第9話 力を合わせて頑張ろう

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「寂しい……ですね」

「まぁ……2人しかいないからな」


 レッドさんは時の石を探しにコンパスを持って城へ出かけた。雲の中に残っているのは……僕とクリムさんだけ。会話したとしてもいずれ限界が来る。限界を迎えた後に来るのは、沈黙だ。会話にも人生にも終わりが来る。


「……素振り50回……これさえやっておけば、お前なら何とかなる」と小さな声で俯きながら

彼は言う。


「どうしたんですか……クリムさん、最近おかし----」


「リーゼもトートも死んじまってな……次は俺じゃないかって毎晩考えてな……悪いな」と、僕の言葉を遮るように彼は僕に対して謝る。


 クリムさんもクリムさんなりに悩んでいた。

もちろん……僕だって悩むことはある。もう少しで……僕もこの世からいなくなるんじゃないか……って。


「時の石のありか……分かったよ」


 レッドさんの声が、雲の中に響いた。いつの間にか戻っていたようだ。


「どうしたの? クリム涙目だけど? もしかして……エストくんに泣かされちゃった?」と比較的大きな声で彼女は質問する。


 それに対して彼は「馬鹿野郎……」と小さな声で呟く。

 レッドさんがクリムさんを小突き回す。これも以前はは日常的な風景だった。余裕がなくなってからは、会話すらない時もある。


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「で、時の石のありかは……王の城で当たってたよ」


 結局王の城。もうそこには何回も行っている。鑑定の時も、地下室ごとワープさせた時も、神本を取ってきた時も……。二度と行きたくない……なんて思っていたあの場所か。


「正確には王の城じゃないわ。多分だけど……王が身につけている”王冠”だと思う」


 王冠に時の石が付いている……ということは? 何故、世界を変えるほどの重要な石が……あの王冠に? 常時……王が持ち歩いているの? 全く意味が分からない。


「詳細はもちろん分からないわ。でも、明らかにコンパスが”その緑色の石”を指していたの。実際、王冠に”緑色の石”も付いていたし……指輪の可能性も無きにしも非ず……だけどね」


 もしそれが本当なら、僕はあの忌まわしき……ドンとリーゼさんを失った……、そして僕自身を殺害しようとしていた……あの城ににまた行かなくてはならない。

 僕は……手も足もブルブルと震えていたらしい。自分でも分からないうちに、無意識に。


「安心して、エストくん。もう時の石さえ手に入れれば……それさえあれば、全てが終わるから。もう……苦しめられなくて済むよ」とらレッドさんが僕の手を握りながら語りかけた。

 そうだ。時の石さえ手に入れば、全てが終わる。僕は……この恐怖から解放される。


「問題は王冠を奪取することが可能なのかどうか……。警備も前より……」


 そこが問題だ。前回の作戦の影響もあってか、城の警備が強くなった。

 前回みたいに5人で強行突破……というのも出来ない。今は……3人しかいない。


「でも、やるしかない……」

「次は……兵士の命を奪う……かもしれないけれども……やるしかない」


 レッドさんは覚悟を決め……作戦を話し始めた。


「8日後の【国王誕生日】で【国王誕生日記念パーティー】が行われるそうなの。もしかしたら……中止になるかもしれないけど、あの王さんの性格なら……やるよね」


「その日……正確には【パーティーが始まる2時間前】に王さんを直接狙う。王冠を力ずくで奪い取れればこっちの勝ち。躊躇っていたら殺されるから、敵を切って……切って……切りまくる……」


「3人で力を合わせて……頑張ろう」


 レッドさんが拳を突き上げたのを見て、僕も真似をしてみた。

 クリムさんは、どこか遠くを見つめていた。雲の中で、何も見えないはずなのに。


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「エスト……困ったらこれを使え……」とクリムさんが僕に小さな声で小さなナイフを手渡した。短めで、切れ味は抜群そうなナイフ。一体何に使うのか……僕には全く分からなかった。


「どうしたんですか?」と一応聞いてみるが、無視。あまりにも気味が悪いので返そうとするが、クリムさんは無理矢理腰のベルトの所に差し込んできた。


「もしも……もしものことがあったら、これを使え。絶対……」とまた小さな声で彼は囁く。


 よく見たら、クリムさんの剣が新しくなっていた。前よりも太くて、前よりも大きい。これはお古という物なのか。服とか靴ではなく、ナイフだが。


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「ソルト・ルクセンバンクよ、コイツらの扱いには慣れたか?」と王は聞く。目の前には巨大な黒い犬が何匹もいる。


「はい!」とまだ精神的にも肉体的にも若々しい少年は元気よく答える。


「お前がAランクで助かった。明日のパーティーも楽しみだな。塵どもを蹴散らそうではないか!」


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「こんな所で何をしているの?」

 とある少女がソルトに対して話しかける。


「俺は、まぁ……いいでしょそんなことは。それより君は……誰だ?」

ソルトは彼女が誰なのか認識していないようだった。


「私は……ミライ・カリアよ。ソルトくんと同じ鑑定の……いわば、同期」


「あぁ、でも何故……ここに?」


「何故って……【第3王国監視部隊】の隊員になったからよ。【Cランク】だけどね」


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