第6話 行くぞ
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白蛇との戦いから2ヶ月は経過した。あの時とは違い、俺自身も成長している。
具体的に言うと、身体能力が高くなった。もっと具体的に言うなれば、剣を振るスピードだったり、足の速さだったり、跳躍力だったりと、ほぼ全ての能力が高くなっていた。それは、ガイアさんの能力を上回るほどだった。
その彼は「お前、討伐者になれよ」と、越されたことを少し悔しがっている様子だ。
実際、討伐者になることも可能だが……。わざわざなる必要なんてない上に、戸籍がどうとか記憶喪失がどうとかで、また強制労働所関連の話が出てくるだろう。
強制労働所の噂は全く耳にしないが、そんなものは存在するのだろうか。
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「ところで、モンスターとは世界にどれくらい存在するんだ?」
シアンさんとの会話ではすっかり敬語も取れた。キミカさんとの会話も同様に。
「遂に興味を持ったの?」
彼女は目を輝かせながらそう返した。
「まぁ……これからの戦闘に役立つかもしれないし----」
「じゃあ……”小型モンスター”の話でもするね。前の白蛇のような大きなモンスターじゃなくて、人間より小さいモンスターのことを指すの。例えばゴブリンだったりスライムだったり……他にはスケルトンとかね」
俺の回答を無視し、彼女は話を進めた。モンスターの研究に没頭しているだけある。彼女は奥の部屋から大量の本を取り、机の上にドンと置いた。
「ほら、これがゴブリンの絵よ」
ゴブリン……聞いたことがないな。その絵を見る限り、緑色で子供より小さく、薄汚いボロボロな服を着て、更に鋭い耳と牙を持っている。森によく出没するとも書いていた。また別のゴブリンは棍棒を持っている。
他にも、彼らが人を襲っている絵があった。
「ゴブリンは……人を見つけたら襲いはじめるの。1体だけならまだ倒せないこともないけど、彼らは複数人いるから……逃げた方がいいわよ」
なるほど。俺が会うことは無さそうだが。
「そして、これがスケルトンね」
スケルトン……こちらも聞いたことがないが、そのままの通り、骨がそこにはあった。人間の肉という肉を全て剥がしたら、こんな姿になるだろう。
「スケルトンは……骨ね、見てわかる通りの。でも、何故か移動速度が異常に速いの、これについては私も研究中だけども……」
俺は『モンスターに関する研究書』という本をパラパラと読み始めた。ほぼページは飛ばして見ているが、その中に1枚の絵が挟まっていることを発見した。
この絵は……ゴブリンか?
ゴブリンにしては……鋭い牙がない。先のゴブリンとは何かが違う。
「これは……ホブゴブリンね。友好的なモンスターなの。言葉は通じないけれども、戦闘になることはまずないわ。人間が攻撃的な意志を見せなければの話だけども……」
友好的なモンスターが存在していたのか……。そのこと自体初めて知った。いや、俺が彼女の話を聞いていなかったからだが。これからは話を少しは聞いておこう、そう俺は心に決めた。
「なんだ、スカイもいたのか」
本から顔を上げると、そこにはガイアさんとキミカさんがいた。
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「で、都市のお偉いさんからこう言われた」
不機嫌そうなガイアさんは、俺とシアンさんに向かって説明を始めた。
「前の白蛇との戦闘において、お偉いさん方は『まだ白蛇の巣があるはずだから探索してこい』ってな。で、探すのは俺たちとのことだ」
白蛇が巣を作ること自体意外だった。が、その巣を探す作業を都市の業者がやらずに俺たちがやるのか……。
「まぁ討伐したからお前ら出来るよな、ってな。無茶を言うなよ……」
巣についての作業方法などをまとめた1冊の本を手渡された。重い、辞典よりも分厚く……そして重い。
「ここに書いてある内容は……読んでみたが、さっぱり分からん。とにかく『巣を見つけたら、駆除せずにそのまま持ち帰れ』とのことだ。もっと無茶だ」
あの白蛇の巣を持ち帰れ……。意味が分からない。アオイ村に被害をもたらしたあの白蛇がいるかもしれない巣を持ち帰れ……とは、またあのくらいの被害をもたらす可能性があるのに。そもそも、持ち帰ることが出来る大きさなのか?
「報酬もそれなりにあるが、命令とのことだ。拒否権はこちらにないらしい」
本当にどこまでも……。
俺は言葉に表しにくい怒りがこみ上げてきた。どうすれば、そのお偉いさんというやらを……。
考えても無駄だ。実行に移す方が先だな。
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その白蛇の巣があるとされる森に来た。アオイ村からはさほど離れていない。ヤツに破壊された家屋が、そのままの状態で残っている。現状、この村には誰も住んでいないが、この補償は誰がするのだろうか。都市のお偉いさん方か?
「剣は持ったな?」
先日、自分用の細い剣を2本与えられた。前回の戦闘で使用した2本の短いナイフも持っている。
「じゃあ……スカイ、行くぞ」
意を決した様な声でガイアさんが呟いた。
巣を探す……という危険な作業。シアンさんとキミカさんは来ていない。もちろん、当たり前のことだが。逆に、彼女らを無理やり森に連れて行く方が間違っている。
まぁ、直前まで来たがっていたが。
「スカイ、お前最近どうした?」
彼に質問された。
「特に……何も変わってないですよ」と答えるが、彼は続けて質問する。
「いや、そういうことじゃなくてな……まぁこれ終わったら話し合おうな」
俺自身、何か変わった……気はしない。身体能力は上がった。しかし、彼はそのことを言ってるのではないことは分かる。
色々な自身に対する疑問を持ちながら、2人で森の中に入った。他の村人は誰もいない、2人だけ。
森の中は思ってた通り、危険だな。上を見ても……木。周りを見ても……木。どこまでも木が続いている。
「基本、俺からは絶対に離れるなよ。後、森の中にはもしかしたらゴブリンっていう小型モンスターがいるかもしれない。そいつらに出会っても絶対に手は出すなよ。ヤツらも手出ししなければ何もしてこな----」
バサッ……
バキ……
グサグサッ……
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「ここは……」
ここは……どこだろう。足を滑らせて、谷底に落ちてしまったようだ。谷にしては、地面が柔らかい。特に大きな怪我もなく、歩くこともできる。落ちていく途中で、少し枝に傷つけられたくらいか……。
「誰かいませんか!」
大声で助けを求めてみるが、何もない。環境音がザワザワと鳴っているのみ。
ガイアさんは……どこだ。俺の声も届いていないのか。俺は今、どのくらい深いところまで落ちてしまったのか。
そして、異様に柔らかいこの地面も気になる。普通なら、あの高さから落ちれば骨折……どころでは済まないだろう。
疑問に思いながらも歩き回ってみた。この場に留まっていても、何も起こらない。このままだと助からない。
周りは、木に囲まれている。歩き回ってみたが、周りは木。木と言っても、巨大で……人よりは遥かに高い。それが何十本も、何百本も、何千本も生えている。
特に目印も変わった何かもある訳でもなく、景色はいつまで歩いても変わらない。永遠に続いている。
いや……。
話し声が聞こえる。
何を話しているか分からないが、複数人の声が聞こえる。
声の方向へ行けば、助かるかもしれない。その一心で、俺は走る。その音に向かって。
「えっ」
俺はおもわず声を発してしまった。
ここは……村か?
俺が今住んでいるストラート村と同じような、人間が暮らしているような村が目の前にある。村人は……見当たらない。
代わりに……ゴブリンがいる。
複数体、目の前にいる。緑色の身体で、鋭い耳を持っている。
「ギサャ……」
ゴブリンらは俺を見つけたようだ。何体ものゴブリンが、雄叫びを上げている。
まずい……。
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