第28話 決戦2「ライムートの主」
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ビイィィィィィィイン!!!
外から巨大な音が聞こえた、鼓膜が破れそうなほど大きく。
「私の、いやゴーレムの力で結界を張っていたが解除した」
奴はモンスターを近づけないために張っていたはずの結界を自ら解除した。それなのに奴は嬉しそうに笑っている。目の焦点も合っていない、気でも狂ったか。
「スカイ、何百体ものモンスターが近づいてくる! 位置は……城の外からだ!」
ロックは慌てふためきつつも、俺に伝えた。なるほど、結界を解除した理由が分かった。
「モンスターの力は偉大だ」
奴はそう言うと、右手を前にかざした。
《ヴァンパイア》
突然、奴の手から大量のコウモリが出現した。何百体といるコウモリは、全部俺の方向へ向かってくる。これが、ヴァンパイアの能力か……?
ロックは完全に戦意を喪失しており、震えが止まらない。ここは俺1人がどうにかするしかないみたいだ。
俺はロックの手を引っ張り、来た道を走って戻る。このままコウモリの大群を相手にしたところで、いつかは奴にやられてしまう。ならば、一旦屋上でヘイトリッドたちと合流し、ドラゴンを呼ぶ。それしかできることがない。
《ゴーレム》
また、目の前に透明な壁が現れた。俺は強く顔面を打ち付けてしまったが、何故かロックはその壁を通り抜けることができた。目の前にいたコウモリの大群はいつの間にか消滅していた。
「待て、赤マント君に話がある」
赤マント……は俺のことだろう。
奴は話があると言って、俺を呼び止めた訳だが……絶対戦闘に発展する。いや、発展させる。
ロックには屋上に行ってもらうことにした。
ドラゴンを呼び出せる鈴は俺が持っているが、この透明な壁の間でロックにこの鈴を渡せるかとなると微妙だ。ヤツも近くの森で身を潜めているはずだ。異変に気が付きさえすれば、すぐ城の付近まで飛んで来れるだろう。
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「おい、結界が消えていくぞ」
ガイアは徐々に青を取り戻していく空を見上げる。ヘイトリッドも同様に、異変に気がついていた。
ヘイトリッドは耳がいい。遠くの音も聞き分けられる……らしい。
「モンスターが来ます! それも大量に」
ヘイトリッドの言葉を耳にしたガイアは屋上から辺りを見渡したが、既に城はモンスターに囲まれていた。ゴブリン、ゴーレム、スケルトン。
他にも《討伐者》であるはずのガイアですら把握していないモンスターや、図鑑でしか見たことないような神出鬼没のモンスターまで、様々な種類のモンスターがこの城の周りを取り囲んでいた。
「あれは……ウィッチか?」
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「で、話とは何だ?」
俺は奴に尋ねる。この状況下で、奴が普通の対話を望んでいるはずがない。
剣と盾をゆっくりと構えるも、奴は一切武装をしていなかった。もしかすれば、透明な壁で盾を作っているのかもしれないが、現状奴は剣も盾も持っていないということだけは分かる。
「話をしよう、ライムートの主である私を倒せば全てが終わると思っているな?」
奴は両手を広げつつ俺に問いかける。
モンスターを洗脳し襲わせたのは、ライムートの主しかありえないだろう。現に大量のモンスターがこの城を目標に進撃していると聞いた。役所仕事に潜入していたロックも、国の主しかありえないと予想した。
「考えが甘いな、世界に何十カ国存在するのか、君は分かっているのか?」
ライムート以外に国が存在するのも知っている、しかしこの国が1番栄えているというのも知っている。モンスターを洗脳させる能力を持つから、この国が1番栄えている、と因果関係が繋がっている。モンスターを洗脳させ、それを兵器として使い、他国を蹂躙してきた。だからこの国が1番強く、栄えるのだろう。
「だから考えが甘い、世界の主の存在を知らないのか」
奴は両手に収まる程の火の玉らしき光る球体を出現させ、両手を合わせた。光る球体は徐々に膨張し、やがて天井に届くほどの大きさになった。
「この球は?」と俺が聞くも、奴は念じているのか聞いていない。
ゴオオオオ……
その球体は大きな音を立てつつ、周りの物を取り込む。壁にかかっていた絵画、火のついたロウソク、床に敷きつめられていたカーペット。それら全てを取り込んでいく。
光る球体に俺も取り込まれるんじゃないか、と不安になるも……奴自身取り込まれていない。
「この球体は?」と改めて聞くと、奴はやっと気づいたのか、球体を持ちつつ俺の方へ向かってくる。
「これは……宇宙だ」
奴は光る球体を両手に持ち、床に置いた。
ギュイイイイン……
光る球体は急激に小さくなり、光も消滅した。
宇宙? ダメだ、理解が追いつかない。その奴が言う宇宙は消滅したが、奴は何をしたかったのか。
《ジャガーノート》
突如、奴の身体が巨大化した。天井に届きそうなほどの巨体に、俺は思わず見とれてしまった。しかし、見とれている場合ではない。天井を突き破りでもすれば、屋上にいる3人の命が危ない。
いつの間にか、目の前の透明な壁が消滅していた。
今のうちだ、屋上に行こう。奴は巨大化したためか、歩く速度も遅く、巨体を上手く扱えていない様子。
今だ。
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「アレア……」
いつもは冷静な男が、顔面蒼白のまま走って来た。周りの人間と驚き彼の元に駆け寄るが、彼は息を切らしているようで、対話が成り立たない。
「ロック、と言ったな。何があった?」
近くにいた大男が彼に尋ねる。
「モンスターが城の周りに……スカイはマキシミと直接対峙している!」
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