第3話 白蛇討伐

----------


「ちょっと待ってください。その前に……作戦はあるんですか?」


 1番重要なことだ。作戦がなければ、連携も上手く取れない。まして、出会って3日くらいしか経っていない。阿吽の呼吸など以ての外だ。


「作戦は……まぁ、戦ってみれば弱点は分かるだろう。俺も白蛇自体は初めて見るしな」


 彼が村人から信頼を得ている理由は……このように度胸もあるからだ。無謀と言い換えた方がいいのかもしれないが。あるいは、豪快ってところだな。


 この会話の間も、白蛇は待ってくれない。

 白蛇がその長い長い身体を上手く扱い、俺たちが立っているこの地面に思いっきり頭をぶつけてきた。

 何とか避けることができたが……当然、当たらずともダメージは大きい。地面は抉られ、土煙が上がる。ちょうど俺たちの視界を遮るくらいに。


「スカイ、お前は大丈夫か?」


「はい……何とか」


 もちろん、このちょっとした会話ですら、白蛇は見逃してくれやしない。

 土煙で視界が不安定な状態でも、白蛇はしっかりと狙いを定めて頭突きをかましてきた。


 俺は素早く前に転がり、直撃は防げた。


 危ない……間一髪だった。もう少し遅かったら死んでいただろう。いつ命を落とすか分からないこの状況に、俺はやっと恐怖をおぼえた。


「ガイアさん……大丈夫ですか?」


 返事がない。


「ガイアさん?」


 土煙も相まって、お互いに位置が分からない。彼が今どこにいるかも分からないが、彼からしても分からないだろう。


 これは……動き回るのは危険か?

 しかし、何もしないままでは……いつかあの蛇の頭突きが当たってしまう。当たらなくとも、消耗戦となれば……結果が丸見えだ。


 そもそも俺は戦ったことなどない。ガイアさんならともかく、俺がモンスターと一騎打ち……となれば、確実に俺の負けとなるだろう。


 下手に動き回るのは危険、俺の野生の勘がそう言っている。しかし、この場に留まるのも危険だと言っている。


 ヤツはというと……俺がさっきまで立っていた地面に向かって頭突きを繰り返している。


 俺は白蛇にバレないように、しゃがんだまま歩く。こうすれば、ある程度はバレないだろう。見つかったら……その時はその時だが。


「あっ……」

 思わず声を出してしまった。彼……ガイアさんが横たわっているのを発見してしまった。意識はないが……呼吸はある。


 大声で呼びかけるも、反応がない。先の攻撃をモロにくらってしまったのだろうか。彼の周りの地面はほとんど抉られている。


 どうもしようがない。彼を横向きに寝た姿勢にし、空気の通り道を確保させた。


 ここからが問題だ。この一帯には……俺と白蛇しかいない。他の村人は、そのアオイ村にいると聞いた。この丘からアオイ村まで、歩いて数分の距離だろうか……。

 しかし、敵は白蛇。移動速度が尋常ではない。村とこの丘の間を数十秒で移動してきたヤツには到底叶わない。


 ここで今、俺がやるしかないのか。


 俺は覚悟を決め、彼が持っていた剣を拝借した。モンスターに関する知識など、これっぽちもない。どこに生息しているのかも、どこに弱点があるのかも、何も知らない。


 こうなるなら、シアンさんの話をちゃんと聞いておけばよかったな。


「白蛇、止まれっ!」


 一旦、距離を取りつつ叫んでおく。言葉が通じるモンスターもいるかもしれない、という微かな可能性にかけてみた。


 シャアアアア……!!


 白蛇も何かを伝えようとしているのか、咆哮を上げた。動きも止まっている。もしや……言葉が通じたのか?


 いや、通じていない。白蛇は俺を見つめると、すぐに猛スピードで追いかけてきた。

 言葉は通じないなら……次はどうしたらいいのだろうか。


 彼はまだ眠ったままだ。このままここで戦闘を行えば、彼が巻き込まれる可能性の方が高い。かと言って、村の方へ行けば大勢の村人が襲われる。


 なら、誰もいない方へ行けばいい。そして、アイツが動きづらそうな森に行けばいい。幸い、数分走れば着く距離に森があるが……。

 数分走っていられるわけがない。開けた場所は……アイツにとっては動き回りやすい場所ということだ。耐えられるわけがない。


「白蛇、こっちだ!」


 他に作戦などない。森に向かって走り続けるしかないと、俺の野生の勘が言っている。理性の勘も働くことを願う。


 シャァァアッ……!!!


 俺の事を2度見……いや3度見した後、向かってきた。

 速い、これではすぐに追いつかれる。追いつかれた場合のことをあまり考えていなかった。ここからどうしたらいいのか。野生の勘は特に何も言ってくれないな。


 待てよ……。俺は、2本のナイフの存在を思い出した。そうだ、これがあった。本当に、ヤツの皮が薄いことを願うばかりだ。


「いけえぇぇ!!」


 グサッ……


 俺は背後にいた白蛇の腹に、躊躇もなく小さなナイフを突き刺した。


 グサッ……


 続いて、2本目も突き刺した。

 これで倒せたとは思わない。が、少しでも傷がつけばそれでいい……。


 シャァァ……


 僅かにヤツの動きが遅くなった。血も流れ出ている。間違いなく効いてはいる。

 俺は力いっぱいその2本のナイフを抜き、また別のところに突き刺した。何度も……何度も……何度も突き刺しては抜いて、突き刺しては……。


 ジャァァァア……!!


 ついに白蛇が咆哮を上げながら暴れだした。当然だ。何回も刺して抜いて……ヤツの命を奪おうとしたからだ。

 白蛇は先までの遅さが嘘のように、急に空高く飛び跳ねた。


 まずい。俺の真上に……ヤツがいる。このまま落ちてきたら……。


 危な……。


 ドシャァァアア……!!!


----------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る