイ見た目をしている。ショウは地下鉄の車両を軽々しく運び、それをそのまま奴にぶつけた。亡は俺に気を取られていたから気づけなかったんだろう、俺も同じく気づけなかった。奴は後ろから破片を飛ばしてきたが、ショウは電車を上から落とした、予想外だろ?


 怪力スーツを脱いだショウは、血まみれの俺に駆け寄る。俺も傷を治してから、ショウのいる交差点へ走る。


「その血、平気なのか?」


「大丈夫」


 彼は口の周りについた血を見て心配しているが、俺が聞きたいのはそこじゃない。みんなが無事なのか気になっていた、戦っている時からずっと。江戸崎ともテレパシーが通じないし、イヤホンからはショウの声しか聞こえない。ショウにそのことを尋ねると、彼は深く俯いた。


 そして、少し間を置いてから、口を開いた。




「鎌切さんが……亡くなった」




 は、鎌切さんが亡くなったって、言葉通りの意味でいいんだよな、どういうことだよ。説明してくれよ、だってショウは生きてるじゃないか、同じヘリに乗っていたショウは生きていて、何で鎌切さんが、どうして、そんな、簡単に、鎌切さんが死ぬ訳ないだろ。何で……何があったんだ?


「亡の攻撃でヘリのプロペラが破壊され、爆発寸前で空を舞った。俺は外に出て翼を起動して、中に乗っているみんなを助けようとした。その時、鎌切さんは……山岡を外に押した。それから3秒後に、ヘリは大破した。あの人は、炎に巻かれて……そのまま亡くなった」


 その際限なく込み上げる悲しみで、俺は声を上げて泣いた。地面を強く叩いても、何も変わらない。それだけでは済まずに、胸を突き破る痛みと同時に怒りも湧いた。全ての痛みを破壊する痛みを思い出した。こんなにも簡単に、みんな死んでいくのか。亡は死んだ、でも臣はいる、俺のことを待ち構えている。


 結局、やることは変わらない。俺は血と涙を拭き、立ち上がる。


「タイムリミットまで10分、鎌切さんの想いは、俺と星田で受け継ぐぞ」


 ショウの翼でビルの屋上まで運んでもらい、みんなと合流した。無事だ、誰も怪我していない。ヘリも壊れていない。みんなの声が聞こえなかった原因も判明した、どうやら通信妨害が起きていたみたい。SoulTの仕業か、さておき江戸崎も無事。通信妨害が起きていたとしても、江戸崎のテレパシーなら通じるだろ。


「対策された、結界の中でのテレパシーの範囲を狭められたのだろう。私も君の声が聞こえなかった。しかし、彼の最後の声は聞こえた。明言は避けるが、彼は未来に希望を持っていた……いや、持っている。今も」


 江戸崎はテレパシーで、俺にだけ伝えてきた。こういう時だけ、江戸崎の能力も悪くないなと感じる。他は厄介だ、思考とか勝手に読まれなくないし。タイムリミットは10分、それまでに国立競技場に向かわないと。本部に寄っている暇なんてない。急げ、早く。


「作戦変更、これより国立競技場に直行する。星田と平乃を降ろし、他の隊員は周辺で待機。特に江戸崎を守れ、奴らに会わせてはいけない」


 ヘリに乗り込み、傷を治しながら、山口課長の指示を受ける。その間、俺は戦いの記録をまとめるレポートに、何があったかを記入する。別にこれは俺の担当ではない、今までは警視庁の捜査官であった鎌切さんが書いていた。でも今は、俺が書いた方が分かりやすいだろう。


『16時、横浜。SoulTのメンバーを、星田健誠が殺害。死者 5名』


 レポートを瀧口さんに渡し、少しの間だけ目を閉じる。少しだけでいい、頭を整理したい。鎌切さんはSTAGEの中で最年長、もう少しで定年だったか。歳の行った捜査官はみんな頑固だった、でも鎌切さんは違う。俺がSTAGEに来た時も、快く受け入れてくれた。


 それだけじゃない、鎌切さんは裏で根回しをしてくれていた。俺たちが指名手配されていた時、彼は警察内の動向を教えてくれた、また警察に嘘の情報を流して捜査を混乱させた。これも、彼の善の性格があったから。彼の生き方が、そうさせていた。


 クヨクヨしていても仕方ない、そうやって自分に言い聞かせながら、俺は立ち上がる。傷もいつの間にか完治していた、こんな短時間で腹の傷が治るとは、思ってもいなかった。これは……能力が進化しているのか、前まではこんなに早く治らなかったはず。


「あと3分で到着する。準備はいいか?」


 山口課長の言葉に、深く頷く。そして隣にいるショウと顔を見合わせて、手を組む。こんなことは二度とあってはならない、だから俺たちも、世界滅亡を防いで、より数多くの人々を救おう、という願いを込めて。


 国立競技場、これは東京オリンピックのために作られたもの。でも東京オリンピックは、結局開催しなかった……薬物使用者のせいで。彼らは東京を中心に暴れ回っていた、だから1つ前のオリンピックから、国際平和を願うために開催を控えるようなり、国立競技場は建設を中断した。9割完成しているため、試合はできなくもない。


 その駐車場にヘリを着陸させ、装備の最終確認、そしてみんなに勇気づけられながら走る。


「鎌切捜査官の仇を頼む」

「君たちは人類の希望だ」

「プレッシャーにならないように……頑張れ」

「絶対に生き残って」

「これが最後の戦いになるよう、私も外から応援している。何かあったら、心から叫べ」


 江戸崎はテレパシーで鼓舞する、お前の能力を使わなくても倒せたらいいけどな。そして瀧口さんは何も言わずに、視線だけを送る。プレッシャーにならないよう、配慮してくれたんだろう。その彼女を見て頷き、客席を通って奴らの待つ場所へ向かう。


 16時8分、現場に到着。


 比較的くもっており、空はどこか暗い。サッカーの白線が描かれたフィールドのド真ん中に、奴らは立っている。真っ黒のローブを身に着けた、緑色の仮面を被る臣と、白色の仮面を被る白。白はニット帽をしており、髪は見えない。臣に髪は生えてない、真田の時は生えていたのに。


「遅かったね、星田健誠くん」


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