第14話 お前は実験体だ
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東池袋駅は地下鉄の駅。地下には居なかったが、上の方から崩落音が響いていた。東池袋駅直上の首都高速の道路に到着すると、青く発光している男が、誰かが運転していた車を真っ二つに割り、それらを剣と盾のようにして構えていた。
俺が来ることを待っていたのか、彼は俺を見つけるとニヤッと笑った。不気味だが、体つきはしっかりしている。夜の街に紛れ込むための黒いパーカーを彼は着ているためしっかりは見えないが、それでも見える筋肉のラインが隠せていない。
坊主で人相の悪そうな顔をしている彼は剣と盾を地面に置き、代わりに拳を構えてこう言った。
「俺は国を許さねぇ、アンの仇は俺が討つ」と。
アンとは一体誰のことだろうか。考えようとしたが彼は、俺に向かって拳を振るった。何とか避けることはできたが、彼の拳を繰り出すスピードは異常な速さであった。薬物を使用しているからか、または経験者か分からないが、ある程度の特訓を重ねた俺でも手も足も出ない程、彼は強かった。
ずっと避けていることしかできない。手が出せない。手を出そうにも、回避を少し緩めた時点て、新たな拳が飛んでくる。それを避けるためには、攻撃という概念を頭から捨てなければできない。
「お前らのせいでアンは死んだ、その上俺は職を失った! 国が汚れているから、俺たちはもっと汚れた道を歩く羽目になる!」
彼は何かを叫びながらも、正確に拳を打つ。俺は避けるのに精一杯で、未だに攻撃を出せないでいた。
しかし、ここら辺から彼の言うアンが気になっていた。もしかしたら物事の解決の糸口になるかもしれない……と思い、距離を置いてから彼に話しかけた。
「アンっていうのは誰だ? あと、目的は言え。じゃないと、俺も気が狂いそうなんだよ」
口から出任せが無意識にも溢れ出る。
アンが誰かを聞きたいのに、俺の口は勝手に「気が狂いそうだ」とかを文言に追加していた。それが本音だとしても、今言う必要はない。
「気が狂う? 何を言っている、俺の妻と娘を奪ったお前らが、今更被害者ヅラで気が狂う? ふざけんなよ、市民が奪われた日常ってのには興味はなしか? 日本に娘を殺された気持ち、お前には分かるか?」
彼は涙を流しながらも叫んだ。
彼は「日本に娘を殺された」と発した。日本が娘を殺した……どういう言い回しか。病気で亡くなった訳ではなさそうだ、となると役人が起こした交通事故とかか。それで隠蔽されて……なら、よく作品で見る。もう少し事情が聞きたい、距離を置いたまま彼にもう一度尋ねた。
「悪いが本当に分からない! 俺はJDPA_Dの下っ端なんだよ。上の事情は何も知らない、だから教えてくれ。俺はただ……救いたい」
「救いたい? 今更何を言っている。何も知らないなら、俺に殴られろ。政府の実験体となったお前が1番理解しているはずだ」
実験体? 俺は実験体? 何の実験だ。薬物使用の実験か? 根も葉もない、何の根拠もない、情報源も分からない。勝手に週刊誌に書かれるタレントと同じ気分だ。俺が実験体のはずがない。
「お前は実験体だ。数年間に起きた『湘南百貨店爆発事件』は分かるか? 百貨店で爆発が起こり、数十人が巻き込まれた。俺は妻と娘を失った。その後警察らは『保険金目当てで男が起こした』として俺を指名手配犯に仕立て上げた」
少し動揺した俺を見つめ、彼は囁くように答えた。
湘南百貨店爆発事件。湘南にある百貨店の3階にある児童向け店舗で爆発が起きたもの。
聞いたこともあるし、何ならその時の調査に俺も駆り出された。爆発した瞬間は知らないが。JDPA_Dの隊員として爆発した百貨店を訪れ、薬物反応の調査をされられた。
薬物使用者が爆発した際、爆発と共に少量の粉を撒き散らす。少しは反応が残るとして調査したが、百貨店からは反応が見られず、逆に地下から見られた。その百貨店に地下は無い、というか一般人は入れないようになっている。
「そうだ、俺はボクサーとして生きていた。それなのに濡れ衣を着せられ、家族を壊した犯人として追われた。国に対しての恨みが溜まるも、対抗する手段は無かった。しかし彼らに出会った。ヤクを配り、よりよい社会にするための団体に。俺は彼らのお陰で、今ここで反旗を翻している」
彼は安心したのか急にベラベラ組織の内情を話し始めた。指名手配されていた彼に、薬物を配っている団体が接触し、薬物を手渡した。もしや学生や鎌倉の武士に薬物を渡したのも、”彼ら”か。
「お前は実験体だ。俺は彼らから聞いた。百貨店の地下の極秘の研究室で、兵器として運用するためのヤク野郎を作ろうと、政府が関与していたってな。早く、俺みたいにならないように……いい加減目を覚ませ!」
彼は恐ろしい剣幕で俺に向かって怒鳴りつける。警告をしているようにも見える。
俺が実験体? 信じられない。そもそも証拠が無い。それに目の前にいる薬物使用者の話を全て信じる訳にはいかない。下手な陰謀論を吹き込まれた可能性だってあるし、嘘で俺を騙そうとしている可能性もある。
俺は彼の言葉を鵜呑みにすることはできずに、油断しているであろう彼に近づき、懇親のパンチを繰り出した。彼は避けることなく、モロに腹で食らった。
「別に兵器のままでいいならそれでいい! でもな……俺は殺してない。子供を愛さない親がどこに居るんだよ!」
彼は血を吐き出しながら、疑う俺に拳を振るいながらも、そう発した。
彼の言葉は本当だろう。でも、どこかで信じることができない俺がいた。
彼の攻撃を避けつつ、今度は攻撃を繰り出す側に回れた。彼が攻撃の手を緩めているのか、ならばこの時がチャンスだ。
一旦距離を取り、そこから彼の顔面に向かって強い一撃をひり出す。これで彼が倒れてくれたらいいが、そう上手くはいかなかった。
彼は元ボクサー。
俺のパンチをいとも簡単に避け、逆に彼は渾身のパンチを俺に食らわした。
ドンッ……と激しい衝撃波と共に、俺は吹き飛んだ。薬物使用者とボクサーの拳が合わされば、とんでもない化学反応が起こる。
吹き飛ばされた俺は、高速道路の近くにある建物を貫通するほど飛ばされ、瓦礫に埋もれて、身動き取れない状況に置かれた。
「お前も所詮は汚い人間、お前を説得しようと考えた俺が馬鹿だった。全ては彼らに委ねるべき」
彼はそう言うと、上から車の残骸を投げて来た。避けることはできずに、残骸をモロに食らう。やがて彼は車の残骸に火をつけ、俺ごと燃やすようにして派手な爆発を起こした。
爆発に巻き込まれた俺は……感覚が消えていった。
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