第5話 いつかツケが回ってくるってね
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「一丁上がり! エストくんはどう?」
トートさんは早すぎる、兵士を倒すのが。彼女自身も被害を出さないように考慮しているのか、あえて兵士を生かしている。いや、逆に生かしてやることによって、死よりも苦しい状態で放置しているのかもしれない。
「エストくんは何人倒した?」
……僕は、誰も倒せていない。僕がやる前に、既にトートさんが倒し終わっている。僕はトートさんが倒し終わった、火傷で苦しみ悶えている兵士の上を歩くことしかしていない。
「この廊下にはもう誰もいないよ! これで2階も占拠完了だね! 次は3階だから、気を引き締めて!」
と、その時。階段の上の方から足音が聞こえた。急いで僕らは剣を構える。
「安心して」
足音の正体は、レッドさんとクリムさんだった。でも……レッドさんの鎧には、大量の血がこびりついている。対して、クリムさんには一切ついていない。
「ちょっと兵士さんに反抗されちゃってね、殺してはないから安心して。クリムとは違う部屋を探していたからさ……」
ここで疑問が僕の中に生まれた。そしてトートさんの中にも同じことが生まれたみたいだ。
「レッドとクリムは……3階を探した? 本はどうしたの?」
この疑問に、クリムさんが眉間にしわを寄せながら、答えた。
「そもそも王側近室という部屋すらない。この城の中の……3階より上の層は全て見てきたはずだが」と。もし彼の証言が本当なら、僕らが見落としていることになる。しかし……間違いなくそんな部屋はなかった。
「本当に全部見たの? 本当に?」
「だから全部見たと言っているだろう! 話を聞いていたか?」
クリムさんとトートさんが戦場のド真ん中で揉め始める。辺りの兵士は全員気絶させたようで襲ってくる心配もないが、この声の音量だと絶対他の兵士が寄ってきてしまう。
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あの後すぐ、リーゼさんと合流した。リーゼさんも結局全階をくまなく探したが、見つからなかった……とのこと。
僕達はここまで来て、途方に暮れた。
ここからどうしたらいいか分からない。
「私の火炎魔法で辺りを燃やしてみる?」
「やめろ、そうしたら本まで燃えちまうだろ」
「じゃあ……この城ごとワープさせるのは?」
「やめろ……レッドでもそこまでの範囲は出来ない」
まだ彼らは言い合っている。このままでは埒が明かない。このうちにも兵士が来てしまう。ここで捕まったら……すべての終わりだ。撤退した方がいいのか、無理矢理でも探し続けた方がいいのか。
「あの……」
リーゼさんが小さな声で話し始めた。
「さっき……入った【資料室】から変な音が……聞こえ、もしかし……たら……あのお……く」
僕は全く理解が出来なかったが、ほかの3人は理解出来たみたいだ。
「そうだよね……確かにそうだ」とレッドさんが納得した様子を見せた。僕は……分からない。
実際に資料室まで来た。
「隠したいものがあったら、みんなはどうする?身につけておく? 大事な金庫とかに入れておく?」
「答えは……この本棚の裏、隠し扉の奥にあるってことね」
ガタッ……
ギギギギ……
本棚を押したら、門のようなものがあった。金庫だろうか。金庫だとしたら……。
「鍵がないと開けられませんよ?」とレッドさんに聞くが、無視されてしまった。
「トート、扉の部分だけね」とレッドさんが言った途端、トートさんの手が燃え出した。
火炎魔法を……自分の手につけたのか……?
……なんて思っているうちに……。
「みんな離れて!」
トートさんが思いっきり、扉にその燃えている拳をぶち込んだ。
すると、金庫の扉の部分だけが燃え……そして灰と化した。扉は完全に消え、中身が丸見えとなった。
「中の本と……その手は無事か?」と、クリムさんが心配しながらトートさんに話しかける。
トートさんの手は真っ黒。直視できないほどに血も噴き出し、その痛みを我慢する顔面も汗と涙まみれで見ていられない。
彼女自身「大丈夫……!」と言うが……大丈夫な訳が無い。僕は自分の手に魔法をかけたことなどないが、自分の手が燃える……火傷なんて比じゃない。
レッドさんは手が燃えていた彼女を気にかける様子もなく、そのまま金庫にズカズカと入っていった。
中には大量の”宝”が入っていた。今までの15年間で見たこともない……。金だけで出来たネックレスや、黄金に輝くブレスレット。そして大量の金貨に……怪しげな壺。何でもある。
お目当ての物もあった。部屋の中は……金や銀の宝しかないが、それでも一際目立つ本だった。オーラが違う。何かが違う。
「これだ!」と僕は思わず声を出してしまった。
「お……さすがだ、エスト」とクリムさん。
「見つかったことだし……ワープで帰るよ!」とレッドさん。
トートさんとリーゼさんは声を発してはないが、それでも顔は少し嬉しそうだった。
僕はレッドさんの身体に触れる。これで終わりだ。トートさんの怪我も心配だが、これで一段落のはず。
グサッ……
背後から何かが突き刺さる音が聞こえた。そこでは……リーゼさんが倒れていた。心臓まで深く突き刺さっていて、顔から血の気が……失われていく。
目の前には……生き残りの兵士か? 槍を投げた兵士はこう言う。
「お前ら……その神の本に触れたらどうな……」
その兵士が言葉を言い終わる前に、クリムさんが剣で兵士の首をはね飛ばした。返り血で……クリムさんも僕も染まった。他人の血が口に入る感触と、その血も味わった。
リーゼさんは……即死だ。機動力に欠ける上に……テレパシーに支障が出るらしく、装備は元から薄かった。そのため、肋骨の隙間から心臓に深くズブリといかれてしまった。
「リーゼさん!」
僕は声を大にして泣いた。心の底から悲しい。同時に、心の底にある”怒り”の感情も沸点に達した。
「帰るぞ」と冷酷な口調でクリムさんは言う。悲しむ素振りも見せずに、どこか割り切っているのか。リーゼさんの死体を持ち帰ることは出来ない……らしい、レッドさんによると。
僕はその事が受け入れられず、リーゼさんの手をずっと握っていたが、無理やり離されてこう言われた。
「こうなることは分かっていたの、いつかツケが回ってくるってね。でも死体は持ち帰れないから、行きましょう」
僕らは……3人でレッドさんに触れた。
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