第99話 能力を手に入れた理由

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 臣は、世界征服ではなく世界滅亡を望んでいるのか。それにしても、何でだ。世界滅亡を望む理由がまず分からない。地球滅亡を望む宇宙人ならまだしも、地球が嫌いな地球人なんているのか?


「世界滅亡を遂行したい理由は私にも分からない。そのまま思考を覗こうとしたが、臣に止められた。思考を覗いていることが、臣にバレてしまった。だから私はSoulTから抜けて、逃げた。このままでは私は殺されてしまうだろう、だから星田くんにだけでも、情報を渡そうとした」


 臣の最終目標は世界滅亡、それを伝えるために江戸崎はここまで来た。亡は渋谷に結界を張り、雑は密室空間で暴れ回っていた。絶対に江戸崎を殺したいという意志が見えるな。連れ戻したいとか言っていたが。


「雑が倒された今、SoulTはより慎重に動こうとするだろう。しかし……臣はこの状況も楽しもうとする。臣は警察内にスパイとして侵入していたが、そのようなことは教えられなかった。全てが終わった後に語られたのだ。『星田を騙して情報を手に入れた』と、軽い口調で」


 俺が考えていた真田とはかけ離れている、というかそもそも真田なんて人間は存在しない。恐ろしいな、臣。奴はSoulTの結成者で、薬物使用者ですらない人物をスカウトしていた。奴は江戸崎に復讐心を植え付けるためだけに、江戸崎の恋人を殺した。目標を達成するためなら、何でもする男だな。


「私の復讐は果たされていない。しかし単身で乗り込めば臣に殺される。ここで目的が一致している君たちと、契約を結びたい。臣とSoulTを倒せば、世界滅亡は防がれる。このまま私たちが死ぬと、世界は滅亡する」


 悪魔の契約だな、目的が一致しているとはいえ……奴は悪人だ。警察と連携しているSTAGEの一員として、悪人と取引することは断じて許されない。しかし、一方でショウはその契約に乗り気だった。


「SoulTの情報を今、ここで全て話せ。真実だけをな、全て話せば契約しよう」


 ショウは真剣な眼差しで、奴の鋭い目を睨みつける。そう伝えられた江戸崎は、ニコッと笑い話し始める。


「SoulTの情報といっても、全ては分からない。私は臣に誘われ、SoulTに加入した。その時、メンバーは2人だけ。そこで私の手にしたテレパシー能力と、臣の持つ能力を使って、メンバーを集めていった。ゾウボウハク、みんな政府に対する復讐心を抱えていた。そこから私たちは、必死に訓練をした。努力すればするほど、DPに対する耐性が生まれ、能力が強化される。中には、2つの能力を手にした者もいた。ちょうどこの時、雑は人間を捨てて獣となった。テレパシー能力のお陰で、彼とも対話できていたが」


 そうやって江戸崎は、SoulTに関する情報を語り始めた。SoulTの結成秘話、5人のメンバーの名前、どれも初めて聞くものばかり。それに、2つの能力を手にした者がいるとは……俺も訓練を積めば新たな能力を手に入れられるのか?


「私も実は、2つの能力を持っている。1つはテレパシー、星田くんの脳内に直接語りかけたのはコレだ。もう1つ、相手の心を読む。両方ともテレパシーみたいなものだが、厳密には異なる。それを私は同時に使っている。君たちが何を考えているのかも分かるが……そう警戒しないでほしい。これは仕方のないことなんだから」


 江戸崎、今。こう見ると、敵に回したら厄介な存在だな。前までは『お前の思考を読みたいとは思わない』なんて言っていたのに。『思考を読める対象は限られている』とも言っていたな。あれは嘘だったのか、それとも訓練してみんなの思考も読めるようになったのか。


「暴れ狂う獣となった雑は、1つの能力に集中した。『力を使うのに、人間の体は必要ない』とも語っていた。しかし獣となったからには、弱点が必要となった。雑の弱点は目、それだけのこと。続いて、亡は2つの能力を手にした。1つは結界、渋谷駅周辺を囲っていたのは分かるだろう。薬物使用者のみ、結界を視認できる。もう1つは、瓦礫や破片を武器に変換するもの」


 雑は1つの能力を、亡は2つの能力を強化した。結果的に雑は死んだが、亡はまだ生きているだろう。武器に変換する能力も厄介だった。


「続いて白の能力は……厄介だ、高速で移動できる。光速を超えないギリギリの速さと聞いた。細かいことは私にも分からない。1日に3回しか使えないと聞いたが、範囲は無制限で厄介なことに変わりはない。もう1つは、剥奪能力。これは分かるだろう、相手の能力を剥奪して、自分の能力を補強する。君の能力は、白に奪われた」


 高速移動、Dream Powderを使えばそんなこともできるのか。それなら科学の進歩に能力を使えよと言いたくなる。ノーベル賞だって夢じゃないのに。そして剥奪能力、これは身をもって体感した。実際に奴に能力を奪われたからな。


「そして臣、彼の能力は分からない。ただ『Dream Powderに適合する人間を探すのに特化した』能力としか聞いていない。何個持っているのかも分からない。聞けなかった、聞いてはいけないオーラを感じていたから。そうして2029年の夏までは、裏で活動していた。君、星田健誠くんがJDPA_Dの武器として現れるまでは」


 SoulTのリーダーであった江戸崎ですら、臣の能力は分からないのか。警察に潜入していたのも、俺たちと接触するためだけじゃない気がしてきた。俺もショウも、江戸崎も知らない、また別の裏の顔があるような気がして。


「私たちも困惑したよ、Dream Powderに選ばれるのは決まって復讐心を抱える人間のみ。力を手にしたら最後、後は復讐のことしか考えられなくなる。なのに君は力を制御できている、何故だ。その時、臣は言った。『世界に宣戦布告し、賛同者を集める』と。そこからまず、池袋で君に接触し、心を読み取ってみた」


 池袋にSoulTのメンバーが4人も集結していた理由、それは俺に会うためか。池袋駅前合同捜査も、既に警察に潜入していた臣が情報を吹き込んだのかもな。


「しかし……何故か君はDPを摂取した時の記憶を失っており、私にも見えなかった。臣は君に復讐心を植え付けるために『政府の極秘実験で能力を手に入れた』と嘘をついたが、それも違う」


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