第61話 指名手配編13「爆弾」
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「今日の午後1時頃、東京都の自衛隊基地内で国際指名手配中の薬物使用者が銃を持ち暴れる事件が発生しました。また犯人は『全国に爆弾を設置した』と供述しており、現在でも爆弾は見つかっていません。そのため"違法薬物特別対策法の特例措置"に伴い、国民の不用意な外出を禁止致します。定められた職業を除き、外出者は罰せられます」
ヘリコプターの中で流れているニュースを聴きながらも、俺たちは情報を集め続けた。NEXUSに加入している目黒隊員は、引き続きNEXUSメンバーと連絡を取り合っていた。どういう訳か、このヘリコプター内......何故か電波が良い。DP由来だからか、ショウが開発に関わっているからか、理由はよく分からない。でも、おかげで真田と通話できる。
目黒隊員はオルタネイト作戦のことを知っていたため、作戦決行寸前に大量の食糧を買い込んでいた。「地下で頑張っている訓練生に差し入れしてきます」とかいう名目で。奥には簡易的なキッチンがあるため、お湯も沸かせるし料理もできる。
対して、ショウはずっと考え込んでいる。親殺しの犯人で、自分のことを育ててくれた親代わりの存在に会いに行くからである。心の整理がつかないんだろう、そんなの当たり前か。ここは俺と目黒隊員で何とかしよう。
ところで、俺の両親は何も言わずに子供を置いていって消えた。なのに俺は探そうとも思わなかったな。置いていかれたんだし、探して会ったところで無駄だと昔は思ったんだろう。今でもその気持ちは変わらないが......少しだけ会ってみたいという気持ちも生まれてきた。ショウがここまで大切に思ってる存在だし。
よし、このゴタゴタが終わったら調べてみよう。どこかの研究所で研究に没頭しているのかな。何の研究をしていたかは詳しく聞かされていなかったけど「日本の将来を明るくしたい」とは言っていた。どういう研究なんだろう、日本の将来に繋がるものって。考え始めると、急に興味が湧いてきた。今は考えないようにしよう、後でじっくり。
俺は真田に電話をかけた。現在の位置は太平洋上空、時差もあるが大丈夫だろう、彼なら出てくれる。
「随分と大胆な手段を選んだね。大使館の人間が日本から脱出しようと大騒ぎ、どこに爆弾を隠したのかも言わないから、今頃全国各地にJDPA_D隊員が飛び回っているよ。そのせいで、僕もこれから新潟に調査に行かなきゃならない」
「ごめん」
やっぱり向こうは大変なことになっていたか。全国各地なんて含みのある言い方をしたせいで色んな人が巻き込まれている。これなら「東京タワーに仕掛けました」とかでよかったか……まぁそれだとすぐに嘘がバレる。俺たちの近くを飛んでいる監視用のヘリコプターもすぐに、攻撃用に変わってしまうだろう。
「まぁいい。佐野に関する新たな情報だ」
そう言って、彼はデータを送ってきた。急いでスクリーンにデータを送信して映し出してみると、そこには東京都の熱反応の増減グラフと薬物使用者のデータが描かれていた。熱反応、つまり薬物使用者の出現回数と、東京都で目撃された薬物使用者の数が比較されている。
なるほど、熱反応が起こった回数と薬物使用者の目撃回数が釣り合っていない。となると、目撃されていないが能力を使った者が東京都内に存在するということか。しかしSoulTは能力を使っても目撃情報は出ていない。今だってテレパシー能力を使ったのに、品川区の時は特に何も言われなかった。
「君の言いたいことは分かる。『SoulTは能力を使っているのに、目撃情報にない』って言いたいんだろ。僕が言いたいのはそこじゃない、僕が持ってきたデータはもうひとつの方。これは政府が公式に発表したグラフで、僕が手に入れたのは人工衛星サチアレから直々に送られてきたデータ。2つを見比べてほしい」
彼から送られてきた2つ目のデータを見てみると……数値が変わっていた。目撃情報の数とかほとんどの数は同じなのに、1枚目の熱反応の数が2枚目と異なっている。2枚目の方が若干、4回くらいは上回っている。でもそれ以外のデータは同じ、となると?
「そう、何者かがサチアレのデータを捏造し、世に送った。先月、能力を4回行使した何者かが」
となると、結構絞られてくる。佐野に関わる誰かが薬物使用者で、佐野の権力のために能力を使っている。それに俺やショウ、SoulTの5人とは違い、常時能力行使状態じゃない。俺とショウは赤い液体を飲んでから、熱反応と魔法陣なしに能力を使うことができているし。
「いいや、佐野克己自身が薬物使用者だ」
確かに真田はそう言った。佐野が薬物使用者、そんなことが有り得るのか。定年間近の人間が薬物を摂取しても爆発せずに生き残れるはずがない、俺はそう訓練所で学んできたぞ。薬物使用は体に負担をかけることになるから、幼児や老人に与えれば高確率で爆発するって。というか、警察官のトップが薬物使用者なんて、そんなのアリかよ。
「佐野は"権力の掌握"という欲望に生かされている。願いを達成するためなら何だってする、それが佐野の生き方だ。薬物使用しても死なない理由も、僕らには到底理解できないような深い欲望が関わっているんだろう」
Dream Powder、名前の通り......夢を叶える粉。佐野は自分の地位を向上させ権力を掌握するために、力を手に入れた。その欲望は粉の力を上回った、ということか。狂ってやがる。SoulTは怒りと恨みを原動力に、粉に打ち勝ったと言っていた。ショウはお世話になった人々への恩返しの気持ちで耐えた。俺は……よく分からない。
「佐野が能力を使用したとされる時間帯にサチアレでも熱反応が確認された。しかし発表時には揉み消されていた。熱反応が起こった地域は東京都の警視庁舎、だから佐野以外の警察官が能力を使った可能性もある。佐野だと特定できる証拠はまだ無い」
「......ありがとう、そこまで調べてくれて」
情報屋の真田、どういうコネを使ってくれたのかは分からないが、彼は細かいところまで調べていた。佐野が薬物使用者で事件の真犯人となると、対処は簡単だ。能力を使わせて世間に晒すか、倒して爆発させる。ただし後者だと、万が一情報が違った場合、濡れ衣でもない本当の罪が着せられる。できるのなら前者で行きたいな。
「君たちのことは信用している。品川区の化け物を倒してくれた、佐野の悪事を暴けば多くの人が救われる。それでも僕らJDPA_D隊員は無力で、佐野の言いなりになるしかない。証拠を提出しても殺されるだけ。君たちなら、それができる。力を持つ君たちなら......時間だ、またどこかで話そう」
そう言って電話は切れた。思った以上の収穫だった。佐野克己の正体は薬物使用者で、サチアレのデータに基づくと奴は堂々と警視庁舎内で能力を使っている。サチアレのデータを捏造できる権力を持つからか、油断しているからか分からないが、真田が捏造前のデータを持っていたから何とかなった。
捏造前のデータだけでも「警察が薬物使用者のデータを捏造した」として証拠になるだろうが、それだと弱い。変に逃げられてしまう。それに佐野の能力がまだ分からない。地位の向上が可能な能力ってなんだ、特定の人物を遠距離で暗殺できるとか、証拠の捏造が可能とかそんな感じか。どれにせよ嫌だな。
「あと3時間で目標地点に到着します」
このヘリコプターは優秀だ、人工知能も搭載されているし自動操縦も可能。攻撃されたとしても大丈夫、反撃機能が搭載されているから。おかげで今はぐっすり寝られそう。
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