第5話 キミカ・ジュモーグ

----------


 白蛇を討伐したのは……結局ガイアさんということになった。

 これは、彼が手柄を横取りした訳ではない。俺が自ら手柄を彼に渡した……という解釈でよろしい。これはガイアさんと俺以外、誰も知らない。シアンさんでさえ、彼が倒したと思っている。討伐した瞬間を見たのは誰もいない。


 俺はあまり理解していなかったが、巨大モンスターを討伐した場合、俺たちが住む村の近くにある都市・レインマークの役所に手続きをしなければならないらしい。攻略法を載せる……ということらしいが、少なくともかったるそうな手続きであることが分かる。


 俺が彼に手柄を渡したのは、手続きが億劫だから……という理由だけではない。

 人々に討伐者以上の力を有する青年がいると察されてしまっては……本当に強制労働所関連の者に追いかけ回されるだろう。それとなっては本末転倒だ。


 目立たないように、生きる。


「いや……大変だったな」


 手続きが終わり、彼は家に帰ってきた。役所の仕事、手続きが長すぎる。

 それもそのはず、白蛇はこの地域では現れにくいとされているモンスターだそうだ。そして、そのモンスターを討伐したとなると……ということで質問攻めをされたそう。


 質問には全て「野生の勘」と答えたそうだ。

 その答え方のせいで時間が長引いているのかもしれないが、彼は満足そうにしている。


----------


 言い忘れていたが、この村に新たな住民が増えた。この前の白蛇に住処を壊され、家族も大怪我を負ってしまい、この村に来た者がいる。確か、シアンさんの友達とか……。


「キミカ・ジュモーグ! 18歳、よろしくね〜!」


 俺の目の前にいる若々しい口調の少女が挨拶してくれた。金髪で目が青く、格好までもが若々しい。身長は俺より低いが、シアンさんより高い……ってところか。


 それで、彼女はシアンさんと同じく、モンスターの研究を行っているらしい。白蛇出現時は都市の方に滞在していたため、自身は実物を見ていないらしい。


「ねぇ、君も白蛇を見たんでしょ? どんな感じだった?」


 自分の家族がヤツに殺されかけたというのに、陽気に話しかけてきた。かと言って、答えない訳にはいかない。


「自分で討伐した」ということ以外は全て彼女に話した。白い身体に、紅く発光していた目があったことや、7mくらいはある身体とか、高く飛び跳ねるとか、移動速度が有り得ないほど速い……など、全て話した。


「--それで、シアンさんの父親が討伐しましたとさ。おしまい、おしまい」


 ガイアさんにオススメされた本……と言っても、幼児が読むために作られているであろう本の語り方を真似してみた。絵がたくさん描いてあって、逆に文が少ない。絵本という物らしい。


 彼女は全く別の問いを、俺に向けて発した。


「それで、君は何歳なの?」


 俺自身、自分が何歳かなんて知らない。体つきは男性となっていて、間違いなく子供ではない。声も低い上に身長もある程度はある。故に年齢は分からないが……一応成人済みということになっている。


 俺はまだ彼女に記憶喪失のことを言っていない。どう答えるべきか迷っていると、彼女が更に問いかけを行った。


「君の名前は何だっけ?」

「俺の名前は……スカイです」

「……本当の名前は?」


 本当の名前って……もしや、記憶喪失ということが勘づかれているのか?


「スカイです」と、無理やり押し切った。

 それ以上何も聞いてこなかった。


「私に敬語は使わなくていいからさ、よろしくね」


 やっぱり彼女には全て見透かされているみたいだ。だとしても、言わないが。


----------


「それで白蛇はどこから出てきたの?」

「キミカは白蛇が出現する瞬間を目撃していたの?」


 シアンさんとキミカさんがモンスターについて、家の中で話し合っている。彼女らはモンスターについての研究を行っていると言ったが、そもそもモンスターの情報は世間全体を見ても少ない。


 モンスターがどこから出現するのか、何を食べて生活しているのか、どうやって繁殖しているのか、第一にいつの時代から存在していたのか、よく分かっていない。


 彼女らはレインマークにある、第2モンスター研究室で研究をしていると聞いた。初耳だ、いや俺が聞いていなかっただけなんだが。

 都市の研究室でも、モンスターに関する情報がほぼないこと自体が驚きだ。


「私自身は研究室にいたから見てないけど、おばあちゃんが見たって言ってたよ。確か……森の中から白い蛇が出てきたと思ったら、いつの間にか空高く跳んだみたいなの。それでおばあちゃんは瓦礫の下敷きになって……」


 空高く跳んだのは……俺も見た。それも目の前で。ついでに彼女の祖母は生きている、亡くなったような話し方だが。


「そもそもの話、白蛇はこの地域に存在していたのね。西の国ではよく出没するとか聞いたけど……」と、シアンさんも理解に苦しんでいた。何も情報を得ることが出来なかったからだろう。


「そういえば白蛇の心臓の位置って……スカイは分かるの?」と急に、キミカさんに質問された。


「ガイアさんに聞いてくださいよ……」と言うが、また質問を繰り返された。


「敬語じゃなくていいよ! それで、本当に倒したのは誰なの?」


 また痛い質問だ。


「ガイアさんです」と答えるしか他ならなかった。


「私は見ていないけど、君は白蛇の血らしき液体を全身に浴びていたのに対して、シアンのお父さんは全くかかってなかったってね」


 ここまで分かっているのであれば、言ってしまってもいいんじゃないかな……と思うが、本当に念の為がある。


「俺はそばにいただけだ。彼が遠くから剣を投げて、それが心臓付近に刺さった」と、細かいところを気にせず、その場で考えたことをそのまま言ってしまった。


「ふーん」と、一応彼女は納得したようだ。察しが良すぎる。


 この後は彼女らの話をただ聞くのみで、彼女らも何も質問をせず、俺からも何の質問もしなかった。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る