第2話 戦え
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俺が彼らに発見されてから、4日は経った。
これから……モンスターを討伐するための訓練を行うらしい。
ただの生物ではなく、モンスター。火を吐くドラゴンもいれば、巨大なゴリラもいるとか。
他にも……なんて言っていたか忘れたな。
「スカイ、この木材の向こう側を持ってくれ!」
そもそも討伐者を生業としているのは、この村では彼……ただ1人。だからか、この”訓練”に参加しているのは……俺だけだ。
そして訓練といえども……身体を鍛えるだけだ。モンスターが近くにいるわけでもない。
彼曰く「実物はまだ見せられない」とのこと。
ただ、重いものを持って指定の場所に運ぶ。まるで建築家みたいだ。いや、雑用係なのか。
「いやぁ、疲れるなぁ。お前はどうだ?」
この身体は……楽だ。筋力もある程度はある。が、もちろん5時間も木材を運びっぱなしだと、流石に限界に近いものが来る。今まで身体を動かしていなかったから……仕方がない。
「結構……身体にきますね」
「そうだろ。じゃあ、次はあのもくざ……」
突然、彼が何かを見つけたのかは知らないが、黙り込んだ。
「どうしたんですか?」
凶悪なモンスターでも見つけたのか、と俺は思った。
「シアン……あいつ彼氏とまた遊んで……」
彼が指した先には黒髪の青年がいた。シアンさんと微笑ましく遊んでいる。なんだ。彼氏か……。22歳と言っていたし、もうお年頃だろう。しかし、その彼氏……という人を俺は村で見たことがない。
「あの彼氏さんは……誰ですか?」
「あいつは隣村・ステラ村の……アイってやつだ。ちょくちょくこっちの村に来る。しっかし、誰かに似てて----村長さん、おはようございます!」
急に彼は立ち上がり、目の前の人に対して大声で挨拶をした。俺も顔を上げると、そこには……髪の長い白髪のご老人が1人だけいた。
「その……横の若いのは誰かの?」
「あっ……俺はその記--」
「俺の親戚のヤツです。少しの間だけ、俺の家に泊めています」
俺の発言を遮り、彼はそう村長に伝えた。
「若いの、長い物には巻かれた方がよいぞ」
このご老人は……俺の頭を触りその言葉を発した後、どこかへ去っていった。
「あの……何で俺を--」
「お前が記憶喪失の人って他の村人にバレてしまったら……都市の役員が来るかもしれないだろ、アイツら厄介なんだから」
それもそうか。俺のこの事情を知っているのは、シアンさんとガイアさんと……俺を最初に発見した村人のみ。その村人はガイアさんと仲が良いため、都市の役所に告げ口するようなことはないだろう……。
さっきの彼氏さんの話の続きを聞きたかったが、時間も来たので訓練に戻った。
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「よし……お前も終わったか?」
訓練……という名の、重い荷物運びが終わった。どうやら新たな家を建築するらしく、建築業者が来る前に資材を全て指定の場所に運びきらないといけなかったらしい。
結局……ただの雑用だった訳だが。
「これで寝たら、明日は筋肉痛だな」と、彼は嬉しそうにしている。彼も相当、独特な人だと思う。
モンスターは、突然現れる。
「大変だ! ガイアさん!」
「アオイ村が……モンスターに襲われた!」
討伐者である彼ですら、焦っているような顔を俺の目の前で見せた。
「おい、アオイ村って……あそこの丘を越えたら見える村だよな?」
「ああ……そうだ。正直、都市からの応援は当てにならない。だから……頼むよ、ガイアさん」
「任せときな……至急、動ける男手をくれ。女性でもいい。そのモンスターを倒すのは俺の役目だが、怪我を負った村人を助けるのは他の人の仕事だ。それらを頼むぞ」
この村の人達は……彼に絶対の信頼を置いているようだ。それは大陸のように広く、渓谷のように深い。彼が過去にどんなことをしたのかは聞いていないが、とても頼もしい人なんだろう。
「スカイ、お前も来い! モンスターは初めてだろうが……」
モンスターがどういう存在か、実物は見たことがない。だからこそ、恐れもあるが……心のどこかに”楽しみ”もあった。人の命が関わることだ、それは分かっている。でも、抑えられない好奇心というものもあるだろう。
「はい、行きます!」と、俺は快く返事をした。が、馬の扱い方は分からなかったので、荷馬車に乗って現地へ向かうことになった。
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俺と同じ荷馬車に乗っているのは、彼女……シアンさんとその彼氏さんだ。
戦闘前だからか、2人とも何も話さない。沈黙の空気が俺らを襲った。
「ガイアさん! 見えたぞ、モンスターが!」
俺の乗っている荷馬車からは、ちょうど見えなかった。無理もない。荷物を運ぶための大事な荷馬車だ。後方に配置するだろう。
しかし、モンスターの方からこちらに向かって来たらしい。
「総員、戦闘に備えろ! このモンスターは……今いる俺たちだけで討つ!」
彼の声が響き渡る。彼は、この村唯一の討伐者だ。ここで彼が負ければ、まともに太刀打ちできる者は他にはいない。彼の覚悟が、後方の俺たちの所までビシビシと伝わってくる。
その時だった。
突然、目の前にいた馬がどこかへ吹き飛んでいった。俺の乗っている荷馬車の……目と鼻の先にいた馬だ。近い、思っていたよりも近すぎる。
「モンスターが……もうここまで……」と、彼女は……まるで今にも狩られそうな小動物のようにびくびくしていた。
顔を上げると、そこには真っ白な蛇がいた。
「白蛇だ! 気をつけろ!」と、ガイアさんが叫んだ時にはもう遅かった。
その蛇は、その長い身体で俺たちの荷馬車の馬を圧迫死させた。
ブシャッ‼︎
馬の悲鳴と血が目の前で飛び交う。彼女もびっくりして悲鳴を上げた。その彼氏さんも、彼女と同じように悲鳴を上げる。
俺は……驚きすぎて言葉も悲鳴も出ない。
この蛇……全身真っ白だが、目の部分だけ紅く発光している。確実に7mくらいはある。
今までに何人の人がこいつに殺されてきたのか……。
「お前ら、急いでそこから出ろ!」
彼のこの一言がなければ……または遅れていれば、3人の命は助からなかっただろう。あの蛇は荷馬車を完全に破壊した後、俺らに目を向けた。
「ガイアさん! 今だ!」
「今ならいけますよ!」
村人たちが囃し立てるが、一向に彼は動こうとしない。このままでは、あの蛇がまた人を襲い始めてしまう。
「お前ら、全員でアオイ村まで行ってこい! ここは……俺が何とかする」
彼は漢気を、村人や彼の娘の前で見せた。流石だ。俺もその村へ行こうとしたが、彼に呼び止められた。
「お前はこっちだ、俺と一緒に戦え」
あぁ、俺も戦うみたいだ。しかし……俺は今までモンスターに遭遇したことがない。今回が初めてだろう。記憶喪失になる前のことはよく分からないが。
「お前用のナイフだ」と2本の短いナイフを渡された。
これでどうやって戦えばいいのだろうか。見る限り、このナイフは……あの蛇にとっては擦り傷程度にしかならないだろう。皮が異常に柔らかいことを願うばかりだ。
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