第30話 決戦4「巨人」
----------
巨大化したマキシミは、両手で胸を何度も叩く。俺たちを挑発しているのか、気合い入れの行動なのか。
だが、奴の弱点を俺は既に炙り出している。
「やつは奴は一度に複数の能力を使うことはできない!」
奴は先の戦闘時も、ヴァンパイアやゴーレムといった複数のモンスターの能力を駆使して戦闘を行っていた。しかし、それらは同時には使えなかった。俺とロックを追いかけるために呼び出したコウモリの大群は、透明な壁が現れた直後に消滅していた。また奴がジャガーノートの力で巨大化した瞬間、透明な壁も同時に消失した。
これらから見るに、今の奴は巨人の能力しか使用できない。この状況で透明な壁を出現させることはできないし、コウモリの大群を呼び出す事もできない。
今の奴は、体が大きいだけで無力。
ドラゴンには滞空してもらい、作戦を考える。
「巨人はさておき、城の周りに残っているモンスターはどうするべきだ?」
「巨人を倒す方法が思いつかない、せめてマキシミを完全に無力化できれば……」
「このままドラゴンで奴の巨体目がけて突っ込んでみるか?」
「それは私が許さない、ドラゴン様に余計な危害を加えるな」
まだドラゴンの心配をするロック。彼は何故ここまでドラゴンのことを崇拝するのだろうか、同じ保護団体のヘイトリッドでも引いているくらいだ。
このように4人全員で意見を出し合う、意見や考えは多ければ多いほど良い。だが、この話し合いにあまりにも気を取られすぎていた。
「巨人が消えたぞ!」とヘイトリッドが叫んだ。
慌てて瓦礫の山を見てみると、先程まで立っていた巨大なマキシミが消えていた。
これは他のモンスターの能力を使ったに違いない。どこだ、どこから来る?
《ヴァンパイア》
瓦礫の山から、先程とは比にならないくらいのコウモリの大群が出現した。何百体……いや何千体いるのか、見ただけでは数え切れない程のコウモリが空に飛び立つ。
「あのドラゴンを狙えぇぇぇぇ!」
瓦礫の山から声が聞こえる、マキシミがコウモリの大群を操っているとなると……。
予想通り、コウモリの大群が俺たちの乗るドラゴンを追いかけて来た。
ドラゴンは急いで滞空状態を解除し、コウモリの大群を避けるように飛ぶ。
流石ドラゴン、コウモリの大群を置いてきぼりにする程を速度を保って飛行することができるらしい。
マキシミも一気にこの大群を操っているからか、コウモリ同士空中で衝突する奴らが多い。衝突したコウモリらは地面に落ちる前に消滅した。
「ヴァンパイアの能力はこれだけでない!」
マキシミは両手を広げ、また叫んだ。
《ヴァンパイア》
空中にいたコウモリは全部消滅したが、マキシミの様子がおかしい。また巨大化するのか、それとも……。
いや、徐々に奴の全身が黒くなっていく。大きな翼も生え、鋭い爪や牙が顕になる。
外見はもはやコウモリ同然、人間と同じ大きさのコウモリという所以外違和感は無い。
「マキシミ自身がヴァンパイアの能力を使ったのか……?」
ヘイトリッドが推測した通り、奴は巨大な翼を広げ、ドラゴンに向かって飛んでくる。
バサッ……バサッ……と翼を広げて、飛行する。奴は飛行には慣れている様子だ。
「あのコウモリ野郎、クロスボウで射抜けないのか?」
「いや、躱されるだろうな」
実際にヘイトリッドが奴めがけて矢を射るも、まんまと躱されてしまった。それどころか、奴はぐんぐん加速してゆく。
まずい、このままでは追いつかれる!
ここで、ドラゴンの背中の荷物を括り付けてある場所に、1つの落下傘が見えた。
奴の狙いは、まさしく俺だろう。なら、やってみるしかない。
荷物置き場から落下傘を1つ回収し、逃げ惑うドラゴンの背中から飛び降りた。
ビュオオオオオ……
「スカイ! なにをす--」
俺を心配する声は、風の音で掻き消されてしまった。
奴は予想通り、目標を俺に変えて、落下する俺めがけて飛んで来る。地面までの距離は30mあるかないか、このままでは奴に串刺しにされてしまうからな。それなら今開くしかない。
カチャカチャ……
バサッ……!!
実験でも上手く扱えなかった落下傘は、バサッという音ともに勢いよく開いた。
地面までの距離はもう3mもない。勢いよく落下したはずだが、落下傘のおかげでほぼ怪我なく着地することができた。
これもまたアミティエで会った討伐者のおかげだ、礼を直接言いたかったな。
「落下傘を持っているとはな、驚いたよ。どのルートで手に入れたのかな?」と奴は言う。
やはり、この落下傘は政府から見ても貴重な技術の代物に違いない。何故あの討伐者が持っていたのか、それは今は気にしている場合ではないか。でも、礼を言いたい。
「貴様の狙いは俺か? 何故俺を狙う?」
「答えてやりたいが、答えたら強制労働所に連行しても構わないな?」
強制労働所? 確か身元不明の人間を、強制的に労働させる施設だったか。これはガイアさん達も言っていたが、あくまでも都市伝説のような扱いではなかったのか? 実在していたのか?
それにしても、何故俺をその施設に連行したいのか。記憶喪失だから俺を連れて行きたいのか、いやそれにしても、俺が記憶喪失だということを把握できていないはずだ。
「強制労働所の存在を知らなかったのか。また口を滑らせてしまったな」
奴……マキシミは口を滑らせてしまうことが多い。強制労働所の存在など黙っておけば、俺が気づくことなどなかった。先程も、世界の主がどうたらこうたらと言ってたな。
奴と対話し続ければ、より重要な情報を聞き出せるのでは?
「強制労働所の王は言っていた、死体でもいいから回収しろ……と」
ダメだ、本気で殺しにきていた。
今、俺には装備がある。鋭い剣2本、友情の証とされている盾、ある程度の攻撃は防げる鎧、武器ではないが赤いマント。
だが、奴に通用する武器があるかどうかと言うと微妙だ。ただのモンスターなら……ゴブリンやスケルトンなら倒せるかもしれないが、奴の能力上”ただのモンスター”ではない。
かと言って、上で待機しているドラゴンと3人を巻き込むようなマネはしたくない。何人かでも村に返さなければ……ここで全滅すれば最悪のシナリオにだって成りうる。
つまり、俺1人で奴を倒す必要があるということだ。
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます