第42話 カイブツ戦2「濡れ衣」
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「目標出現、ただちに伏せろ!」
佐倉本部長がそう叫んだ瞬間、轟音と共にイメータルの拠点が爆発した。激しい衝撃波と爆発音は地面を揺らし、吹き飛ばしていく。俺と真田は間一髪、伏せて衝撃波に耐えることができたが、作戦本部は拠点から近いため、何人かは頭を打って倒れていた。ヘルメットを着けていたとしても気絶するのか……それくらいの爆発ということか。
作戦本部は高台の公園に設置されており、爆発地点からそう遠くはない。拠点近くにあった他のビルも燃えており、辺りは黒煙で包まれている。俺は常に発揮している能力を更に発揮させ、辺りの様子を調べることにした。
まず、爆発地点周辺にいた人達は全員跡形もなく亡くなった。第四から第六部隊か、また周辺にいた救護部隊も巻き込まれただろう。それだけじゃない、被害は比較的広範囲で、品川区二丁目にいる人々も怪我を負っている。となると、もしかしたら瀧口さんも巻き込まれたかも。
更に能力を使ってみると、薬物使用者と思われる信者らが拠点の近くに集まっていた。奴らが爆発を引き起こした張本人だってのは分かる、爆心地にいても生き残っているんだし。ただその信者の数が尋常じゃない、100人くらいはいるぞ。目視はできていない、あくまでも呼吸をしている人間の数を数えただけ。
「星田、君の出番だ」
真田に背中を押され、俺は無人ジープで爆心地へ向かった。立ち上る黒煙で何も見えないが、集中すれば呼吸音が耳の中に直接入るようになっていた。これが良い能力かは分からない、けれども便利だ。少なくとも、こういう時には。
爆発が起こったとされる地点に到着し、ジープから降りたものの……まだ何も見えない。さっきまで信者と思われる奴らの呼吸音が聞こえていたというのに。それに戦闘部隊の遺体も見えない、もしかすれば爆発で遺体ごと消滅したのか? それも有り得るな、この爆発なら。
昔、俺が蒲田駅で1人で薬物使用者と戦った時のことを思い出した。よりによって品川区内にある蒲田駅で、俺は燃え盛る薬物使用者とタイマン。1人では勝てなかったが、狙撃部隊の奇襲により奴は大爆発を起こした。結果、俺の友達の遺体は消滅した。尊敬していた上司も、同期も亡くなった。
俺はアサルトライフルを構えつつ、西山さんから貰った武器の準備を進めた。どうやら彼女は「人間とも薬物使用者とも戦えるナイフ」を開発したそうだ。薬物使用者のあまりの体温に普通のナイフだと溶けてしまうが、そのナイフにDPを加えたことにより溶けなくなったらしい。もちろん、人間相手にも使える。
「爆心地に到着、目標の姿は見えません」
特殊ナイフを腰に差し、ライトをつけたアサルトライフルで周りを探索しながら近づいたものの、周辺に人影を確認することはできなかった。地下室にでも隠れているのか、しかしこの爆発なら地下室ごと吹き飛んでいるはず、加減の知らない薬物使用者なら尚更。それとも、爆発を起こす能力者でもいるのか?
そう考えていると、何者かが俺に接近してきた。戦闘員でも第四部隊の生き残りでもない、かと言ってイメータルの信者でもない。男はアサルトライフルを構えた俺の前に立ち、フードを取ってみせた。そこに居たのは……奴だった。
「久しぶりだな、元気にしてたか?」
そう、SoulTの……
「どうだ、宣戦布告はインパクトがあっただろう?」
奴らは日本国と世界に対して宣戦布告、目的は「世界の征服」と、何とも子供じみたものだった。特撮番組じゃないんだ、それも理由は日本政府への報復。奴は過去に何をされたんだ。池袋の格闘家は、日本政府によって事故を隠蔽された上、自身を犯人に仕立て上げられた。
「どうしてそこまで日本を恨む?」
俺はまだアサルトライフルを構えたまま、奴に尋ねると、奴は高らかに笑い出した。ただ明らかに、その笑いには深い悲しみと怒りが込められていた。仮面で素顔は見えないが、その表情は憎しみに満ちているんだろう。
「……愚問だ、お前も日本政府に作られた。星田健誠は人体実験で能力を得た偽りのヒーロー。お前はイメータルを潰しに来たのだろうが、それは無意味。潰したとしても、今度はお前も潰される」
奴は爆発によって粉々になった窓ガラスの破片をどかし、座り込んだ。抵抗の意志を見せずに、また心拍数も落ち着いて安定している。俺は前から疑問に思っていたこと聞くことにした。
「俺が実験体というのなら、何で記憶がない?」
俺には人体実験の時の記憶は無い、その上能力を使ったのは銀座の事件の時。政府が俺をヒーローに仕立て上げたのなら、蒲田の事件やそれ以前の事件から俺をヒーローとして運用すればよかった。それなら犠牲者も少なくなるし、SoulTの暴走を抑えることだってできた。
記憶を消去させる能力者が別に存在して、政府が俺に能力を与えた後に記憶を消したのか、不可能では無いが、わざわざ遠回りなことをする必要がない。それなら最初から俺を洗脳でもしてヒーローにした上で戦わせればよかった。無駄すぎる、俺を実験した挙句、世に放つなんて。
「……そういうものだ。お前は社会を知らない。池袋の彼も私も、SoulTは皆、日本を恨んでいる。これだけはお前に誓おう、私はお前に嘘などつかない。お前も目覚めてほしい、日本の闇に」
池袋のボクサーは日本政府に濡れ衣を着せられた、これを事実だと仮定すると、政府には大きな闇がある。というか、ミチルの事件で俺は確信している。だから俺は、信頼できるショウにしかこのことを話していない。ショウの心拍数を聞いた、彼はまともな人間だった。彼は純粋に、心から正義を求めている。
さいたま警察署でも、日本政府及びJDPA_Dは何かを隠していた。一般市民を訓練と称して雇い、俺たちに襲わせた。もう誰も信用できない、だから俺は無意識に瀧口さん達から避けたのかも。でも明らかに日本は何かを隠している、それはショウでも知らないような情報で、俺たちが知ってはいけないようなもの。
「今は何故、日本を恨む?」
「簡単だ。濡れ衣を着せられた」
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