第7話 我々の団体

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 光が消えると、俺の足元には魔法陣が出現していた。肩に入っていた刀は地面に落ちており、肩の傷は癒えていた。急いで彼女を起こし、隊員の所まで避難させる。その途中で俺は店のガラスに映る自身の姿を確認したのだが、装備含めて全体的に白く発光しており、目は青く発光していた。


 身体は軽い、少し跳ねるだけで5mは跳べる気がする。力も溢れ出ている感じがするし、戦意も取り戻せたような感触。


「君も能力者だったか、尚更我々の団体に入らないか」と奴は言う。薬物使用者だけの団体があるのか、言い換えれば法律違反だらけの犯罪者集団じゃないか。


「断る」

 

 俺は一言だけ発し、奴に向かって突進した。

 速い、自分の突進するスピードに驚いた。車を運転しているのか、というくらいの速さ。また突進の威力も強く、これもまた車をぶつけたのかというくらいの威力。


「グハッ……」と奴は吹き飛び、その影響で仮面も外れた。中身はただの人間、どこかで見たことがある……とかでもなく、ただの普通の人間だった。


「流石だ、やるな」

 奴は2本目の刀を抜き、俺に向かって振り下ろした。が、それを俺はそれを右の前腕で受け止めた。腕に傷が付くこともなく跳ね返し、右足で奴の股間を蹴り上げる。赤い甲冑で守られていることには守られているが、強化された俺の蹴りには敵わない。


「畜生めらが……」

 奴はそう呟きつつ、数本の青白く光った刃を俺ではなく彼女たちに向かって放り投げる。不思議なことにそれらの刃は、彼女たちに向かって綺麗に向かっている。まるで意志を持っているかのように、自動運転でもしているのか?


 彼女たちは避難させたには避難させたが、それでもまだ小町通り内にいる。刃が彼女たちの所に届く前に、どうにか消さなければならない。一体どうすればいいのか?


 とにかく俺は走る。防ぐ方法は考えていないが、走るスピードが速く、すぐ彼女たちの元に着いた。刃は全部彼女たちを狙っている。なら、彼女たちを動かすよりもこの刃を消す方法を考えよう。


 幸い、走るスピードには恵まれている。現地点から1番近い刃に向かってズボンに差していたハンドガンを取り出して撃つと、見事に刃は割れて消滅した。

 見えた、ある程度の衝撃を与えれば刃は消滅する。拳銃で撃つだけで消えるなら有難い。


 深く呼吸、吸って吐いてまた吸って、目をゆっくりと開くと、物の動きがゆっくりになって見える。実際に動きがゆっくりになっている訳ではない、動体視力も強化されたのだ。


 飛んでいる青い刃に向かって、銃を撃つ。当たれば、刃はその場で割れる。両手に拳銃を持ち、狙いを定めた。


 パリン……


 彼女たちに傷を付けずに、なんとか全ての刃を割ることができた。少量の青白く光る粉がサラサラと目の前に降り注ぐ。


 奴が逃げ出す前に、隊員から拳銃を借り、奴の元に走った。赤い甲冑を脱いで逃げ出そうとしていた所をとっ捕まえて、俺は質問する。


「”我々の団体”って何だ?答えろ」と。


「薬物使用者……と巷では言われているな。能力者が集えば、世界を転覆できるのさ。我々と共に行かないか?」と、奴はニヤリと笑った後にそう言った。


「俺は世界を転覆させることにも興味が無い」


「そうか、正義感に溢れていて……いい男だ」

 奴はそう言った後、小刀を腰から取りだし、自らの腹に突き刺した。


 自決の道を選んだんだろうな、そこだけは武士らしさを見せたが、薬物使用者特有の爆発がまだ残っている。ここは駅前、できればこれ以上の被害は避けたいが、ここから1分で海に運ぶのも難しい。奴は小柄な男だが、それでも限界はある。


 やってみるかしかない。

 俺は奴の甲冑を外そうとしたものの、複雑な形状をしており取れなかった。このまま運ぶしかない。もう時間もない、海は諦めた。代わりに……上がある。


 今度は奴を片手で抱えたまま、助走をつけ、警察の特殊車両を踏み台にして高く跳ぶ。どうにか駅前のビルの屋上に届いたが、ここからが問題だ。もう時間もないようで、奴の目がより紅く発光している。


 爆発に巻き込まれる可能性もあるが、俺ならいけそうな気がする。謎の自信に満ち溢れている俺は勢いつけて、奴を空中に両手で放り投げる。力もあるため、奴は地上から30mくらい離れた所で爆発した。衝撃波で何個かのビルのガラスが割れたが、特に二次災害もなく無事に済んだ。


 地上に飛び降りると、彼女たちも駆け寄って来てくれた。能力も解除できたみたいで、白く発光していた身体は元通りになっていった。身体が重い、頭もクラクラする。これが薬物の力か、依存症になる理由も分かるな。これなら俺も何度も手を出す気がする。

 右肩を見ると、傷口が無かった。塞がっていたんじゃない、傷口自体が無かった。斬られたという事実も無くなったかのように。防護服は斬られているのに、不思議だな。


「よかった、戦う意思がないと能力が使えないのかな」


 彼女は俺の事を心配しつつも、冷静に分析していた。他の隊員も一応は俺の事を労ってくれたが、何人かはまだ俺の事を恐れているように避けていた。まぁ仕方ないか。


 とは言え、被害は大きい。文化財に直接の被害は無いが、鎌倉駅前で戦闘を繰り広げていた殆どの警察やJDPA_D隊員が真っ二つになっていた。しかもビルも警察の特殊車両も横に真っ二つ、ビルの瓦礫やガラスの破片が地面にびっしりと敷き詰まっていた。


「鎌倉駅前に救護班要請、死者多数……」


 生き残った隊員が無線通信で助けを求める。初めて力を意識がある中で能力を使えたというのは喜ばしいことだが、喜ぶには犠牲者が多すぎる。


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