第82話 真田の正体

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 夜が明けてから、俺はSTAGE本部に出勤した。何週間ぶりだろう、正しい形で来れたのは。因果関係があるかは分からないが、俺はものすごく緊張している。まぁ、いつも通りの仕事をこなすだけだ。暴れる薬物使用者を倒す、ヒーロー。


 それと、昨日のことは夢じゃなかった。SoulTの臣が真田という偽名を使ってJDPA_Dに潜入していたこと、そこに誤りなんて含まれていない。その上、奴らは俺の育った故郷を爆破した、正確に言えば街のシンボルを。これは明らかに、俺に対する宣戦布告だ。


 じゃあ今まで何だったんだ、俺は真田を信じてここまでやってきた。カイブツ戦の直前に、真田は情報屋として作戦会議に参加し、様々な情報を提供した。イメータルの本拠地の位置や人数など、どれも正しかった。これも佐野から聞いていたのか、邪魔になったイメータルを切るために。


 同時に俺からの信用を得て、かつ佐野が邪魔になった奴らは、佐野を殺すためのシナリオを考えた。これも全て真田の、いや、臣のシナリオだったという訳か。許せない、奴らの行動全てが。何が世界の救世主だ、破壊からは何も生まれないぞ。


 本当なら、今頃俺は小田原にいたはず。なのにJDPA_Dが俺をSTAGE本部に留めた。「君は本部で休むべきだ」という通知が来たが、それは建前。真実は俺をこれ以上絡めたくないんだろう、SoulTの犯罪に。国際社会からの信頼を取り戻すためにも、JDPA_Dは俺とショウを対薬物使用者の武器として運用していきたいはず。


 何がともあれ、今日は久々の勤務だ。さっきまで泊まっていた恵比寿のホテルの駐車場からSTAGE本部に移動し、久々に扉を開けると……そこではみんながクラッカーを手にして待っていた。


「復帰おめでとう!」


 パンッ……という派手な音と共にクラッカーが鳴り、笑顔で楽しそうなみんなに俺は出迎えられた。クリスマスだというのに、出勤。飾り付けも何もない、窓もないから雪が降っていても分からない。そんなSTAGE本部でも、冬が感じられた。


「はい、復帰のお祝い」


 と、瀧口さんからマフラーを渡された。室内だから既に暖かいが、試しに首に巻いてみるとより暖かくなった。久々にみんなとこうやって触れ合った気がする、つい最近まで濡れ衣を着せられていて、警察から逃げ回っていたからな。


「クリスマス気分は終わりだ、それで話とは?」と、山口課長から聞かれた。俺が今日の朝、みんなに送ったメッセージについてだろう。そもそも、STAGE解体の話は白紙になり、みんな戻ってきた。瀧口さんも山口課長もエヴァローズさんも、西山さんもショウも目黒さんも、みんな。


 でもこの場にいるのは少ない、ショウと目黒さんは九州地方で起きた爆発事故を調査しに向かった。恐らく薬物使用者の仕業だろう、奴らはクリスマスも関係なしに問題事を起こすからな。西山さんは佐野との決戦で操られた民間人の保護で、鎌切さんと坂田さんは捜査一課の人間として佐野の残された謎を追っている。


 オペレーターや新たに配属された捜査官を除いた数名を奥の会議室に呼び、俺はあることを話した。


「真田の正体は、SoulTの臣です」


 それを聞いた彼らはみな、俺と同じ表情をしている。真田から直接聞かされた時と同じ。いや、あいつは真田じゃない、その真田というのも偽名。臣、あいつは捜査官を騙って俺たちに近づいた、それも全てシナリオ通りに佐野とイメータルを倒すため。


「……そんなこと、有り得るのか?」


「昨日、真田から告げられました。目の前で仮面を着け、能力を使われました。何の能力かは分かりませんが、一瞬でハンドガンを分解。俺を路地裏のゴミ箱に捨てていました」


「……そうか。小田原城爆破も君にまつわる出来事だ。今日はもう休んだ方がいい、精神的にも肉体的にも疲れているだろう」


 やっぱりそうなるか。傷はもう完全に治っている。精神的にも肉体的にも平気だ、何なら今から小田原に向かいたいくらい。なのに行かせてくれない、元気なのに。JDPA_Dには反抗できても、山口課長には反抗できない。


 会議室には俺と瀧口さんのみ、他の人は巨大モニター室に戻った。壁にかけられているカレンダーを見てみると、STAGE隊員のスケジュールが書かれていた。彼女は、どうやら今日の午前で仕事納めらしい。反対に1月1日から仕事始め、1週間くらいの休みがある。俺のは書かれていない、当たり前か。


 そもそもSTAGE本部には限られた備品しかない。STAGEは解体となったが、つい昨夜に再結成が認められた。そこでJDPA_D本部に運び込まれていた備品の数々が急遽、STAGE本部に戻された訳だが、流石に半日で全てを揃えることはできなかった。まぁ、STAGEは俺を監視するための組織。薬物使用者の発見はJDPA_Dが引き続き行うだろう。


「星田くん、ある場所に行きたいんだけど、今から暇?」


 瀧口さんはカレンダーに印をつけながら、俺に予定がないかを聞いてきた。もうすぐで正月だが、俺に帰省するような場所はない。北海道の親戚も東京の親戚も嫌いだし、嫌われている。お盆休みも、俺はどこにも帰らなかった。


「気分転換に連れて行きたい場所があるの、何泊かできるように準備しておいて」


 30分後、彼女の車で千葉県へ向かった。勤務外だから私服に着替えたのだが、瀧口さんの私服姿って珍しいな。彼女と会う時はいつもスーツ姿、故に彼女もいつもスーツを着ていた。冬だからか、厚手のコートを着ているがそれでも寒そうにしている。そういえば、彼女の車に乗ったのも初めて。いつもはSTAGEのワゴン車だったし。


「それで、千葉県には何があるんですか?」


「敬語はもう外していいよ。私の実家」


 瀧口さんの実家に、何で俺が。今日はクリスマスだけどそこまで親しき仲じゃないし、少なくとも向こうは俺のことをそうは思っていない。


「大したことじゃないよ、星田くん、行くとこないと思ったから誘っただけ。あと、お父さんのお墓参りもあるからね。親戚以外でお父さんの事情知ってるのは星田くんだけだし」


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