第4話 巻かれろ

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「危ねぇ……」


 何とか避けきった。白蛇の身体は大きく長い、上から落ちてくるとなると、もちろんダメージは大きい。


 ヤツは高く跳び過ぎた。狙いを定め、落ちてくる途中までに走ると、何とか避けることができる。

 とはいえ、巨大な蛇が落下した時の衝撃というのは凄まじい。地面は揺れ、その場に立っては居られないほどだ。

 彼が眠っている場所まで揺れている可能性があるな……もう少し彼から離れて戦わなければ……。


 そうだった……ナイフはヤツに刺さったままだ。扱いやすい武器を失ってしまった。

 手元に残っているのは……彼から拝借した細い剣くらいだ。この剣は扱ったことがない。


 もちろん2本のナイフも扱ったことがないが、細い剣と2本のナイフなら……ナイフの方が扱いやすいだろう。軽くて小さくて……長所が多い。


 あの蛇は起き上がったと思えば、何度も地面に向かって頭突きを繰り返している。何故だろうか。


 もしかすると……白蛇は目が悪いのだろうか。


 一度だけでもそう思ったことは、何故か確認したくなる。ヤツは頭突きを繰り返し過ぎて疲れたのか、その場で留まっている。先にナイフを刺した横腹はガラ空きだ。


 俺はヤツの横腹からナイフを抜き、その2つのナイフでヤツの背中に突き刺した。


 ジャァァ……


 ヤツは暴れ回るが、この2本のナイフを強く握ってしがみついている。ナイフがヤツから抜ければ、そのまま地面へ真っ逆さま。


 俺はこの2本のナイフを駆使しながら、ヤツの頭の方へ登った。抜けないように……振り落とされないように……ゆっくりと。


 そして細い剣を右手に握り、ヤツの頭に思いっきり突き刺した。


 グシャッ……


 この剣は斬る……よりは突く方が扱いやすい。頭頂部から目の部分まで貫通したようだ。あの紅く発光していた目は、今では血で赤く染まっている。そして血も滝のように流れ出ている。


 ジャァァァア……!!


 少し前よりも、ヤツが暴れ回り出した。いや、のたうち回っているのか。やはり、目が弱点なのか。それとも、単純にどこかにある心臓なのか。心臓はどこにあるのか。この剣ならヤツの心臓まで突き刺すことができるのか。


 そう考えている間に、ナイフがヤツの身体から抜けていることを俺は気づけなかった。


「うあっ……」


 文字通り、俺は地面に真っ逆さまに落ちていった。


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 ブニョン……


 ブヨンッ……


 柔らかい……。これは、蛇の身体か? 頭はここまで柔らかくなかったが……。


 尻尾の方の身は……柔らかくなっている。

 あの高さから落ちても無傷だ。頭から落ちていなくとも意識は間違いなく失うだろう。その高さから落ちたが、俺は無事だった。


 なるほどな、蛇の尻尾には大事な部位がないということかもしれない。あくまで予測だが。


 しかし……手元にナイフはない、ヤツに刺さったままだ。剣は落ちる時に引っこ抜いてしまったが、ヤツの頭付近まで登る手立てはもうない。他には投擲武器になりそうな小石のみが地面に存在する。


 残念ながら心臓の位置は未だに分からない。普段の蛇自体遭遇した記憶すらないのに、いきなり白蛇は率直に言ってもハードすぎる。骨が折れるどころではない、神経までへし折れそうだ。


 ここで俺は、村長さんの言っていたことを思い出した。恐らく、この意味で言ったわけではないだろうが、この状況にも合致している言葉だった。


「来い!」


 俺は剣を収め、白蛇に向かって走った。両手には石も何も持たずに、素手で。

 ヤツは目が見えていないはず、という一縷の望みを頼りに。


 これもまた一縷の望みとなるが、ヤツと普通の蛇は比べ物にならないくらい大きな違いがある。それは……明らかに殺意があるかないか、だ。ヤツは馬も押し潰して殺した。押し潰す……という行為を普通の蛇は行うのだろうか。


 行うかもしれないな……。


 ヤツはというと……疲労からか身体が伸びきっている。


 俺はヤツの尻尾を強く踏みつけた。何度も何度も。するとヤツも対抗しようとしたのか、尻尾の方から身体がゆっくりと曲がっている。


 普通の蛇もよくする……”とぐろを巻く”という行為だ。普通の蛇は、安心した時や心を安らげる時にこれをするが、この蛇は違う。

推測だが、尻尾にいる俺を押し潰そうとしている。


 俺はあえて抵抗せずに、その巻く動作に身を委ねる。あえて……だ。


 ギュルッ……


 ヤツに巻き付けられ始めた。痛い。身体中の骨が折れそうなほどの激痛だ。ヤツが間違いなく俺を殺そうとしている、そのことは分かりきっている。


 だからこそ今、やるべきことは……ただひとつ。


 剣を抜き、強く巻かれながらもヤツの身体に突き刺す。何十回でも……抜いては刺してを繰り返す。


『長い物には巻かれろ』


 意味は……よく分からない。が、物理的な表現でないのも分かる。しかし……この言葉を真に受けて攻撃を繰り返してみると、徐々にヤツの巻く力が弱くなっていく。


 いける……いけるぞ。


 ヤツは巻き取るという行為をやめ、そのままどこかへ逃げ始めた。しかし、スピードは遅い。これなら追いつくことができる……!


「いけえっ!」


 逃げるヤツの腹めがけて、一思いに横から剣を突き刺した。


 ビクンッとヤツの身体が動くと、そのまま沈黙した。これは……やったか?


 ブシャッ……

 白蛇は爆散した。爆散したと言っても、爆発のように炎や地形破壊があるわけでもなく、血が辺り一面に飛び散る。白蛇の死体は一切残っておらず、一面緑色なはずの平原は、いつの間にか赤色に染まっていく。


 至近距離にいた俺も、大量に血を浴びた。口の中にも入る、窒息死しそうなほど大量に。


「おい、大丈夫だったか?」


 この声は……彼か。どうやら俺が討伐している間に意識を取り戻したようだ。


「もしかして……倒したのか? お前1人で?」

 ここまでの経緯をすべて説明した。彼が攻撃を食らって気絶していたこと、彼の剣を拝借したこと、そしてどうにか討伐したことを。


 爆散があったからか、他の村人も近づいてきた。


「ガイアさん! 流石だな!」

「助けに行こうか迷ったけど……ガイアさんなら出来るって信じていたよ!」


 彼の信頼度は……目に見える程上がった。


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