第100話 星田健誠の能力の秘密

----------


 俺がどうやって能力を手にしたのか、それは……心を読み取れる江戸崎にも分からなかった。また「政府の極秘実験で能力を手に入れた」というのも、臣の嘘だったことが判明した。佐野は極秘実験で薬物使用者を生み出そうとしたが、それは全て失敗したと話していたな。


「臣が知りたいのは『どうやって』ではなく『何故』だった。どちらにせよ、Dream Powderを摂取した記憶は見れなかった。そこから計画通りに、私たちは政府に宣戦布告をした。賛同者は集まったが、薬物に適応する人間は少なかった。それにSoulTのメンバー5人が本気を出せば、政府なんて簡単にひっくり返せることが分かった。そこで臣は待つことを選んだ。『世界は変化を求めている、世界は1つじゃない、来年まで待とう』と」


 臣、奴は何を望んでいるんだ。世界の変革を求めているように見えて、実際は世界滅亡を望んでいた。「世界は変化を求めている」と言っておきながらも、本人は世界を滅亡させたい。そのことをメンバーは知らなかった、相手の心を読み取れる江戸崎しか知ることができなかった。


「復讐心しか頭になかった私は……悪事に手を染めすぎた。君の幼馴染を事件に巻き込んだのも私だ、彼の頭を撃ったのも」


 それを聞いた瞬間、俺は無意識のうちに立ち上がり、奴の顔面を強く1発殴っていた。バチッ……と激しく肉の割れる音と共に、衝撃で奴は壁に頭をぶつけていた。洗脳されて殺したんじゃない、自分の意思で殺したんだ。ミチルを殺したのは、お前だったのかよ。もう1発殴ろうとしたが、ショウに取り押さえられた。


「やめろ、殴ったらアイツは死ぬ」


 仕方なくキッチンから白いタオルを取り、血で真っ赤になった顔を拭いた。手加減もできなかったが……奴は俺の拳を避けようとはしなかった。殴られるって分かっていたはずなのに、誠意を見せたかったのか、避けずに顔で受け止めた。


「痛いな、しかしこれも仕方がない。傷はいくらでも治せるが、君の幼馴染は帰ってこない。ここで殺されてもいいくらいだ……話を戻そう。アメリカで実験を受け、公式に能力者となったショウくんが日本に来た。JDPA_Dの武器が増えたというのに、臣は興味を示さなかった。秋葉原で、君がイメータルの信者の爆発を真正面で受けたのにも関わらず生き残ったのを見て、私たちは確信したよ。Dream Powderの上位互換の存在をね」


 あの液体のことを考えないようにしたとしても、どうせ奴には見透かされる。無理に隠す必要も無いな。Dream Waterのことだろう、奴が言いたいのは。マザーストーンから採取した液体で、高濃度なため一般人が摂取すれば即爆散するとのこと。


「なるほど、アメリカはそう呼んでいるのか。現物を見せる必要はない、君たちがどうやって2つ目の能力を手にしたのか判明しただけでも分かって良かった。マザーストーンか、私にも分からないが……恐らく、力の源だろう。臣はDream Powderについて『日本には無限に眠っている』と述べていた。Dream Powderは無限に存在するということらしい」


 臣はどこまでの情報を持っているんだ。Dream Powderの上位互換であるDream Waterの名称は知らないのに、Dream Powderに関してさも知ってるかのように語るとは。Dream Waterは米軍から渡されていて、1本だけ残っている。でも、奴は興味がないみたい。


「宗教組織・イメータルは、教祖の言葉に従って巨大な生物となった。この事件も、私たちが起こしたものだ。『イメータルの教祖は、JDPA_D及び警察を憎んでいる』と聞かされていたから。生命の集合体は品川を燃やし、私たちは星田くんから能力を剥奪した。しかし、それが過ちでもあった。イメータルに教祖は存在しなかった、全ては佐野と臣が作り上げた、都合のいい薬物使用者の集いであった」


 何だと……イメータル自体が佐野と臣のものだったのかよ。つまり、イメータルは怪しい宗教組織ですらなかった。品川を燃やし、俺の能力を剥奪して追い込むためだけに、教祖を信じ続けた無垢な信者は騙されて死んだ。こんなことがあってもいいのかよ、それに佐野は……非道だ。臣がイメータルの居場所を知っていたのは、それが理由か。


「君たちが指名手配されたのを、私はニュースで初めて知った。臣も『計画にない』と話していた。同じく政府に陥れられた仲間として君たちを助けたかったが、それは臣に止められた。だが……私はどうしても君と話したくてね。コンビニに呼んだだろう」


 それを聞いた瞬間、また無意識に手が出ていた。気づいた時にはもう遅く、俺の拳は奴の腹に食い込んでいた。ショウに止められた、これは仕方ない。コンビニの店員やたむろしていた学生は、罪もないのに殺された。ミチルもそうだし、彼らもそう。軽く血を噴き出した奴の口を白い布で拭き、話を続けさせた。


「分かっている、ただ復讐心に身を飲まれると君らもこうなる。覚えておいてほしい、君たちはDream Powderを手にしている。その時点で、どう足掻いても人間ではない。死ねば爆発し、生きれば能力者となる。世界が滅亡すれば全てが平等になるが……私は望まない」


 俺とショウは顔を見合せて、頷いた。絶対に、復讐心に囚われた行動はしない、そう意気込むように。


「数週間後、君たちの疑いが晴れ、佐野が死んだ。同時に、臣は君の前で正体を明かしたそうじゃないか。色々とあって、私たちは小田原城に向かった。『星田健誠の故郷を破壊する』と言い出して。『意味もない破壊は無意味だ』と雑は考えていたが、そのまま決行。その時、私は臣の考えを読めることに気がついた。読んだ時に見えたのは……世界滅亡。そこから、私は逃げた。『復讐は果たされた、彼女の墓参りに行きたいから数日だけ時間が欲しい』と伝えて」


 テレパシー能力があるから、江戸崎は雑と会話できるのか。佐野が死んでから臣はすぐに小田原城を破壊した。俺の故郷で、幼馴染が死んだ場所。雑も疑問に思っていたのなら……もしかしたら味方になれる可能性もあったかもな。さっき俺が殺したが、殺しに来たから仕方ない。抵抗しなきゃ、殺される。


「そして、今に至る。知っていることは全て話したつもりだ、さぁ。契約を結ぼう、私をここで殺してもいいが、そうすれば世界は滅亡する。信用できないのも分かるが、死ぬ訳にはいかない」


 契約、単純に今を殺さないように要請するだけの話。でも、奴はSoulTのリーダーだった。奴のせいで家族を失ったものも多い。今までの薬物使用者だって、ほとんどSoulTが裏で手を回していたんだろ。それでも、俺が見るべきなのは現在だ。失った命はどうにもならない、だからこそ現在を見る。


 少し離れた場所に行き、ショウと小声で話す。絶対に心を覗くんじゃねぇぞ……とだけ、心の中で強く念じておきながら。


「星田、俺はアイツを許さない。だが奴の……世界滅亡という言葉に嘘は含まれていない。だから俺は奴のことを信じてみる」


「……分かった。奴をどうする?」


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る