第29話 決戦3「最後の晩餐」
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私は急いで2人に状況を説明した。マキシミがモンスターの力を使えたこと、スカイが自分を逃がしたこと、結界が解除されモンスターがこの城を取り囲んでいること。全てを話せるだけ話した。
「俺たちは大丈夫だ。警備の輩がクロスボウを所持していた、屋上に登ろうとしているモンスターをそのクロスボウで倒している」
現に登ろうとしてきたゴブリンを、アレアがクロスボウで撃退している。四方八方からモンスターらは登ってくるが、クロスボウは1つしかない。そのためアレア自身が屋上を走り回って、1匹ずつ駆除していく。それでも間に合わない場合は、ガイアが剣で駆除する。
アレアも本来はモンスターを保護したいはずだが、これは致し方ない。保護対象が自分の命を奪おうとしてくるのだ。野放しにしておいては、いつか自分の命が奪われてしまう。
モンスターの洗脳を解く方法は、現状無い。自分の手で弔う他に方法は無い。
次の瞬間、辺りが黒い何かに包まれた。
私を含めた3人共々、お互いを視認できなくなっていた。時間帯は昼、曇り空だとしてもここまで暗くなることは無い。
これは……モンスターの仕業だろうか。
「シアン……」
ガイアは突然声を上げた。シアン……という人はここにはいない、村に残っている。が、何故かガイアには目の前にシアン……がいるように、暗闇を駆け回った。
アレアもロックも彼の行動を不審に思っていたが、次第に彼にもシアンという女性が見え始めていた。先に言った通り、ここに女性はいない。
「シアン……」とアレアも口にした。
私にはシアンという人物が見えない。だからこそ、周りの2人の行動がとても奇妙と感じていた。
しかし、周りは完全に真っ暗。何も視認することができない。下手に動けば、この屋上から滑り落ちてしまうことだって考えられる。
私が取った行動はただ1つ。盾をしまい、剣を両手で構える。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐く。目を閉じて、呼吸を整える。
「ふぅ……」
彼は一息ついた後、暗闇の中走り出す。少しでも位置を間違えれば、城の屋上から飛び降りることになってしまう。が、彼は一直線に走り始める。
カタッ……
私は両手で構えていた剣を背後に振りかぶった。何も無い空虚な空間に向かって。更に剣を右手に持ち替え、強く深く突き刺した。
「ガァル……」
辺りの暗さは嘘だったかのように消え、また明かりを取り戻した。真っ青な空、太陽の照り返し、そして城の下にいるモンスター。
「シアン?」
「シアンはどこに行った?」
先程までシアンの姿が見えていたアレアとガイアは疑問に思ったまま。先まで見ていたのは何だったのか、何故暗闇が出現したのか、2人とも全く理解していなかった。
まだ頭がぼんやりしているのか、彼らはその場でうずくまった。
「ウィッチがいた。恐らく幻想を見せられたのだろう」
ウィッチというモンスターは人に幻想を見せる能力を持つ。その幻想の種類は幾つかあり、愛する者や信頼する者を映すことが多いらしい。
私にはモンスターの位置を特定する能力がある。そのため幻想を見ないように目を瞑れば、ウィッチを倒すなど容易。
アレアは赤面した。それを見たガイアは何かを察したように目を逸らす。
「そうね、ロック」
私の後ろから女性の声が聞こえる。もちろん、ここに女性はいない。ウィッチは私自身の手で倒したはずだが、一体何故。
振り向いた先には、美しい格好をした女性がいた。宝石を身につけた、いかにも”貴族ですよ”といった格好をしている。
「メイ……」
私は思わず呟いてしまった。メイが何故ここにいる、何故私の前に立っている。
メイはあの時……。
ああ、そうか。これは幻影か。これはウィッチが見せた幻影だ。私の前にメイが現れる訳がない。
背後に気配を感じた。そこか。
私はまた両手で構えていた剣を背後に振りかぶった。今度こそやったはず、前にいたメイの幻影も消滅し、青い空が取り戻された。
どこからが幻影で、どこからが本物か分からなくなるな。このままだと、前にいるアレアも疑ってしまう。
「ロック、ありがとう」
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透明な壁が消滅した今、俺は屋上に向かって走る。奴は巨大化した身体を扱えずに、俺を追いかけるもその速度はとてつもなく遅い。これなら追いつかれずに屋上に到達するだろう。
それにしても、奴の姿が見えない。奴は俺を追いかけるのを諦めたか、いや諦めることは無いだろう。
考えるな、走れ。
バタン!
俺は扉を力を込めて開けた。
「スカイ! 無事だったか?」
屋上には3人ともいた、ロックもヘイトリッドもガイアさんも無事だったか。
「スカイ、下を見ろ。モンスターがここまで来ている」とロックが説明する。
覗き込むように下を見ると、既に城の壁にモンスターが張り付いていた。ゴブリンやスケルトンが、あの小さな手を駆使して一生懸命登ろうとしている。それをヘイトリッドは無惨にも、クロスボウで射抜く。
ここに居ては、奴に追いつかれてしまう。またこの量のモンスターを4人で相手するのは、限界というものがある。
チリン……と腰につけていた鈴を大きく1回鳴らした。すると、すぐ近くの森から赤い翼をしたドラゴンが出てくる。
ドラゴンの力を借りよう、城に結界は張られていない。そのため、今ならドラゴンもこの城に近づける。
「結界はない、背中に乗せてくれ」
俺たちは直ぐにドラゴンの背中に飛び乗った。ドラゴンもこの状況を理解したらしく、一旦城から離れるように飛び立った。
飛行可能なモンスターはドラゴン以外にもいるかもしれないが、ロックの情報によればこの近辺にはいないらしい。つまり、空中に逃げさえすれば、敵の攻撃は当たらなくなる。
このまま逃げる訳じゃない、一旦作戦を考え直す。マキシミの能力は想定外、その上城の周りにモンスターがいるなら----
ゴゴゴゴゴゴ……
ガチャラガチャ……
突然、城が崩れ始めた。先まで俺たちが居たあの城が、大きな音をたてて崩れ始めたのだ。
「何があった……」
ここにいる4人、かつドラゴンもこの状況を理解していない。突然城が崩れるなど、予想外の出来事である。
城は跡形もなく崩れ落ちた。幸いにも、城の周りにいたモンスターはほとんどが巻き込まれていった。神が味方してくれたのか、俺たちがもしドラゴンを呼ぶのが少しでも遅れていたら、あれに巻き込まれていたかもしれない。
瓦礫の山が赤く染まる。中で巻き込まれたモンスターが死に、その血で染まったのだろう。不気味だな。
ガラン……!!
瓦礫から巨大な腕が出てきた。腕だけでない、ゆっくりと胴体も顔も足も出てきた。
あれは……奴だ、マキシミだ。マキシミが巨人の力を使ったのか、15mほどの巨人となって瓦礫の山から現れた。
俺たちが慌てふためく姿が見えているのか、マキシミは大きな声を発した。
「始めようか、最後の晩餐を!」と。
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