第98話 世界征服の向こう側

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「どうなってんだ……」


 STAGEに助けを求めてから1分後、翼を着けたショウが現場に到着した。雑の爆発によって崩壊しかけたタワー、雑の足跡でボロボロになった道、雑が暴れ回ったせいで破壊された渋谷駅。それだけじゃない、獣に踏み潰されたであろう人の遺体が渋谷駅前に転がっていた。


 同時にJDPA_Dの特殊部隊も現場に到着、彼らはまず結界に取り残された人々の救助作戦を遂行していた。俺らSTAGEは、現場の確認と薬物使用者の事件の概要を調査する。とは言っても、誰も何が起きたか理解できていない。


「30分ほど前に通報があった。『渋谷駅に向かっていた電車が途中で脱線した』との。どうやら透明な壁が形成されていて、先頭の3両までは結界内に、残りの6両は結界の外に取り残された。そして俺も向かったが、見えたんだよな、水色の壁が。他の人は透明な壁と言っているが」


 この結界は、もしかしたら薬物使用者にしか見えないのかも。俺には水色の波みたいな壁が見えたが、民間人らは透明な壁だと騒いでいた。


「それで、結界が解けたと思ったらお前から連絡があった。この爆発痕、薬物使用者のだろ。SoulTのメンバーを殺したって、どうやった? いや、それよりも何があったか聞かせてくれ。俺も本部も何も把握できていない」


 俺は今のことについて触れずに、経緯を話した。


「渋谷に来たら結界が張っていて、中で雑という象みたいな獣が暴れていた。警察官も対抗していたけども踏み潰された。続いてSoulTの亡という、青い仮面をした人が来た。雑も亡も、薬物使用者で、SoulTのメンバー。それで……弱点を見つけて倒した」


 今について触れずに話せばこうなる。ショウは俺の発言を疑い、更に問い詰めてきた。


「お前は仕事だろ。何で渋谷なんかに。それに、SoulTのメンバーをそう簡単に倒せるのか?」


「……色々あった。今は話せない」


「俺には話してくれ。共に指名手配された仲だ、スパイだと疑いたくなる気持ちも分かるが、今はそれどころじゃない。SoulTだぞ、下手に隠せば政府にバレる」


 そうだったな、ショウには見極めの能力があった。下手に嘘をつけば彼にバレる、それに政府にバレたら面倒臭いことになる。今はSoulTを抜けたとはいえ、犯罪者であることに変わりはない。その奴と裏で関わっていたとバレれば、厄介だな。今度は説明する前に殺されるかも。


「分かった」


 それだけショウに伝えて、頭の中で念じる。どうせ、奴は渋谷にいる。それに俺とショウの会話も、奴には筒抜けだろう。ショウは俺と同じく薬物使用者で、指名手配された。佐野と真田、臣に陥れられた組でもある。だから彼のことは信用してほしい、まぁテレパシー能力を使えば分かるだろう。


「いいだろう。地下街を通って原宿方面に来い。青のコーヒーカップに、赤いコーヒーが注がれている看板が目印の喫茶店にいる」


 これは今のテレパシー能力で届いた声。奴のことだから、目立たない路地裏とかで集まるのかと思いきや、お洒落な喫茶店に居たとはな。想定外だ、何なら地下街の裏口に居てほしかった。今から向かう……と心の中で念じ、腹の傷を修復しながら向かう。


「今からショウに会ってほしい人がいる。よく知ってる人物で、敵じゃない。でも世間から隠れて生活しているから、彼に会ったことは誰にも言わないでほしい」


「分かった。JDPA_Dには『STAGE本部に戻りつつ、星田健誠の傷を修復する』と伝えておいたから怪しまれないだろう。それで、誰なんだ?」


 答えは言わずに、体の傷を治しながら歩く。チーター並みの速さで走る、頭にユニコーンみたいな金属の角を持った象と戦った……文字だけ見れば意味が分からないな。白いスーツには赤い血がにじんでいる、もうこれは着れないな、血は洗濯しても落ちにくいから。


 少し歩くと、奴の言っていた喫茶店に辿り着いた。青いコーヒーカップに赤いコーヒーが注がれている看板がある、独特なセンスをしているな。地下に続く階段を進み、扉を開けると……奴は自然と中にいた。他の店員や客は避難したのか、中には誰もいない。それもそうか、ここは結界の中だったから。


「お前は……SoulTのメンバーか!」


 机の上に置かれた赤い仮面を見てショウは叫ぶ。しかし銃は取り出さない、俺から事前に聞いていたから。言ってなかったら、勢いでこのまま射殺していただろう。奴はコーヒーを飲み、くつろいでいる。仮面も着けていないが、黒いローブを身につけているから怪しさは満載。


「初めまして。私は……キョウだった。もう違う、江戸崎信哉という名前は捨てたはずだったのに、また使うことになるとは」


 ショウは奴とは初対面なんだろう。かなり怯えている、心拍数も上がっている。でもショウは強い、冷静な表情をしたまま奴に詰め寄っていく。


「俺たちに何の用だ?」


「話をしに来た。まずは座った方がいい、立っていると疲れるからな」


 暗いバーのような喫茶店の中で、2人は向かい合って会話をしている。奴はコーヒーを飲んで余裕そうに、一方でショウはかなり焦っている。というか、俺も人のことを言えないくらいには焦っている。何で奴が平気そうにここにいるんだ、さっきまでSoulTに命を狙われていたのに、奴がいたから渋谷が結界に囲まれたというのに。


「星田健誠くん、言っておくと私もかなり焦っている。この喫茶店の外に出れば、捜査官に捕らえられるのではないかと不安でね。テレパシー能力があるからまだ安心できているが。それより、ショウくんは全ての事情を知っているのだろう、私が指名手配犯として命を狙われていることも、佐野に恋人を殺されたことも」


「ああ、知っている。でもお前は犯罪者、例え佐野に関する件が無実だったとしても、お前は犯罪者だからいずれ捕まる」


「リスクは承知している。死刑になろうとも、君がその選択をするのなら構わない。しかし、SoulTは別だ。奴らは臣の作戦を遂行するために戦い続けるだろう、私を死刑にすれば、奴らを止められないまま死ぬぞ」


 こうも脅されてしまえば、何も言えない。俺も向こうから椅子を取り、喫茶店のキッチンから冷めたコーヒーを手に取ってから、話を聞くことにした。


「私はテレパシー能力が使える。臣の脳内をいつも覗いていたが、臣はいつも世界をどう良くするかを考えていた。世界征服とはかけ離れた、誰もが自由に暮らせる世界を。でも、それすらも臣の罠だった。佐野が裏で私たちに洗脳をかけていたのだ。疑いを持つ者に効果がある、君たちの同胞もかかったマインド・コントロールだ」


 薬物使用者であるSoulTも、マインド・コントロールにかかっていたのか、意外だな。臣は裏で佐野とつるんでいたのに、江戸崎はテレパシーで感じることができなかった。理由は簡単、それすらも洗脳で抑え込まれていたから。あえて佐野に疑惑を持たせることで、洗脳を可能にしたのか。


「佐野が死に洗脳が解けた。そこで私は臣の頭を覗いた。すると……何も読めなかった。何が書いてあるのかさっぱりだった。しかし、あるキーワードだけは分かった。それは……世界滅亡」


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