第43話 カイブツ戦3「暗殺未遂事件の真犯人」

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「2018年の総理大臣暗殺未遂事件、もちろん知っているな?」


 奴はガラスの破片をいじくりながら、アサルトライフルを構える俺に向かって話しかける。引き金を引けば、奴はアサルトライフルの弾を頭に食らい即死。しかし俺は引くに引けなかった、何故なら奴の持つ情報が重要だから。奴は嘘をついていないから、その安定した心拍数が物語っている。俺は引き金から指を外し、奴の話を聞くことにした。


「ああ、俺は北海道にいたから実感は無かった」


 総理大臣暗殺未遂事件、それは薬物使用者の団体が総理大臣を暗殺しようと試みた事件。5人の薬物使用者が爆発を起こし、一般市民を巻き込んで殺害しようとしたが、不発に終わった。とは言っても、何百人が爆発に巻き込まれて亡くなった。それに特殊部隊のガリレオも関わっていたようだが、これに奴も関わっていたのか?


 実行犯の内の4人は自爆で死亡した。しかし残りの1人は生き残って、今でも逃亡しているらしい。国際的に指名手配されているが……名前は何だっけな。そう詳しくは覚えていない。俺は事件当時、北海道にいた。親戚の家をタライ回しにされていたからな。まだ中学生、JDPA_Dに入るつもりもなかった。


「実行犯は、全員亡くなった」


 奴は、ボソッとそれだけ呟いた。何でだ、何で奴はそんな情報を持っているんだ。奴の心拍数は安定しており、嘘もついているように見えない。実行犯は4人死亡で1人逃亡中、これは日本が発表している情報で誤りも含まれていないはず。もしこれが日本のついた嘘なら……何でこんな嘘をつく必要がある?


「証拠は?」と、俺は奴に尋ねた。


「証拠か、爆発で消滅した。薬物使用者のお前なら分かるだろう。そもそも自爆テロでどうやって生き残る? 身を呈した行動で、生き残る術などないだろう。過信するな」


 確かにそうだ。自爆テロで生き残るなんて、爆発も耐えられるような体がないと不可能だ。または「不死身になれますように」と祈ればできなくもないだろうが、それなら自爆テロなどしなくても、普通に総理を襲えばいい。俺が聞いている情報だと、実行犯の5人は作戦直前で揉め、1人だけ作戦から離脱したはず。


 もしも奴の証言が正しいのなら、政府は架空の逃亡犯を作り出す必要があった。でも、そんなことする必要なんてない、犯罪者を自らが作り上げる必要なんて。


「逃亡犯の本名は、江戸崎仁哉えどさきしんや。お前も指名手配書を見たことがあるだろう」


 やっぱり俺も聞いたことがある名前だった。しかし顔は覚えていない。この名前を今、奴がこのタイミングで出してきたということは……もしや?




「そう、私が江戸崎仁哉だ。私は総理大臣を殺そうとした犯人になっているが、実際は違う。日本政府の企みに嵌められたのだ。お前の持つ能力なら分かるだろう」




 何で奴は俺が持つ能力をそこまで細かく知っているんだ。近くの音やかすかな振動を拾えるようになったのはここ最近の出来事だ。ショウから貰ったお守りを口に含んだ時から、つまり秋葉原の一件。この能力を持っていることを俺はショウにしか言っていない、奴らは俺のことを監視していたとでもいうのか?


 奴はガラスの破片を持ったまま、俺に語り続ける。


「私は日本政府に捨てられた、日本は私を消したかったのだ。しかし私は"シン"に助けられた。どうやら私以外にも、日本に裏切られ捨てられた者がいるらしい。私は彼らと共にSoulTを結成し、日本を破壊することを思案した」


 奴の言葉に嘘は含まれていない。能力を過信する訳ではないが。ただ、シンって何だ。池袋にいた4人のうちの1人か、そもそもSoulTって何なんだ。いまいち分からない、だって奴らは隠し過ぎているから。日本に宣戦布告した割には、表にも出てこない。


「単純な話だ、星田健誠は日本政府に作られた存在で、私も日本政府によって作られた存在。だから兄弟といっても過言ではない。無論、SoulTとも。出会い方が違えば、私たちは協力し合える関係になっていたというのに」


 奴は怒りを抑えきれないのか、少しずつ心拍数が上がっていった。俺もそれに対抗するように、アサルトライフルの引き金に指をかけた。いくら薬物使用者とはいえ、頭に銃弾を食らえば即死だ。不死身の能力を持っていない限りはな。


「そういえば、お前は私の能力を知らないだろう?」


 奴はガラスの破片をその場に捨て、フードを被りながら俺に質問した。奴の能力……確かに知らないな。そう考えていると、奴は立ち上がり俺の前に立った。


「おっと、喋りすぎた。私は日本政府と国を破壊し、シンの望む未来へと導く。お前にこれを話したのは、私たちに協力してほしいからではない。時間稼ぎと……剥奪だ」


 奴がそう言った瞬間、白い仮面を被った何者かが俺の側に瞬間移動し、俺の顔に紫色の液体を吹きかけた。避けることもできずに顔面に食らった俺は……そのまま気絶した。奴らの会話が聞こえたが、正確に聞き取ることはできなかった。


「"カイブツ"は---襲って--。---シン----だな」


「どう--、それ--星--誠-?」


「殺----い。シンの----、邪魔--力だ---奪-------いい」


 白い仮面を被った男は、今と共に去っていった。


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