第60話 指名手配編12「海軍基地」

----------


「目標、発見」


 戦いに集中していて気づけなかったが、既に奴らに包囲されていた。少なくとも22人の隊員の姿がレジから見える。「殺人を犯した」と認識されているからか、武器のグレードも上がっている。ただのアサルトライフルだけじゃない、中にはマシンガンを持っている者もいる。


 俺もJDPA_Dで働いていたから、こういう時の対応はよく理解している。「目標は人間ではない」という言葉を訓練所で教えられた。奴らは薬物使用者であって、人間によく似た形をしている別の生物だと思った方がいい……教官はそんなことを話していた。だから、目の前にいる隊員らも、俺のことを別の生物だと思っているんだろう。


 俺は落ちていたビール瓶を2つ拾い、両手に持って構えた。22人中5人はマシンガンを構えている。それも対薬物使用者用に改造が施されており、弾速や威力が変わっている。赤い銃身、これは最重要使用武器だな。だとしたら、最速で弾が飛んでくる。避けられるのか、これが。


「発射!」


 隊長らしき人物が掛け声を発した瞬間、轟音と共に翼を生やした男が現れた。彼は銀色の翼で、次々にライフルを構えた隊員を薙ぎ倒していく。何が起こったのか分からずに呆然と立ち尽くす男には蹴りを、また発砲した女性隊員には優しく拳を入れ、そこにいた全員を気絶させた。


 そう、翼を持った男とは......ショウのこと。


「星田、何している。行くぞ!」


 彼は怒りながらも俺の手を握り、空高く飛んだ。俺の手には賞味期限切れのおにぎりと弁当が詰まったレジ袋と、対して好きでもない酒の瓶。警察の追跡を振り切るためにもショウは俺に顔を見せずに、前だけを見て必死に逃げ続ける。


 やがて、ヘリコプターの音も鳴り止み、警察の追跡も振り切ったところで地面に着地し、休憩を取った。ショウは何も食べていないのに戦った、だからお腹が空いていたんだろう、俺の持っているレジ袋を奪い取り、中に入っているおにぎりを食べ始めた。まるで肉食動物が逃げ惑う草食動物を喰らうように、ガツガツと一気に摂取している。


 ここは、さっきのコンビニから少し離れた廃墟。元々は商業施設であったが、都市開発の中止に伴い廃れた。薬物使用者の事件もあり、証拠を残したかったのか、取り壊すこともなく人だけが居なくなった状態になっている。今俺たちがいるのは、古着屋だろう。ボロボロに朽ち果てた布が辺りに散らばっている。何年前に発売された、アイドルが表紙を務めている雑誌も落ちている。


 エレベーターもエスカレーターも動いていないが、当時のまま。俺はもちろん行ったことなんてないけど、同僚がここの事件に携わっていた。特別仲良い訳ではなかったが、他部隊との意見交換の場で何度か話したことがあった。結果、爆発に巻き込まれて植物人間状態に。今はどうなっているか分からない。


「......お前、何しやがった」


 おにぎりを食べ終え口を開いたショウ、そこから出てきたのは怒りに満ちた言葉だった。当たり前だ、俺は今コンビニ強盗の疑いをかけられている。JDPA_Dの隊員とも戦ったし、何より現場にいた。言い逃れはできない。ただ、ショウだけに言えることならある。


「SoulTの今に会った」


「は……どうやって?」


 疑問を抱いたショウは即座に、それを言葉にして返した。さっきも言ったが、他の人にこのことを言っても信じてもらえないだろう。「頭がおかしい」とか「妄想のしすぎだ」なんて言われる。いくらDPが蔓延している世の中でも。それでも、ショウなら分かってくれる。


「SoulTの今はテレパシーを使って、コンビニ店員たちを操って殺した。俺に会いに来たらしい。今の昔の彼女が佐野に殺され、自身も濡れ衣を着せられたから国を恨んでいる。SoulTの臣って奴も深く関わっているとか......あと、SoulTは5人組だ」


 俺は今から得た情報を話した。フィクションみたいなとんでもない話も含まれているが、そこに嘘はないと思う。今の言葉に嘘は含まれていない、ということ。警察を呼ぶためだけの罠だと思ったが、それにしては信ぴょう性があった。今という人間を深くは知らないが、能力を剥奪されても生き知恵で何となく分かる。同じ薬物使用者だから、繋がりがあるのかもしれないな。


「......分かった。国家に宣戦布告したSoulTの発言を信じるということだな?」


 ショウは全くもって今の発言を信じていない様子。やっぱり"見極め"を持つショウの方が正しいのかも。でも、俺は今を信じる。この思考も今に乗っ取られて勝手に思い込んでいるだけかもしれないけど。テレパシー能力を使えば、俺の思考もショウの思考も乗っ取れるし。


「とにかく、霞が関通り魔事件を調べよう」


「いや、その前に行くところがある」


 ショウは3個目のおにぎりを食べながら、紙製の地図を俺の前に置いた。これは......目黒にある自衛隊基地の地図か。STAGEが一部を貸し切って訓練していた場所で、確か目黒さんはここに配属されている。頭脳班でSTAGEに雇われた彼は、結果的に自衛隊基地で作戦会議に参加しているとか。詳細は知らない。


 でも、どうして目黒基地の地図を出したんだ。何度も行っているから場所も構図も把握している。建物の中にも何度も入った。目黒基地で火災が発生した時とか、他にもエヴァローズさんと一緒に訓練した時とか、変なスーツを着せられた時もあったな。


「どうして地図を?」


「決まってるだろ。行くぞ、アメリカに」


 親のトラウマもあり、俺が提案しても散々拒否していたが、考えが変わったのかショウ自らアメリカに行こうとしていた。もちろん、行先は米軍基地。リライト実験が行われた施設に向かい、特殊装備と情報を貰うつもりだ。


「あくまでもこの状況を打開するための策。親殺しの犯人に会いたい訳じゃない、ただ戦い続けるために行くだけ。お前がSoulTと接触したからな、そうせざるを得ない」


 ショウは目黒基地に配備されている特殊ヘリコプターで、リライト実験の行われた施設に向かうみたいだ。その施設はカリフォルニア州のエドワーズ・エックス海軍基地の地下にあるとか。ただしリライト実験の装備が残っているという確証も無ければ、そもそも受け入れてもらえない可能性もある。


「一か八かで、俺の考えた作戦で行こう。名前は......"オルタネイト作戦"だ」


----------


「全国各地に爆弾を仕掛けた、殺せば解除されないまま爆発する!」


 ハンドガンを目黒隊員の頭に押し付けながら、俺は大声で叫び続ける。そう、これがショウの考えたオルタネイト作戦の全貌。「全国各地に爆弾を設置した」と嘘をつき、また目黒隊員を脅すふりをしながらヘリコプターを奪うというもの。強行突破、と言うしかないだろう。しかし「爆弾がある」と言われた以上、JDPA_Dは調査しなければならない。


 爆弾があっても無くてもすぐに殺すことはできない。少なくとも一般市民が見ている環境下では。公共の場で俺たちを殺せば、市民は怯えた状態で生活しなければいけない。例え爆弾が無かったとしても、俺たちが無かったと証言するまでは、あるのと同じ。


 ショウは翼を展開し辺りにいる隊員を牽制しながら進んでいる。目黒基地の滑走路を堂々と通り抜けても、誰も止めない。いいや、止められない。周りにはアサルトライフルを持った隊員もいるが、誰1人構えていない。


 狙いは"JQ-0110"、つい最近開発されたDP由来のヘリコプター。普通のなら日本からアメリカまで飛行できないが、DPが含まれたこれなら飛べる。向こうで燃料を補給できなくても墜落する必要はない。攻撃手段もあるし、DP由来だからか防御力も高い。STAGEに支給するために目黒基地に置いていったらしい、NEXUSに事前に聞いておいて良かった。


 これしか方法は無かった。正攻法なんて、こんな世界じゃ存在しない。自分の思想がSoulT寄りになっているのが怖い、でもこれしか無い。


 俺たちは目黒隊員に銃を当てたままヘリコプターに乗り込み、そのままアメリカの海軍基地へと飛び立った。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る