第55話 指名手配編7「真田」

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 もう少し彼らと話していたかったが、これ以上の滞在は危険だと判断しそのまま帰った。指名手配されたのは昨日、あれからちょうど24時は経ったのか。それにしても、複雑で最悪な日だった。どうやって終わらせればいいのかも分からない、ただ迫り来る脅威と力に立ち向かうしかない。


「それで、どうする?」


 証拠を集めようにも、どの証拠をどうやって集めるか、その方法すら分からない。表立った行動はできないため、俺とショウは誰も来ないような場所で話し合うしかなかった。場所は、廃墟都市の近辺にある立体駐車場。できるのなら早いうちに行動に移しておきたいけど、慎重に動かないといけない時もある。


「今までの事件を振り返ろう。何か共通点が見つかるかも」


 薬物使用者の事件なんて100件以上はある。その中でも、俺とショウに深い関わりがあるものだけをピックアップして共通点を調べることにした。まずは銀座の事件、馴れ馴れしく話しかけてきた後輩が薬物使用者だった。俺が初めて能力を使って倒した敵だ。


 次に鎌倉で武士の格好をした田島という男を倒した。彼はミチルの先輩で、赤井という人と付き合っていたらしいが、彼女もまた政府に消された人間らしい。その後は受験を控えた高校生が薬物を使って暴れた、思い出したくもないくらいに辛い事件だった。少ししたら池袋でボクサーと戦った、彼はSoulTから俺についての話を聞いていた。


 その少し後にショウが能力者として現場に復帰した。俺以外に正義の心を宿した薬物使用者なんて聞いたこともなかったから驚いた記憶がある。あの時、ショウも同じ気持ちだったんだろうな。自分のアイデンティティを傷つけられたと考えたショウは俺を貶すようになる……のは関係ない。法務大臣を助けて、関東で当時に火災が発生して、秋葉原で集中的な大爆発から人々を救った。


 さいたま警察署で立てこもり事件が起きたと思ったら、犯人は警察に訓練だと称して雇われた格闘家で、中にいた警察官が薬物使用者だった。幼馴染のミチルは田島を見習って武士になっており、真実を話している途中に誰かに狙撃されて死んだ。イメータルの拠点に入ったらショウが爆発に巻き込まれて死にかけ、俺は一時期単独で行動することになったんだっけな。


 そこからイメータルの本拠地でカイブツと戦い、ショウが赤い液体を飲んで復帰して、2人で協力して倒したと思ったら、指名手配犯になっていて。どうやら前警視総監を暗殺したらしい、そんな訳ないのに。「SoulTの正体はあの2人だ」とか「品川の事件は奴らが引き起こした」とか、根も葉もない噂が飛び交っている。


 そういえば、SoulTだ。SoulTは4人組で、日本に宣戦布告していて、色々な人に薬物を配り使用を促している団体ってことしか分からない。池袋では何者かに気絶させられていてよく話せなかったが、品川では今という奴とじっくり話せた。まぁ、結局は気絶させられたけど。


 今はテレパシー能力を持っている、とても厄介な奴だ。それもそのはず、奴もまた日本政府に裏切られた人らしいから。総理大臣暗殺未遂事件の犯人として扱われているとか、今の俺たちと同じ状況だな。ま、俺はそんな宣戦布告なんて、子供っぽい真似はしないけどな。


「で、共通点は?」と、ショウに聞かれた。そう言われても、簡単には思いつかない。日本政府に恨みがある奴もいれば、そうでもない奴もいる。SoulTと関わっていることが確定してる奴もいれば、未確定な奴もいる。銀座の強盗も高校生も、政府に恨みがあったとは思えない。


 SoulTと日本政府が対立していて、それで警視総監が能力者の俺たちを排除したがっている。地位や金のためなら日本が無くなってもいいのか? SoulTの奴らは、警視総監みたいな心が腐った奴を潰したいんだろう。なら、彼らが繋がっているようには見えない。行動原理はしっかりしてそうだ、そういうテロに手を出す奴らほど。




「真犯人、僕なら分かるよ」




 突如、背後から声がした。振り向くとそこには……真田が立っていた。あの真田だ、鎌切さんの後輩でイメータルの情報をたくさん持っていた人。前警視総監の知り合いの孫、とだけは知っている。逆にそれ以外の情報は不明。でも、何で彼がここに? 俺は携帯を使ってないし、彼とも連絡を取ってない。


「何でここが分かった?」


「君たちの携帯にGPSを付けておいた。警察内で不穏な動きが見えたからね。念の為、他の警察官にはバレてないから平気だ」


「お前は誰だ?」


「星田から何も聞いてないのかい?」


 そうだ、ショウには彼のことを何も伝えてなかった。それ以外の情報の方が濃かったから、イメータルの情報を伝えたくれた人が居るとも言えてなかったな。それにしても、携帯にGPSを付けたって……俺がGPSを外したのは無意味だったのか。もしかして、病院で携帯を没収されていた時に付けられた?


「この人は真田、前警視総監の知り合いの孫で、情報屋みたいなそんな人」とだけショウに小声で説明してみたが、それでも不審に思っている様子。それもそうだ、GPSを携帯に付けたなんて、その行為自体が不審すぎる。でも携帯にGPSが付いているとして、警察は追ってこない。彼の言うことは正しそうだ、きっとデマの位置情報を送ってくれているんだろう。


「犯人は見当が付いているとは思うけれど、現警視総監の佐野克己だ。前警視総監とは祖父が仲良くてね、君たちに殺されたと聞いた時はショックだった。でも、僕は君たちを信頼している。品川区での一件で、僕の願いは果たされた。そんな君たちがわざわざ警視総監を暗殺して、佐野克己に地位を与えたようには思えない。世間に正体も明かされているしね」


 どこから得た情報なのかは分からないが、彼も警視総監を疑っている。正体を世間に明かされている俺たちを指名手配すれば、世間の声も支配できるしな。品川区の一件が起きた後だ、みんな俺たちのことを疑っている。じゃあ佐野克己の目的は何だ、名誉と地位のためだけか? たったそれだけで、俺たちを下手に巻き込むような真似はするのか?


「君たちは世間に出にくい存在だろう、だから僕が代わりに調査しておく。ただし薬物使用者を倒せるのは君たちしかいない。薬物使用者を倒す義務を、佐野は放棄した。SoulTを止められるのは……君たちしかいない」


 そう言って、彼は姿を消した。不思議な男だ、いつも急に現れては必要な情報を提供してくれる。何か見返りを求めることもない、ただ俺たちをサポートしてくれる。彼が言ったように、俺たちしかいない。奴らを倒せるのは、奴らの狂った正義を木っ端微塵に叩き潰せるのは。


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