第8話 切断
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「もうご飯の時間だからね、手を洗っておいで」
彼女はまるで子供を扱うかのように、そう言った。
「俺は……いくつだ?」
無意識にまた言葉を発していた。
「いくつだって……19歳でしょ。一体どうしたのよ?」と彼女は言うが、無意識のまま俺は更に続けた。
「ここはどこだ。俺は誰だ。そして、今はいつだ」
さすがに彼女も怯えたようで、弱々しく声を発した。
「ここは……ブルート村で……名前はホープ・メールよ。今はいつって……2月の1----」
ちょうど最後の方が聞き取れなかったが……ブルート村という村を俺は聞いたことがない。その上、ホープ・メールもご存知ない。俺の名前が、ホープ・メールというのか?
「本当に……どうしたの?元気も無いみたいだし……」と心配そうに話しかける彼女。
「いや……特に」と俺は返していた。
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「どうしたのよ……本当に。ご飯も一切手をつけていないし……。明日、診察所でも行く?」
彼女は心配そうにずっと話しかけてくる。食欲もなく、食事中もスプーンをずっと握りしめるだけだった。
俺の手はブルブルと震え出した。
持っていたスプーンも床に落としてしまうほど大きく。
その後、突如俺は発狂していた。
老夫婦は怯えだし、その場で崩れ落ちた。部屋の鏡をチラッと見ると、俺の眼は真っ赤に染まっており、顔も強ばっていた。
無意識のうちに、それも俺も意図せず、右手にフォークを持ち、そのまま彼女の目に突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁああ!!」
彼女は叫びに叫び、苦しみながら椅子から崩れ落ちたが、それでも俺は近くにあったナイフを彼女の身体に刺し続ける。止まることはない。
そして彼女から声がしなくなった頃、父親と思われる彼が小便を垂らして気絶しているところを発見した。どうりで声も出さないわけだ。
彼の心臓めがけて、野菜を切っていたとされる包丁を突き刺す。上手く刺さらずに、大量の血が飛び出るだけだったが、完璧に殺したいからか、次は彼の口に刺した。口に刺した包丁は貫通し、目の周りから血が出てきた。
俺はどうしてこのような行動をしているのだろうか。よく分からないが、この身体を制御することが何故かできない。自分の身体のはずなのに。一人称視点で物事が進んでいるが、これは俺の身体ではないのかもしれない。体つきは以前の俺に近いが。
「何があった!」
「メールさんの家から叫び声が聞こえたぞ!」
村人がぞろぞろと家の外に集まってくる。今、この現場を見られてしまっては、俺は死んでしまうだろう。
村人たちに見つからないように急いで庭に出て、人を殺れるような武器を探してみると、ちょうどいい大きさの斧を見つけた。本来は木こりに使うものだろうが、人こりでも斧本体は構わないだろう。
「メールさん……?」
どうやら村人のうちの1人が、家の中に入ってきたようだ。もうじき、死体を見つけるだろう。
「ぎゃぁあああ!!」
バタン……
予想通り、その村人はすぐに声を上げていた。ほぼ悲鳴のようなもので、彼の姿はちょうど見えないが、おそらく気絶してしまっただろう。大きな音も聞こえた。あの血の量を見れば、一般人は誰でもそうなるだろう。
「おい、大丈夫か!」
気絶した村人の声を聞いた他の村人が、ぞろぞろと家の中に入ってくる。ちらっと見た限り、5人くらいはいるだろうか。
「ふっ!」
彼らが死体に目が釘付けになっているうちに近づき、気絶している方の村人の首を切断した。一気には出来ないため、体重をかけつつゆっくりと。
他の村人は俺に気づき、恐怖の塊を目に映した上で、様々な反応をした。
とある村人は俺に「大丈夫だったか?」と不安そうにも話しかけ、また別の村人は……俺が持っている斧に気づき発狂し、また別の村人は落ちた首を見てしまい嘔吐し、また別の村人は台所にあった別の包丁を持ち、俺の前に立ちはだかった。
反応が人によって違う。なんと面白いことだろうか。外見は大差なくとも、反応は違う。
幸い、力はある。手に持った斧で、その5人の村人の切った。
反応が人によって違うように、俺も切る場所を変えていた。首だったり、手首であったり、太腿であったり、男の勲章であったり、腰であったり。
そこにいたほぼ全員が、大量出血により死亡した。息をしている人もいたかもしれないが、特に確認をする訳でもなく、俺はそのまま外に出た。
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「ホープくん! 一体どうしたんだ……その血--」
俺を心配してきてくれた髭の生えた老年男性は、斧によって首を撥ねられ亡くなった。
「うわぁぁぁぁああ……!!」
俺の身体にこびりついている血を見て叫んだ少年は、斧により股から切り裂けて亡くなった。
「ヴォエッ……」
血の臭いが街に広がり始め、嘔吐しそうな少女は……斧によって口が裂けてそのまま死んだ。
レパートリーが少ないが、仕方がない。
俺は、大半の村人を殺していた。ホープという奴は、信頼でもされていたのか。斧を持った姿でも、村人たちは心配して話しかけてくる。
だから、俺もやりやすい。
たまたま目の前にあった家で、ナイフと水を調達する。流石に喉が渇くな……。それに、前も見えないくらいに返り血塗れとなっていた。鏡を見てみたが、全身真っ黒に染まっていた。
「ホープ……?」
外に出ると、見知らぬ少女が話しかけてきた。
いや、見たことはある。名前は知らないが……。少し前に……『明後日、向こうへ行ける』といった内容を話しかけてきた少女だ。
「大丈夫だった? 殺人鬼が来ないうちに早く逃げよう!」
殺人鬼……ということになっているのか。
「明後日……というのはどういうことだ?」
無意識にまた俺は質問していた。
「今する話じゃないでしょ! 急いで!」と彼女は急かすが、俺は立ち止まったまま動かない。彼女は腕を引っ張るも、この場に留まり続ける俺に違和感を覚えたようだ。
彼女も立ち止まり、俺に向かって話し始めた。
「明後日……海の向こうにある都市に行く予定だったでしょ。確か……アミティエって----」
彼女の声が聞こえなくなった。
それもそうだ。右手で持っていたナイフを無意識のうちに、彼女の腹に刺していた。彼女は血を吐き、そのまま倒れかかってきた。
「うごぁぁぁぁあああ!!」
無意識とはいえ、意識はある。だが、手は止められない。俺は発狂しながらも、手は冷静に彼女の腹にぐりぐりと刺し続ける。
「はぁ……はぁ……あああああ‼︎」
呼吸は落ち着かない。しかし、このままにしても仕方がない。腹からナイフを抜き、死体を地面に置き……と一連の作業をしたところで、とあることに気づいた。
声が聞こえる。どこからだ。どこかで聞いたことのある声だ。女神様か。天からのお迎えが来たのか。女神にしてはドスの効いた声だ。
「おい!」
だから……誰だ、この声は。
「大丈夫か!」と天から声が聞こえる。だから誰だよ……。
俺は村中を走り回った。生存している村人がいれば刺し、「助けてくれ……」という言葉を発する者には救済として刺し、親を亡くした子供を見れば……来世を願いつつ刺し潰す。
この村に生存している者は、俺しかいない。
「どうした……急に!」
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ここで俺は目を覚ました。夢だったのか。それにしては、全身筋肉痛。鏡を見ると、顔どころか全身に包帯が巻かれている。
「大丈夫か?」
この声は……ガイアさんか。彼は心配そうに俺を見つめている。シアンさんは……というと、奥の部屋で休憩しているとのこと。
「お前……急にいなくなったと思ったら、次の日血だらけで平原に倒れているところを発見してな。そこから三日三晩眠っていた。しかも、今さっき突然叫び始めて……あの後一体どうしたんだよ」
三日三晩眠っていた……か。
谷底に落ちたあと……ゴブ……あれ、何をしたんだったか。谷底に落ちて、歩き、そして……覚えていない。
何の夢を見ていたかも忘れてしまった。確か……。
「アミティエ!」
また無意識のうちに、この言葉を発していた。アミティエとは……俺もよく分からない。
「アミティエって……お前知っているのか?」
「アミティエは……レインマークとはまた違った都市だ。ここから結構離れているが……何故お前が知っている?」
俺も分からない。
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