第101話 はじめまして

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 結局、江戸崎は恵比寿のホテルにて軟禁することとなった。そう、俺も暮らしている、STAGEの直上にある、あのホテル。ショウの考えで、ショウによると「お前が近くにいたら、奴も能力を使えないだろう」とのこと。部屋は離れているが、正直不安。


 同時にSTAGEの一部の信用できるメンバーを呼んで会議。ショウ、山口課長、目黒さん、瀧口さん、鎌切さん。何人かは別の用事で来られなかったから、後で口頭で伝えておこう。山岡は呼ばない、新人だし……臣のようなことがあったら怖いから。新入社員を疑うようなマネはしたくないけど。


「それで、話とは?」


「単刀直入に言います。SoulTのリーダーが僕に接触してきました。彼は『SoulTを抜けた、情報を渡すから契約を結ぼう』と申し出たため、現在、安全な場所で軟禁中です」


「何をしているんだ?」


 最初に声を上げたのは、山口課長。すぐに立ち上がり、テーブルに手をかけて問いかける。


「相手は極悪の犯罪者、国際指名手配犯だ。君はSTAGE及びJDPA_Dの許可なく、勝手にSoulTのメンバーと接触したのかね。それだけではない、軟禁とは何だ」


 質問を受けて、すぐに答える。


「SoulTの真の目的は世界征服ではなく、世界滅亡です。江戸崎の恋人は佐野に殺されたのではなく、臣に殺されました。それを知った江戸崎は、今という名前を捨ててSTAGEと組もうと---」


「甘ったれたことを言うな。奴らは私たちの仲間の命を奪った集団だ。これも罠に違いない、そもそも君も何故、奴のことを信用している? 私は君を信じたい、指名手配された時も君を信じた。それは君が誠実な人間だからだ。とはいえ、奴は指名手配犯。君がどんなに誠実だろうと、仲間の命を奪った奴を仲間に入れるのは……彼らに対する冒涜だ」


「僕は江戸崎を信用していません。ですが、奴の復讐の矛先は臣、目的は一致しています。それに、江戸崎は仲間ではありません。情報提供者です、同時に薬物使用者であり、能力者です。江戸崎をこのまま死なせる、もしくはSoulTに戻すとなると、ますます状況が厳しくなります」


 表情が厳しくなった山口課長は、どうにか冷静さを保とうと必死に頭を回転させている。対して、他の人たちは声すら上げない。納得しているからではない、声を失っているから。瀧口さんは、俺のことを冷たい目で睨んでいる。鎌切さんは、目を押さえて考え事をしている。目黒さんは……変わらず俺の目を見ている。


「私が新たに手にした能力、見極めで江戸崎の発言を見ました。そこに嘘は含まれていませんでした。改めて提案します。江戸崎を一時的に保護し、情報を捜査に利用しましょう。江戸崎はSoulTの結成当時から居ました。情報を使えば、他のメンバーを特定できるかもしれません」


 ここで声を上げたのは、ショウ。定義上の役職でいえば、山口課長よりも偉い。でもショウは全ての権限を山口課長に返しているから……この意見も通らないだろう。


「君も誠実で、苦労をした人間だ。それでも、江戸崎をそう簡単に信用する訳にはいかない。仮に私が案に賛成したとしても、上は絶対に通さない。それどころか、私たちを逮捕するだろう。ここで私が何の行動も起こさないことを感謝してほしいくらいだ。STAGEは脆い、いつ奴らに破壊されるかも分からない」


 この意見に、俺は何も反論できなかった。その通りだから。江戸崎のことを信用していない、なのに俺たちは江戸崎の情報を捜査に利用し、それ以上の提携を求めていた。どんなに奴の言葉に嘘はないと、俺たちが感じたとしても……みんなには伝わらない。一体、どうしたら事が進むんだ。


「私に……直接会わせろ」


 この声は、江戸崎かよ。何で能力を使っているんだよ。それに、ここは地下室だ。地下まで声が届くのか。お前は10階の部屋にいるのに。それに、今お前を山口課長に会わせたとして、どうなる。JDPA_Dに通報される可能性だってあるんだぞ。


「私を信じろ」


 だから、能力を使うなと言っているのに。このまま何もしなければ、今は誰にも保護されずに、SoulTに捕まって死ぬ。世界滅亡計画も果たされてしまうだろう。それよりはマシだが、江戸崎と協力するということは、亡くなった方々への冒涜行為と見なされる。


「どうした、そんな苦い顔して。ところで俺はもうすぐ定年だから、老人の意見として聞き流してくれ。世界が滅亡すれば、全てが無になる。亡くなった方への冒涜だとか、そんなこと言ってられない。俺もSoulTのせいで、家族を失った。だからって、星田の意見には反対じゃない」


 明言はしていないが、賛成ということなのか。しかし、誰も声が上がらない。やっぱり江戸崎の案を試してみるべきなのか。


「なら、江戸崎に会いますか。本人と話して、本人の言葉の真偽を自分で確認してから、全てを決めましょう」


 その案を、山口課長は受け入れてくれた。洗脳される可能性だってあるのに。対して瀧口さんは、断固拒否の姿勢を示した。移動させるために、ショウがみんなを誘導している中、彼女だけは動かなかった。みんなはショウに任せて、俺は彼女の元に残り話を聞いた。


「瀧口さん、お願いします」


「何でそんなに平気でいられるの。幼馴染、殺されたんでしょ。江戸崎だって、結局はSoulTであり極悪な犯罪者。もう濡れ衣とか言ってられないよ、世界に宣戦布告した相手をそう簡単に受け入れるものなの?」


「そうじゃなくて……僕は奴を信用していません。とにかく、世界滅亡を避けたいんです。少なくとも、ショウの見極め能力を通してもそこに嘘は含まれていなかった」


「そう簡単に信じられない、能力だって、Dream Powderだって。何がどうなっているか分からないよ、爆発を起こす能力とか洗脳する能力とか、そんなの漫画だけの世界だと思っていた。仮に江戸崎を捜査に利用するとして、どうするの? 江戸崎を保護するの? SoulTは永遠に追ってくるでしょ、渋谷でも何十人が巻き込まれて亡くなった」


「……行きましょう。世界滅亡を防ぐ方法は限られていますから」


 こうして、俺たちは江戸崎に会いに行った。三重に鍵をかけた部屋の中に入ると、中にはベッドも何もない謎の空間が。これもショウが急遽作り上げた、軽い軟禁部屋。ポツンと椅子が置いてあるだけの、質素な空間と言い換えるべきか。


「まさか、本部の直上で軟禁していたとは」


 幸いにも、テレパシー能力を持つのは江戸崎だけ。よって居場所の特定は困難とされる。前回バレた理由は……偶然にも奴の恋人の墓が渋谷近辺にあったから。『渋谷を探せば今がいる』と思っていたのかも。たまたま俺たちの待ち合わせ場所と被っただけ、だから江戸崎が結界の外に居たことを奴らは知らなかった。


「初めまして。私は江戸崎信哉です」


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