第13話 池袋駅前合同捜査

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 池袋駅前合同捜査の日がやってきた。俺は今日まで風邪を治すのに集中しており、技の練習なんて一切やってこなかった。唯一、彼に渡されたDVDだけは常に観ていた。観たからどうなるって訳でもないが、技の動きだけでも覚えようと努力したのだ。


 捜査は18時からを予定しているため、まだ時間はある。最後の追い込みとして、目黒基地内で技の確認を行う。特殊なマネキンに向かって、マネキンの骨を折り切るようにして、格闘技をかける。


 不思議にも、意外とできた。外から見れば不格好で、技として判定されないだろうが、マネキンをへし折ることができた。これは立派な進歩だ。もちろん、能力は使った。


「上出来だ。本番までゆったり休もう」


 エヴァローズさんはビール缶片手に、陽気な口調で話しながら大きく拍手した。横には目黒さんもいる。どうやら俺が寝込んでいた間に、技を覚えていたらしい。万が一俺が技を覚えられなかった時のために、遠隔操作で俺のスーツを動かす特訓をしていたとも聞いた。


 これらの作戦は、俺にかかっているのは分かっている。だからこそ半端ではないプレッシャーが、俺の背中と腰にのしかかる。


 彼に言われた通り、小型のバンの中で睡眠をとった。肉体的に疲れているなら、その動作をやめるか休むか。しかし精神的にも疲れているのなら、動作をやめて休むだけでは解決しないこともある。だが、それ以外の方法は思い浮かばない。


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 俺を乗せた小型のバンは、池袋駅付近の立体駐車場に到着していた。寝ている間だったため、気づくことはなかったが。


 目を覚ますと、バンの前に警視総監が立っていた。俺が目覚めるのを待っていたようだ。最初は係の人間かと思ったが、胸に立派な菊のバッジが付いていたため、すぐに分かった。彼は立派な髭を生やし、眼鏡をかけていた。その方が何故俺を待ってくださっていたのか。


「君か、鎌倉を救ったのは」


 寝起きでまだ不安定だが、失礼な行動をとってはいけない。欠伸や目を擦るのを我慢し、警視総監に礼をする。


「鎌倉は私の出身、実質、私も君に救われた。感謝している。次は犠牲者を減らすよう努めてくれ」


 有難い言葉を頂き、礼をする。彼はそれを言うと、警察の特殊車両に乗り、池袋から離れていった。

 実際、鎌倉の戦闘で失った尊い命は計り知れない程。小町通りの店も幾つか破壊された。俺がやらなきゃ、全滅する可能性だってある。彼の言葉は励ましにもなり、同時にプレッシャーにもなった。


「星田君、君は湘南新宿第二部隊に着いてきてもらうことになっているが、自由に動いてほしい。高田馬場駅付近で駐在するチームと、池袋西口公園で中継地点となるチームに分かれるが、君は2チームから情報を貰い、自由に動け。他部隊と接触しても構わない」


 小型のタブレットで地図を見ながら、自衛隊員から説明を受ける。俺は第二部隊に所属することになっているが、自由の身。池袋駅付近ならどう動いても構わないが、妨害行為だけはするなと念を押された。


 俺も納得し、連れて行かれた先で戦闘服に着替える。警察や自衛隊は皆長袖の服装に着替えていた。白いロングTシャツの者もいれば、会社員に変装している者もいる。


 一見、一般人と大して変わらないように見えるが、服に見えるだけで、実際は防弾服。触っただけでも分からないが、銃弾は防げるらしい。ダイラタンシー現象を使っているとかどうとか。知らない所で、こんな研究が行われていたなんて。


 しかし、俺の服装だけは異様なものだった。

 自衛隊員が着るような戦闘服でもなく、皆が着ているような一般人に偽装するための服でもなく、真っ黒の全身タイツが置かれていた。しかもパーティー用なのか、薄くて破れやすい素材。これだけかと思いきや、更に不気味なヘルメットを被せられた。


「マジックミラーを使用しているから、前は見えるはずだ」


 どうやら一般人に顔がバレないように隠すためのヘルメットらしい。しかし、黒タイツは何の意味があるんだ。これを着る方がもっと目立つ。何とか上層部の方々を説得して、普通のスーツでの戦闘を認められた。逆に何で彼らはこれを用意したのだろう。


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「こちら湘南新宿第二部隊。”H”は現在、目白駅前にて待機中。これより多数反応が確認された池袋駅に”H”を送る。第三部隊におくれ」


 自由の身とは言ったが、それでも作戦通りに動かなければならない。どこにでも行ける訳でなく、部隊の隊長の指示した場所に自力で飛んでいくような形をとられた。


 それに、俺は”H”と呼称されている。星田から取ったのか、それにしては別の意味に捉えられてもしまう。まぁ、細かいことで気にしている時間はないな。


 俺は能力を使った。身体は白く発光し、全身に力がみなぎるような感触を得た。いざ、池袋駅に向かおうとしたが、ある部隊の無線によって止められた。


 内容は……こう。


「東池袋駅前中継チームの第六部隊の通信が途絶えた。同時に発光現象も確認された。”H”は直ちに東池袋駅及び直上の首都高速道路に向かえ」


 遂に奴らも動き出したか、なら俺も動かないといけないな。俺は池袋駅とは逆の方を向き、東池袋駅に向かって走り出した。白く発光した独りの男が、夜の池袋を駆け抜ける。市民には指を指され携帯で撮られるが、気にしている暇なんて俺にはなかった。


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