第107話 堕ちてゆく残骸

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 地面から生えてきたドリルみたいな、氷の柱によって……目の前を飛んでいたヘリコプターは、目の前で爆発した。そこには、ショウが乗っている。ショウだけじゃない、山岡と……鎌切さんが、乗っている。亡は、俺たちが乗っていることを知っていて、氷の柱を作り上げた。


 は、何が起きたんだろう。


 柱は天にも昇る高さ、それに貫かれて、ヘリは爆散した。後方の小さなプロペラが最初に爆発して、空中をグルングルンと回りながら、大爆発。おいおい、どうなってんだよ。ショウは、山岡は、鎌切さんは、どうなったんだ。まだ生きてるよな、さすがにな、こんな簡単に死ぬ訳ないもんな、どうなった。


 目の前で堕ちてゆく、燃え盛る残骸を見て、言葉を失う。次第にそれは空虚な吐き出しから、怒りへと変わっていく。


 亡、てめぇ、何をしたのか分かってんのか。お前が放った柱は、ショウを潰した。無実の民を巻き込んだ、鎌切さんを燃やした。山岡なんて、まだ何もしていないのに、死んだ。


「ヘリをビルの屋上に下ろせ」


 それだけ言って、俺はヘリの後ろのハッチを開け、飛び降りる。パラシュートなんて必要ない、空中で回転しながらポーチを開き、拘束ワイヤーを手首に巻いて固定してから、そこら辺のビルの壁に向けて発射。振り子についている重りのように、大きくスイングして地面に着地する。


「何をしている!」


 耳の中に響く声を遮断するため、俺はイヤホンをポーチの中に入れた。亡は、奴は俺の目の前にいる。この大通りの向こう側にいる、姿は見えなくても分かる。奴が作り出す氷の柱は溶け、ビルに液体となってドシャッ……と降り注ぐ。奴の能力は結界だけじゃない、このクソ野郎め。


「出てこい」


 それだけ告げて、手首に巻いていた拘束ワイヤーを、更にギュッと強く締める。すると、奴は姿を現した、自身の周りにバリアのような結界を張りながら。


「また会いましたね、星田健誠さん」


 青い仮面を着けた亡は、自身の周りに展開された水色のバリアと共に、こちらへ向かってきている。横浜周辺を囲うように張られた結界もまだ存在している。同時に2つの結界を作り出せるのか、それだけじゃない。空中で大破したヘリコプターの瓦礫を、またドリルに変化させている。


 あの中にはショウたちが乗っていた。STAGEの仲間が乗っていた。それをお前が壊した、そして、今度は俺を殺すための武器にした。燃え盛る残骸は次々に、黒焦げたドリルと変化していく。中には6人くらい乗っていた、後ろには武器が積まれていた。それすらも、あの爆発で全て無に還った。


 お前のせいだ、あの時に殺しておけばよかった。変に見逃したせいだ、雑の攻撃なんて痛くも痒くもなかった。いくら刺されようとも、いくらはりつけになろうとも、痛くなかった。今は、激痛だ。頭が痛い、腹も、声も出ない。てめぇら、俺の故郷と瀧口さんの故郷を壊した後は……ショウまで奪うのか。


「殺してやる!!」


 叫びながら、思い切り、手首を振り回す。手首にはワイヤーが、そのワイヤーの先はビルに繋がっている。あまりの勢いで、ビルにはヒビが入り、岩くらいの大きさの瓦礫が、奴に向かって降り注ぐ。それだけじゃない、ハンマー投げの要領で、ワイヤーに繋がっている岩みたいな瓦礫を、精一杯振り回す。


 ベギッ!!


 奴のバリアにビルの瓦礫を当てても、ビクともしない。それどころか、逆にビルの瓦礫が粉々になった。馬鹿な、アレはコンクリートの塊だぞ。そう簡単に粉々になるはずがない、どうなってんだ、こんな能力があるとは聞いてないぞ。


「無闇に攻撃しても、効果なんて無いよ」


 奴は煽りながら、粉々になった瓦礫をドリルに変え、それらを何百本か同時に飛ばしてくる。いつもみたいに反射神経で全て避けようとしたが……そう簡単には避けられずに、何本か腕に刺さってしまった。グサッ……グサッ……という肉の裂ける音と共に、辺り一面に血がブシャッ……と飛び散る。


 どうなってんだ、俺の体は。こんなの、いつもだったら簡単に避けられるはず。やっぱりか、集中できねぇよ、こんな状況じゃ。目の前にはヘリの残骸が、もう粉へと還っているけれども、そこにはショウたちが確かにいた。奴は、人間じゃない、こんな非道なこと、あってたまるか。


 気合を入れて、腕に刺さった破片を抜き、急いで修復する。しかし、奴は時間を与えてくれない。


「棒立ちなんて、余裕もちすぎでしょ」


 奴は笑いながら、次々に破片を飛ばしてくる。まだ腕の修復も終わってないのに。俺は血の滴る腕を押さえつけながら、急いで走って別の道路に逃げる。ここは横浜、都会が故にどこも通路が広い。もっと狭い通路はないのかよ……マズイな、血が止まらない。


「丸見えだね」


 奴は……俺の血の流れた跡を追ってきていた。血が止まらない、何をやっても。集中力が削がれているせいだ、体の修復も追いつかない。更に奴は瓦礫を飛ばしてくる。それを俺は走って避ける、それでも何本かは腕や足をカスり、


 グサッ!


 また新たな傷が増える。走って逃げてもキリがないことは分かっている。目の前は行き止まり、結界が張られているせいで。道路も行き止まりで、逃げ道がない。いつもだったら、奴を殴って切り抜けている。なのに……今は手も足も出ない、全身から血が出ているから。


「逃げたって無意味なのにね」


 そして奴は、大きな1本の破片を飛ばす。何とか集中して反射神経で避けても、左頬をカスっていき……また血が噴き出す。止まらない、顔から血が止まらない。頬を押さえて傷を治そうにも、力が入らない。激痛と苦しみで、体は徐々に蝕まれていく。


「やっぱり、臣の言う通りだ。イメータルで、貴方はバケモノに吹き飛ばされた時、体を押さえて傷を修復していたよね。他の能力者よりも早く傷を治していた、でもそれは集中しているから、仲間を失ったら……嫌でも集中できないでしょ?」


 奴はバリアを解き、倒れた俺に近づく。まさか、俺に勝つためだけに、仲間を殺したのか。全ては臣の仕業か……何やってんだよ、アイツ。真田なんて人間が存在しないのは分かっている、もう周知の事実だ。でも、アイツはショウとも話していた。いくら偽りの時間とはいえ……苦しくないのかよ。


「貴方を殺せば、戦闘能力者は全滅。今……アイツは戦闘に慣れてない。瓦礫を飛ばせば一発で死ぬ。だから……人類最後の希望と呼ばれている貴方と最後に戦いたかったの。何でか分かる?」


 何言ってんだよ、てめぇ。人類最後の希望か、俺はそんな優れた存在じゃない。自分の能力を手に入れた経緯すら分からない男に全てを任せるな、人類最後の希望は、STAGEだからな。俺が死んだあとは、みんながお前を殺しに行くから、待ってろよ。


「そんな反抗的な目しちゃって。何も変わらないよ……だって、今日から世界滅亡のカウントダウンがスタートするからね」


 奴は仮面を外し、笑った。中の人は女性とも男性とも言えない、中性的な顔立ちだった。どうなってんだ、今日から世界滅亡のカウントダウンがスタートする……意味が分からない、急すぎる。江戸崎は確か、2030年に計画が始動すると言っていた。まさか……今日なのか。


「何でわざわざ貴方に伝えたか。もう物事は進んでいるからだよ」


 奴は仮面を着け、少し離れてから振り返った。


「ここで貴方は、瓦礫に埋もれて死ぬ。遺言とかあったら言っとくよ、臣に。あ、でも『世界滅亡を止めろ』とかは禁止だよ。だって、もう止まらないから。名残惜しいなぁ、君と会うのはこれが最後なんて。最後にッ---」


 奴は何者かによって、吹き飛ばされた。






「俺はまだ死んでねぇ!」


 亡を蹴り飛ばしたのは、ショウ。


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