第93話 副作用

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 ハルデリック刑務所での戦いから23時間後、俺は東京にあるJDPA_D管轄の総合病院で目覚めた。フカフカなベッドに寝かされていたみたいだ、第三部隊の隊長が刺した注射によって、俺は眠らされていたんだろう。無理もない、許可なくアドレナリンを摂取したのだから。下手に動かせば起爆するし。


「起きたか」


 ベッドの横には、傷だらけのショウが立っている。手当てもしてもないのか、すり傷だらけの顔にはテープも何も貼られていない。ベッドから起き上がって動こうとしたが……何故か体に痛みが激しく走る。


「無理するな、今は安静にしろ」


 そういう彼の顔も傷だらけじゃないか。俺と違って治癒能力は優れてないんだから、自力で治すには無理がある。一長一短、だから俺は飛べない。そんなことはどうでもいい、どうしてこんなに痛いんだ、体が。アドレナリンの副作用か?


「アドレナリンをお前が勝手に摂取したからだ。爆発を抑えるために、お前の体全体の働きを抑えている。少しでも動けば痛いだろ、それは我慢してくれ。1週間経てば元通りになる」


 今日は12月29日、数日寝ると正月なのだが。年を越しても俺は自由の身じゃないってことか。仕方ない、これも瀧口さんのためだ。アドレナリンを使わなければ、俺は勝てなかったし、彼女も救えなかった。山崎義三の手によって燃やされていたかも。


「瀧口さんは?」


「実家にいると聞いた。お前の荷物は彼女の実家にあるんだってな。まぁ数日経てば届くだろう」


 良かった、彼女も無事か。その上、俺と違って実家に戻ることができている。正月もあのまま実家で過ごせるのかもな。というか、荷物なんてどうでもいい。スーツくらいしか持っていってないし。


 昼なのに部屋は暗く、小さな灯りしかついていないため、ショウの話す顔が不気味に映る。陽の光が全く入ってこないぞ。雨音は聞こえないし、雨や曇りではないんだろう。となると、ここは地下室か。特級の爆発物扱いか、それは仕方ないけれども。


「それと、山崎義三について。山崎は警察にスパイを潜入させていた。瀧口に嘘の通達を秘密裏に送り、梅田に会わせ、ハルデリック刑務所に誘い込んだ。『誰も連れてこない約束』で呼んだはずなのに、瀧口はお前を連れて行った。それが功を奏したのか……今に至るって訳だ」


 やっぱり、瀧口さんは誰かに依頼されて梅田に会いに行ってたのか。休日なのにも関わらず刑務所に向かっていた理由も、極秘の依頼だったから。でも、何で俺を連れて行ったんだ。実家に呼んだのも、刑務所に連れて行ったのも。まぁ、野生の勘が働いたんだろう。俺が行かなければ、囚人らは脱走していたし。


「ついでに梅田は脱獄せずに、山崎義三の命令に背いたため、弁護士と共に捕らえられていた。それに佐野の一件により、再考の余地があると認められた。法案が可決すれば、濡れ衣を着せられた人達の生活も元に戻る。良かったな、俺たちも罪に問われないそうだ」


 梅田も俺たちに反抗していたが、それは本心から来たものだったか。山崎の脱獄計画に賛同していたら、彼は立派な犯罪者となっていただろう。いくら濡れ衣を着せられたとはいえ、脱獄は犯罪だから。よかった、梅田の家族も少しは救われるはず。救われることを祈っておこう。


 法案というのも噂では聞いていた。佐野が起こした事件は国際社会の信頼を失うもの、だから政府は佐野の起こした悪事を抹消すべく、被害者を救う法案を作った。被害者を抹消する道ではなく、救う道を選択した。これで梅田だけではない、他の被害者も救われる。


「それだけじゃない。"アクセント・ネイサン・カミヤマ装置"の開発も着手された。佐野の極秘開発チームが研究データを隠し持っていたみたいでな、少しはマシな世の中になるはず」


 そう、佐野のおかげで、潜伏している薬物使用者と一般人を見分ける装置の開発が進められている。従来の装置では確認できなかった薬物使用者の放つ見えない熱波を、機械で感知して本部に送るという装置を、どうやら佐野のチームが極秘のデータで開発していたらしい。もちろん完成はしていないが、完成すれば危険は一掃される。


「ただ、懸念点もある。その開発チームのメンバー全員が自殺した。電気ショックを与えるブレスレットを身につけていたらしい。山崎を倒した衛星のレーザー攻撃の弾を作ったのも彼らで、弾数は残り2。今すぐに複製するのは困難と見られる」


 電気ショックを与えるブレスレットか、池袋で戦った格闘家が身につけていたやつか。SoulTの奴らが遠隔で人を殺すために、裏切り者を処罰するために着けさせたもの。臣は佐野だけでなく、佐野のチームごと消し去ったって訳か。あのレーザー攻撃も限りがあるとなると、大変だな。


 SoulTの奴らは世界に宣戦布告し、社会を恨む様々な薬物使用者を使い、戦ってきた。その裏には警察の佐野がおり、もはや全ての戦いが茶番かのように思えた。でも、SoulTは死んでなんかいない。残り、5人。奴らさえ潰せば、世界で暗躍する薬物使用者全員を倒せる。


「……すまないが、面会時間は15分と決まっている。次は1月1日か、その時に会おう」


 そう言って、ショウは部屋から出ていった。無機質な壁に囲まれた部屋にはどこか、恐怖心を覚えた。やっぱり、ここは地上なんかじゃない。


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