第106話 ヘリ、大爆発

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「出力最大、国立競技場へ急げ!」


 臣の発言は、場の空気を震わせた。あと2時間で東京に着くのに、奴らは「あと1時間で国立競技場に来い」と提示してきた。間に合わなかったら東京を滅ぼすとも、ただの脅し文句じゃなさそうだ、奴らは本気で東京を滅ぼすつもり。


 何なんだよ、朗報って。ただ奴らの思惑を受け取っただけで、何の喜ばしいこともない。


「JDPA_D本部でSTAGEの隊員と江戸崎を降ろし、星田を単体で国立競技場に向かわせる。なお、補助として平乃もサポートとして入る。国立競技場付近は避難区域に指定された。住民の避難を優先しつつ、私たちも戻るぞ」


 揺れ動くヘリの中で、俺はベルトを外し、装備を整えた。フルスロットルで加速するヘリで、普通の人間は立つことすら困難だろうが、こういう時こそ能力は役に立つ。強化された平衡能力で、酔わずに立ってられる。しょぼく見えるけど。


 ガジェットのポーチには、拘束ワイヤーが2本と強化されたエレクトリカル・スパークリング弾。これはスパークリング弾に電流を混ぜた、スーパーノヴァを超える威力を発揮できる武器。というか、ほとんどのガジェットが改良中で、よりによってあまり持っていない。JDPA_D本部にみんなを降ろす時に、ついでに持ってきてもらうか。


「で、悪魔の論文とは何だ?」


 そう聞いてきたのは、江戸崎。テレパシー能力を使っているから、この会話は他の誰にも聞こえていない。そうだったな、江戸崎はまだ何も知らない。アドレナリンを摂取した薬物使用者は、暴走した挙句に爆発することも、そう論じた悪魔がいることも、その悪魔が2010年に論文を残していたことも知らないのか。


「2010年に? 嘘だろう?」


 本当だ、確かに悪魔の論文は2010年に書かれていた。関東地方で、インターネットに誰かがアップロードしたが、すぐに誰かによって消されたため、誰にも発見されることもなくネットの海を漂っていた。不思議だが、ネットの海を探したら見つかった。


 政府が公式に薬物使用者の存在を認めたのは2017年、その7年前から既にDream Powderの研究を進めていた研究者がいる。


 奴の名前は悪魔、悪魔が残した論文によるとそう書かれていたが、俺はアドレナリンを摂取しても無事だった。2回もだ、2回目に使った時は記憶も明確に残っている。体が青白く光ったりと、普通ではなかったけれど。


「どうなっている。2010年からDream Powderが存在していたのなら、その頃から悪用されていただろう」


 それは俺にも分からない。また、悪魔の論文自体がデマの可能性もある。現に俺はアドレナリンを摂取しても、何事もなく生きているから。


 腰にはナイフと携帯式の警棒が、ハンドガンもあるがこれは奴らには効かないだろう。結局、近接戦闘が1番向いていると感じる。銃で遠くから撃っても当たらない、でもナイフで近くから首元を刺せば、相手は死ぬ。万が一、戦闘へ発展することを考えて、俺はヘリに搭載されていた非常用のナイフを取り出し、腰へ差す。


「関東地方の全ての研究所を捜索すれば、いつか見つかるだろう。私の能力を使えば、心当たりのある人物もすぐに見つかるはず」


 関東地方にある研究所、無茶だな。とはいえ、やり方はそれくらいしか思いつかない。江戸崎の能力も使えば少しは捜索が楽になるか……いや、今はそんなこと考えないでおこう。目の前にいる奴ら、臣の件について考えろ。奴は、俺を国立競技場に呼んで、何をするつもりなんだ。


「なら、悪魔の論文はどうやって見つけた? ネットの海をしらみ潰しに探したか? 違うだろう……見える。そのPCの技術か、それで探せば良いだろう」


 くそ、江戸崎にまだ言ってないことまで全て把握されてしまった。そうだ、ショウが乗っている方のヘリには高機能のCPUが搭載されたPCが積まれている。それは削除された投稿といった、ネットの海を漂う万物を発掘できる。しかし使いすぎると、すぐにショートする。


 そういえば……向こうのヘリを使って、米軍の基地に行ったんだっけな。だからアレには、たくさんの武器が積まれている。高性能のナイフとか、怪力スーツもあるはず。だったら、JDPA_D本部でみんなを降ろす時に、同時に武器も回収してしまおう。


 現在は神奈川県の横浜上空、最大出力で向かったから、あと20分くらいで本部に到着する。タイムリミットには間に合いそうだ。


 と、その時。江戸崎が叫んだ。


「奴だ!」


 その瞬間、ヘリが大きく揺れた。俺でも何かに掴まってないと立てないくらいに。急いで窓から辺りを見てみると……俺たちが乗っているヘリは、謎の水色の波にぶつかっていた。でもここは横浜の上空、海なんかじゃない。となると、奴っていうのは……亡か!


 ドゴン!


 ベギッ!


 そう考えていると、地面から突然、氷の柱のようなものが何本も生えてきた。それはヘリを貫くように真っ直ぐに伸びてくる。ドリルのように先端は尖っており、回転しながら地面から生えるのを、ヘリの操縦士は舵を切って避ける。


 結界は横浜を囲うようにして張られている。逃げられない空間、なのに下からはドリルのような氷の柱が。これは間違いない、亡の仕業だ。ドーム状に展開された結界、故に上から逃げることもできない。対処法はただひとつ、奴を殺すのみ。


「ショウ、亡が、横浜を結界で囲んでいる!」


「分かっ……そ……待っ」


 彼の声が聞き取れず、イヤホンを耳に詰めた瞬間、爆発音がドカンと、どこかから鳴り響いた。






 爆発したのは……ショウたちの乗っているヘリだった。


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