第10話 決戦「また後で会おうね」
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遂にこの日がやってきた。王のパーティーの日……ではなく、王が身につけているとされる時の石を奪取する日。この日のために、すべてを捧げて、特訓を受けてきた。
火炎魔法も……透明魔法も……剣術も創造魔法も、すべてを完璧にはなっていないが、それでもとにかく詰め込んだ。
リーゼさんとトートさんが亡くなって……戦闘がまともに行うことができるのは、僕とクリムさんのみ。レッドさんは……今回は回収を主とするらしい。
「時の石さえ手に入れたら、戦闘を続行する必要はないわ。だから……私から離れないようにしてね……」と彼女は言う。
「エスト……今日で全てが終わるはずだ。もう少しの辛抱だ」
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「何度も言うけど、基本的には……私から離れないでね」と彼女は言うと、城の前……ではなく王都の中心部にワープした。
「何だアイツら……」
「光ったぞ……?」
街の人々に見られてしまったようだ。当たり前だ、街のど真ん中にワープしている。なんてったって、噴水広場の噴水の前……。周りにはお洒落な格好をした貴族らしき人物が集まっている。この近辺であのパーティーを開催するらしい。
僕はフードを深く被った。周りから見たら……間違いなく不審者だろう、そのくらい深く。
……噴水の前に突如現れている時点で、もう不審者か。
「貴様らか、危険な魔法を使うことは法令で禁止されている!」
衛兵が……3人ほど来た。こんなにも早く来るはずがないと思っていたが、レッドさんは余裕そうに笑みを浮かべていた。
「今すぐ、その……腰に差しているナイフを渡せ。渡さなければ……盗賊としてしょ----」
グサッ……
衛兵の声が聞こえなくなった。それもそのはず、何故かレッドさんが……衛兵の1人をナイフで刺した。いや、刺し殺した……。
衛兵からは……血が噴き出している。顔色も白くなっていく。本当に、”血の気が引いて”いく。
ぎゃぁぁぁ……!
うわぁぁぁあ!
人々の悲鳴が、街中に響き渡る。
「貴様……よくも……」
また別の衛兵がこちらに剣を向けてきた。
が、もう遅かった。レッドさんがその衛兵の背後に回り、後ろからグサリ。その衛兵からも……”黒”が噴き出している。
僕の足はすくんでいて……動かない。
「何で……殺すんですか? 今のは……殺さなくても……」と彼女に対して必死に訴えかけるが、無視される。彼に至っては何もせず、訴えかける僕を見つめているだけである。
何故、衛兵を殺す必要があるのか。
グチャッ……と、ナイフを衛兵の身体から抜いた音がした。
「レッド……お前、何をしている?」
彼はやっと口を開き、彼女に対して抗議した。が、彼女の返答は予想外なものだった。
「ほら、こうしたら衛兵が集まってくるでしょ」と。もちろん、衛兵が集まってくる。3人だった衛兵も2人減ったが……逆に今は10人ほどいる。が、人の死を悲しむ様子もなく、むしろ殺害を楽しんでいるようにも見える。
「さては、前に我々の仲間を殺したヤツらだ……ここで殺るぞ」
前に? 前に人を殺した記憶はない。僕も……レッドさんも、クリムさんも、トートさんも、リーゼさんも。
今は……僕ではないが、ある。
「かかれ!」
ここにいる衛兵が全員、僕らに向かって走ってきた。剣を持ったままだ。僕らはこのままでは殺されてしまう。しかし、僕の手と足は未だに動かない。無抵抗のまま殺されてしまう……!
「やるしかないか……!」とクリムさんが叫んだが、レッドさんもその言葉を遮るように声を張り上げた。
「……私の身体に触れて! ワープするから!」
シュッ……
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「レッド……お前、何故警備の人間を殺した?」
「普通の人間は殺さない……そういう話だろ?」
ワープを使って……現在は、森にいる。
衛兵は、ここにはいない。が、それどころの話ではない。レッドさんが、衛兵を呼ぶために人を殺した。
「何故って……衛兵を引き付けるためには、大きなことしないといけないでしょ?何で分からないの?」と彼女は自分なりの論を展開するが、僕には一切理解できない。
「そういう話ではない! 人を殺すのは……間違っている……はずだ。それに……え----」と彼は訴えかけるこの行為を途中で止めた。
何故かレッドさんの口角が上がっていた。逆にクリムさんは、まるで化け物でも見たかのように怯えていた。
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「……とにかく、ワープで行くよ。城の入り口まで……」と彼女は僕らにそう告げた。
もうこれ以上、考えるのは止めよう。頭もぼんやりする。僕らはまた、レッドさんの身体に触れた。
シュッ……
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「誰だ?」
「その手に持っている剣を、地面に置け!」
どうやら……兵士たちの目の前にワープしてしまったようだ。
「貴様ら……広場で騒ぎを起こした奴らだな?」
レッドさんの鎧には、返り血がビッシリ付いている。銀色だった鎧も、黒く染まっている。バレるな……という方が難しい。
僕らの周りにいる兵士が全員、剣を構えた。その瞳には、殺意しか映っていない。
「俺たちもやるしかないようだな」と言い、クリムさんも剣を構えた。
「今は……私から離れていいから。また後で会おうね」と、レッドさんも……小さなナイフを手に持った。
これは……やるしかないみたいだ。
チャリン……
僕も剣を構えつつ、大きな深呼吸をした。
長い間、心に溜まっていた悪い空気を押し出すように、何度も何度も。頭はぼんやりするが、気分は最高だ。このまま人を斬り殺しても正当化出来そうな気もする。
兵士が全員、僕らに向かってジリジリと距離を詰めてくる。剣を構えながら。
「ヤツらは我々の仲間を2人も殺した!気をつけ……」
グチャリ……
その兵士が言葉を言い終わる前に、レッドさんが背後からその兵士の首を切っていた。
「いつの間に……」とつい言葉を発してしまったが、僕の背後にも別の兵士がいた。
「死ねぇ!」
キンッ……
キリッ……
「危ねぇぞ……エスト!」
クリムさんの大きな剣で、兵士が振り降ろした剣から防いでくれたみたいだ。
「ありがとうございます!」と言い、僕も応戦する。
僕は今、平均的な大きさの剣を手に持っている。腰には、クリムさんから貰った小ぶりのナイフもある。
兵士は……おおよそ10人ほどいる。1人……3人ずつ倒せばいい。だが、僕は人を殺した……倒したことはない。前回の神本の時も、トートさんが全て倒していた。
僕にできっこない……なんて思っている暇なんてない。今やらなかったら、僕は次いつやるんだ?
「立ち尽くしている暇はないぞ! お前を守りきれる自信は俺にはない!」
今、やるしかない。
腰に差しているナイフを抜き、そのまま手に持った。心臓に刺すことは出来ない。だから殺さなくていい、動けないようにすれば……。
「あああぁぁぁ!!」
僕は叫びながら、兵士の太腿に思いっきりナイフを刺した。
「うぐっ……」
「痛てぇ……痛てぇよ、てめぇ……」
手応えもある、血も出ている。が、彼は足を引きずりながらも、僕の方に向かって歩いている。まるで死者を無理矢理蘇生したかのような……そんな歩き方だ。
「てめぇ、殺してや……」
グブサッ……
クリムさんの……あの太い剣が、兵士の腹に突き刺さっている。直視することが出来ない、そのくらい奥まで突き刺さっている。
「悪ぃな……人を殺すのは間違っている……」
「でも、殺らなきゃいけねぇ……」
そうしていつの間にか、レッドさんの姿は見えなくなっていた。
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