第44話 カイブツ戦4「テレパシー」

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 目を覚ますと、俺は爆心地の建物にいた。奴らはもう既に姿を消しており、ここには俺しかいない。武器も何も盗られていないようだ、腰には特殊ナイフが差してあるし、ライトのついたアサルトライフルも足元に置いてある。ただ、無線機だけは無くなっていた。それはどうにでもなるが。


 ただ、さっきから違和感がある。


 そう、余計な雑音が聞こえなくなった。耳が悪くなった訳でもない、急に聞こえる音が少なくなっただけ。自分の足音は聞こえるけど、遠くにいる人々の話し声は聞こえなくなった。それどころか自分の心臓の鼓動音も聞こえにくい。もしかして、能力が剥奪された?


 奴は「能力の剥奪が目的」と言っていた。俺のヒーローの能力が失われたのか、それだと大問題だ。試しにボロボロになった壁に拳を思いっきり入れてみると……一瞬にして粉々になった。よかった、ヒーローの能力は残っている。けれども、聴力といった感覚の覚醒は消えた。奴らが言っていた剥奪というのか、このことか。


 奴らのせいで人の鼓動音が聞けなくなったが、静かな世界に戻ったと思えばいいか。ただ、もうこれからは人の嘘を見抜くことはできない。心拍数の上昇で人の嘘を見極めていた部分はあったが、それはもう二度とできなくなる。閉鎖的な空間で目をつぶっていても戦えていたけど、それも難しくなる。


 とりあえず、作戦本部に戻ろう……と外に出たが、そこにはとんでもない光景が広がっていた。


「炎の世界だ」


 と、無意識に口に出してしまうほどに。イメータルの拠点から見えるほぼ全ての建物が炎に包まれており、その炎の中心には巨大な生物が炎を吐きながらゆっくりと歩いていた。何時間眠っていたのかは分からないが、辺りは真っ暗で余計に炎が目立つ。それよりも、あの巨大な生物は何なんだ。奴らが言っていた……カイブツか?


 聴覚の能力が失われたせいで、近くに誰がいるのかも分からない。立ち込める黒煙のせいで、周りも見えない。無線で誰かと話そうにも、電波が悪く誰とも繋がらない。そんな俺でも聞こえるのは、鳴り止まない銃声とカイブツの咆哮。


「目覚めたか」


 と、突然。奴の声が直接耳に入ってきた。アサルトライフルを構えて辺りを見渡しても、近くには誰もいない。声の方角を辿ろうにも、永遠に鳴り続ける銃声のせいで分からない。それでも奴の声は鮮明に、俺の耳に入ってくる。


「私の能力をまだ言ってなかったね」


 耳を塞いでも、奴の声は直接入ってくる。耳栓をつけたとしても、貫通するようにして。


「私の能力はテレパシー。体力を結構使うが、とても便利だ」


 テレパシーは相手の思考を読み取りつつ声を届けるもの。つまり奴は、俺のこの思考も読み取ることもができる。それだと……作戦が筒抜けじゃないか。俺が考えたもの全てを見ることができるのだから。


「言っておくが、お前の思考を読みたいとは思わない。というか、私が思考を読める対象は限られている。少なくとも、SoulTメンバーが限界かな……これはテレパシーじゃない、お前が考えていることを予想して答えたまでだ」


 この思考を読んでいるのにせよ読んでいないのにせよ、奴は厄介な存在だ。思考を読める対象は限られているかもしれないが、声を届ける対象は特に限られていない様子。これで俺にも届いているのだから。つまり、奴は永遠に声を届け続けることも可能だ、人を狂わせるまで。実際に同じ音楽をかけ続けて狂わせるという拷問が存在した、それと同じようなことができるな。


「私は遠くから声を届けている。さて、向こうのカイブツは、イメータルの信者が組み合わさって生まれた新生物だ。協調性と親和性を願った彼らの成れの果てだよ。さぁ、偽りのヒーローはどうする? SoulTが作り上げた兵器に、どう対処する?」


 少しすると奴の声は聞こえなくなった。本当に厄介な能力だな。SoulTを結成したまである、望みが高い。その高い望みを叶えられるほどの屈強な精神力があったんだろう。Dream Powderに認められたということは、そういうことだ。辛い実験に耐え抜いたショウも同じように屈強な精神力を持っている。なら……俺は……そうでもないな。


 とにかく、品川区全体が炎に包まれている中で、俺が取るべき行動はただひとつ、カイブツをぶっ殺す。じゃないと東京全体が火の海になるから。無人ジープを動かそうにも、動力源が破壊されているため動かなかった。くそ、近くには誰もいない。ガリレオや戦闘部隊との協力も見込めないな。


 俺はアサルトライフルを背中のバックパックにしまい、炎の世界を駆け抜ける。ビル群のほとんどが燃え尽きて黒焦げになっており、廃墟と変わらない見た目になっている。数時間前まではここで人が働いていた。避難誘導をしていなかったら、もっと大惨事になっていたな。


 俺は感覚を集中させ、過去最高の速さで走り続けた。嗅覚とか聴覚とか、優れた感覚は失ったけど、元から持っていた感覚は残っている。もちろん、いつ手に入れたか分からない能力も。政府の実験とかそういうの、今はどうでもいい。今は、目の前に立ちはだかる巨大なカイブツを倒さないと。


 カイブツはゆっくりと歩いているが、何にせよ50m近くはある。人型ではなく、どちらかといえばトカゲを無理やり二足歩行にさせたような形をしている。体の色は緑色で、ゴツゴツとしているが……あれは元々人だったというのか。結束力を求めた信者らの成れの果て、何とも酷い姿をしている。


 それが時々立ち止まって、ゆっくりと口からオレンジの炎を吐く。エネルギーとかどうなってんだ、Dream Powderが動力源なら厄介だぞ。何せDPは未だに解明されてない謎が多すぎる。何で日本に多くあるのかも、どういう力を持つのかもまるで分からない。まるで分からないのに、STAGEは武器の動力源にしている。俺やショウの体内にも入っている。


「グオオオオオオオッッッッッ!!!!!」


 カイブツが激しく咆哮する中、1個の爆弾が奴の頭上に落下したが……それも無意味だった。シルバーに光るボディを持った爆弾はカイブツに飲み込まれ、そのまま消滅した。炎を吐き出すカイブツの胃の中がどうなってるかは分からないが、少なくとも爆弾は無効化された。シルバーボディの爆弾ということは……DP由来か!


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