第54話 指名手配編6「NEXUS」

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「お届け物でーす」


「どうぞ、駐車場に置いてってください」


 俺とショウはSTAGEの本部に来た。ただ、そう簡単に入ることはできない。秘密裏に設置された本部は駐車場からしか入れないが、認定された車に乗らないと大型エレベーターが起動しない。で、俺たちが乗っているのは業者のトラック。新宿で作業員を襲ったついでにトラックまで奪ってきた。


 警視総監を暗殺したのは濡れ衣だが、作業員を襲ったのは事実だ。これに関しては、仕方ないとしか言えない。これでもだいぶセーブした、本気を出せば殺してしまうから。駐車場に荷物を置き、俺たちは帰らずにそのまま待った。


「えーっと、何か注文したかな?」


 少しすると、何故か坂田さんが降りてきた。確か彼はもうSTAGEを外されたはず。何でSTAGE本部にいるんだ、それはさておき……やらないと。俺はエレクトリック・ガンの弾を手首から発射し、周辺の電力に過大な負荷を掛けて停電させた。STAGE本部だろうと、簡単な手順で停電させられるんだ。その間に俺たちは坂田さんの背後を取り、話しかけた。


「お疲れ様です、坂田さん」


「……その声は、星田さん?」


 銃はトラックに置いてきた、故に俺たちは丸腰。強いて言うなら拳が最大級の武器か。その気になれば、坂田さんは俺たちのことを簡単に射殺することが可能だが、彼はそんなことしないだろう。だから俺たちは近づいた。


「無事だったんですね。心配していました。鎌切先輩も中にいます。JDPA_Dとも連絡を取っていません。御二人が良ければ……来ますか?」


 俺たちは彼の言葉を信じ、そのままSTAGEの本部に入った。中には鎌切さんが待っていた。オペレーターも他の隊員もいない本部は、どこか味気なく、心の空白を表しているようにも思えた。坂田さんは鎌切さんの後輩で俺より歳が上なのに、とても丁寧な敬語を使っている。


「……久しぶりだな、星田、平乃」


 鎌切さんはいつもみたいに話しかけてくれた。オペレーターも居なければ、大きなスクリーンは真っ黒。他の隊員もいないし、パソコンやコピー機の数は明らかに少なくなっている。坂田さんと鎌切さんがいる理由は分からないが……最悪だ。


「先に言っておく、STAGEは消滅した。世間の評判もあるんだろう、現内閣総理大臣と警視総監の決定だ。まだニュースにはなっていないが……俺と坂田は忘れ物を取りに来ただけだ。偶然、昼食は多めに持っている。食べるか?」と、鎌切さん。


 俺もショウもお腹が空いており、ちょうどお昼時であったため、俺たちは会議室で食事することにした。久々のご飯だ、丸一日食べないだけでこんなにも疲れるとは。常に戦っているからそれもそうか。それにSTAGEも消滅した、俺たちは国際指名手配犯ってことになってるから納得だけど、帰る場所もなくなった。これも狙っていたのか?


「何でもいい、今ある情報をください」


「結構あります。STAGE解体後、みんなバラバラになりましたが、連絡は取り合っています。そこでSTAGEに代わるチームを秘密裏に作ることになりました。名前は"NEXUS"、内容は……御二人の罪を晴らすこと。私たちは御二人を信頼しています。これは、みんなの不信感が募った結果ですよ」


 NEXUSのメンバーは目黒さん、西山さん、山口課長、エヴァローズさん、坂田さん、鎌切さんの6人。瀧口さんとは連絡が取れてないらしい。他のオペレーターには声をかけてないみたいだ、俺とショウを心から信頼している人のみに声をかけたとか。でも、どうしてそこまで。


「俺たちは指名手配犯扱いです。NEXUSの存在がバレたら、他の方々も指名手配犯となります。俺は……みなさんを巻き込めません。俺たちのためにそこまで無茶しないでください」と、ショウ。


 彼の言う通り、薬物使用者の犯罪者を保護するとか、それがJDPA_Dや日本政府にバレれば間違いなく消される。しかし、鎌切さんの考えは違った。


「平乃、星田。これはお前たちのためだけじゃない。俺たちのためだ。不当に無実の人間を犯罪者にしてたまるか。俺と坂田は警察官だ、そんな最低なこと、俺は絶対に認めない。どこの塩かは分からんが、真犯人の狙いも見当がつくだろ。そこはNEXUSが調査するから、2人は……自分の信じることをしろ」


 彼らから貰ったおにぎりを食べながら、坂田さんのデバイスに映っている文書を読むことにした。それは現警視総監の佐野克己に関するもの、特に総理大臣暗殺未遂事件について書かれている。そう、SoulTの今が濡れ衣を着せられたらしい事件で、佐野克己は総理の死を防いだ。


 中には犠牲者リストも載っている。今の正体で、事件の犯人となっている江戸崎仁哉の名前も。テロ対策部隊として総理を護った佐野は大出世したんだろ、でも今の言うことが正しければそれすらも仕組まれていた。なら、佐野が出世のために事件を起こしたんだとしたら?


 現在は能力を剥奪されているが、今と話した時は残っていた。その時に確信した、奴は嘘をついていないと。能力すら欺く力があるのかもしれないが。俺は坂田さんに、佐野が支援する政治家のリストと、その政策をまとめるようお願いした。同時にショウも何かに気づいたのか、鎌切さんのデバイスを借りて何かを調べている。


「……なるほど。現警視総監の応援する政治家の政策をまとめました。全員ではありませんが、一部にイメータルの息がかかった企業との関係を持つ者もいます。政策面で言えば、全員薬物を消滅させることを目的としていますが……」


 ここで坂田さんは話すのを止めて、俺にデバイスを渡してきた。「ここから察しろ」ということなんだろう。デバイスのデータを見ると、やっぱり俺が危惧していたことが表されていた。同時にショウが調べていたデバイスにも、同じように恐ろしいことが書かれていた。


「……ほとんどが事件をきっかけに出世。事件に関する書類は2023年に破棄されています。通常であれば10年以上は残すはずですが、当時の斉藤警視総監が破棄を命令したそうで。ちなみに斉藤は、今回の警視総監の決定に深く関わっており、斉藤の票で佐野に決定したとか。不確定要素ですが、情報のパーツとして残しておいていいかと」


 証拠は無い、証拠は無い。けれども、もしかしたら……俺たちが国際指名手配になっているこの問題には、佐野警視総監が関わっているのかもしれない。目的は不明瞭だが、俺たちを排除したがる理由は何となく分かる。SoulTとの関係性も何もかも不明だけど、このタイミングでこの事件なら……分かってきたかも。


「星田、あのことは言っていいな?」


「ああ」


「俺たちがJDPA_Dに追われた時、捜査官の格好をした薬物使用者が紛れていました。これを『薬物使用者が警察に潜入した』と捉えるのか『警察官が薬物使用者になった』と捉えるのかで話が変わってきます。全てのデータを確認するに、警視総監が関わっている説が有力と見られます」


 ショウは俺が戦った捜査官のことを話している。俺がショットガンで倒した奴のことだ。「証拠は残ってないのか?」と鎌切さんに聞かれたが、俺は首を横に振った。何故なら、奴は爆発したから。普通の人なら死体が残るけど、奴は爆散した。奴が部隊に在籍していた証拠すら不明だ。


「なるほど……思った以上に闇が深いな」


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