第108話 共闘

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「生きてたのか……良かった」


「そう簡単に死ぬかよ、それよりその傷は?」


 なんと、ショウが生きていた。翼を着けていたから無事だったのか。俺は急いで集中して傷を治し、ショウの差し出す手を握って立ち上がった。確かに彼は生きている。


「他のみんなは?」


「説明する暇はない、まずは奴を倒すぞ」


 そう言って、ショウは翼を展開し奴に突っ込む。不意に攻撃された亡は体力を消耗したのか、バリアを展開できずに戸惑っている。何度作り出そうとしても、奴の周りに現れたバリアはどれもすぐに消滅している。ショウの奇襲攻撃、効果バツグンだな。


 しかし奴もそう簡単には殺られない。墜落したヘリコプターの残骸をすぐさまドリルや鋭い破片に変化させ、空を飛ぶショウに向けて飛ばしている。俺は急いでイヤホンを装着し、飛んでくる破片から逃げるショウと連絡を取る。


「ショウはそのまま囮として周囲を飛んでくれ。俺は江戸崎に弱点を聞いてから、奴と戦う」


 そしてまたイヤホンを外し、心と体を集中させる。ヘリはもう屋上に着陸している、だから奴もテレパシーを使えるはず。亡の弱点は何だ、教えてくれ……そう願っても、江戸崎の声は一向に聞こえない。俺の願いが届いてないのか、能力を使えないのか、どうなってんだ。


 このまま奴の返事を待っていても仕方がない。ここは俺も戦いに参戦するしか、それ以外に答えはない。雑は獣だったから弱点があった、しかし亡は人間に近い形をしているから、人間と同じ弱点だと予想する。人間の殺し方……単純だ。首や心臓を刺す、でもそれが奴らに効くのか?


 なら、もっとデカいことをしないとな。結局、またイヤホンを付けてから、囮となって破片を避け続けるショウに作戦を話す。


「今度は俺が引きつける。だからショウはヘリに積まれていた装備を取って。まだ燃えてないはず」


 そう言うと、ショウは翼を器用に動かして、離れた路地に着陸。すると、破片はショウの方ではなく、比較的近い俺の方に向かって飛んでくる。よし、お前が飛ばしてくる破片の何倍も何十倍もデカいやつをぶつけてやる。そしてお前を倒す。


 俺めがけて飛んでくる、ドリルみたいな尖った破片を次々に避け続ける。上半身を反らして、地面を蹴り上げ、壁を蹴って横に回転。ビルの壁を蹴り上げながら登り、宙返りをして地面に着地。さっきよりも集中力が安定している、これなら、奴を倒せる。


 破片が飛んでこなくなった隙を見計らって、ビルのガラスを突き破り中に進む。ショウも装備を取りに行っている、となると奴は瓦礫を破片に変換させているのか。なおさら、今がチャンスだな。そこからガラスを蹴破り、大通りに着地。乗り捨てられた赤いバイクに乗り、奴のもとへ向かう。


「クールなバイクだね、無駄な足掻きに変わりはないけど」


 奴は交差点の中心に待ち構えている。バリアは生み出せないのか、奴の周りには宙に浮かぶ破片しかない。破片を避ければ、奴のもとへ辿り着く。俺はスロットルを大きく回した、すると地面が割れるのかと思うくらいの激しい排気音が辺り一面に鳴り響く。


 走り出した瞬間、奴は縦横無尽に破片を飛ばしてくる。5センチくらいの、鉄で作られた破片は、俺の心臓めがけて飛んでくるが、それを俺は見極めながら避ける。倒れないギリギリまでバイクを傾けて、勢いづけてまた起き上がる。真正面から破片が飛んできたら、横に避ける。


 奴に近づきながら、少しだけ左にバイクを傾ける。そして奴が新たに破片を飛ばしてきた瞬間、俺はバイクから飛び、ハンドルを強く握り締め、ハンマー投げの要領でグルグルと回し……バイクを思いっきり奴めがけて飛ばす。


「なにッ」


 奴はすぐに破片で飛んできたバイクを飛ばそうとしたが、間に合わずに、顔面に鉄の塊を食らってしまった。そこから俺はすぐにスライディングし、倒れた奴の足元に潜り込み、後ろから首に手を回して思いっきり絞める。頭をグッと前に押し、より深いダメージを与えるように。


「殺されて、たまるか」


 奴が細い声で呟いたのと同時に……どこかから何十本もの破片が飛んできた。急いで俺は手を離し避けるも、そう簡単にはいかなかった。数の暴力、そのうち何本かは後ろから、俺の肩へと突き刺さった。しかもこれ、さっきよりも太く大きい、奴はまだ能力を隠していたのか。こんなに大きな破片を作れるなんて、聞いてないぞ。


 激痛を我慢しながら、後ろに刺さった破片を抜こうとしても、関節に刺さっているせいでどうしても抜けない。分かった上で肩に刺したのか、計算高い野郎め。


 しかし奴も、それなりのダメージを負っている。高速でバイクという名の鉄の塊をぶつけられ、首を思いっきり絞められた。奴は地面を這いながらも立ち上って歩いているが、その足からは血が出ており、真っ黒のローブには血のシミができている。フラフラで、立つのもやっとなはずなのに。


「そう簡単には終わらせない」


 奴が発すると同時に、地面からは氷の柱が、俺の心臓を貫くようにして生えてきた。すぐに避けたが間に合わず、柱は腹にブスリと深く刺さる。つららみたいな、先端の尖った柱は、地面から生えているせいで、動こうにも動けない。


 ガハッ……と、口から大量の血が漏れ出る。肩に刺さった破片は少しずつ進んでいる、やがては心臓に到達するだろう。肩がやられてるせいで、破片も取れない。深呼吸しようにも、腹に力が入らずに、空気すらも吸えない。ただ、口から血が出るだけ、いつかこの血で肺が詰まりそうだ。


「舐めないでよ、そう簡単に倒されやしない」


 奴は俺から距離を取ろうと、腹を押さえながら道を歩いている。待て、それはこっちのセリフだ。そう簡単に、俺も倒されやしない。腹に刺さった氷の柱を割ろうと何度も叩いても割れない、それどころか叩く度に肩の傷が広がり、ダメージを負う。


「惨めだね、今日のところはお開きにしておこう。私も楽しめたし。早く臣のところに行って」


 奴は俺に背を向けたまま、傷を押さえながら遠ざかっている。どっちの方が惨めだ、血まみれの俺か、敵から逃げるお前か。勝手にお開きとか決めるな、まだ終わってないぞ、戦いは。逃げるなんて許されない。


 それに、相手は俺だけじゃない。


 ショウもいるぞ。






 その瞬間、奴の頭上めがけて地下鉄の車両が降ってきた。それに奴は押し潰され、ブシャ……と辺りに血と肉片を撒き散らして、死んだ。


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