第4話 少しの犠牲は仕方ないから
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作戦遂行から数日が経過した。
「前回の作戦は失敗したけど……本当の在り処が分かったよ、場所は【王側近室】の中らしいわ。何故地下室に無かったのかは分からないけど、ここにあるのは確実よ」
彼女の説明によれば前回の失敗は仕方がなかった。そもそも地下室に神本がなかった。僕の魔法が解けなくても、どちらにしろ作戦は失敗していたことになる。
「でも前回の失敗から、城の付近の警備が……。だから、今回は透明魔法すら使えないかもしれない」
逆に透明魔法を使うべきでは……と思ったが、それは違うみたいだ。この魔法は先に言った通り、体力をとてつもなく消耗する。警備が強くなるのなら、その警備の中に”透明魔法を見破る者”もいるかもしれない。もしそれが居たら、体力を消耗するだけ消耗して、消耗し切った頃に殺されるだけ……らしい。
なら……地下室ごとワープさせたように【王側近室】ごとワープさせたらいいと考えたが、その部屋がどこにあってどれくらい大きいのかも分からない。
「だから今回は……強行突破で行くよ」とレッドさん。強行突破……嫌な予感しかしない。
「作戦は……トートの火炎魔法と、クリムの剣術で真正面から突入しよう。そして、残りの3人で本を探そう。実物の形も見た目を覚えているよね?」
予想通り、自分の中では嫌な部類に入る作戦。
「なんで……しないといけないんですか」
僕は、うっかり口に出してしまった。自分の中では正論のつもりだった。神本を探すだけの作業ならまだしも、この作戦なら人を殺す可能性だってある。
「まだ分かってないよね。私たちは、被害者。Sランクというだけで国に殺されかけた……被害者。この国……これからの世界を救うには、今動かないといけない……」
「少しの犠牲は……仕方ないから」
涙ぐみながら、彼女はそう声を発した。
「とにかく……作戦は1週間後! 王さんがちょうど城にいない日!」
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「お前は何も分かってないな」
クリムさんが話しかけてきた。
「俺も見た目は15歳で止まっているかもしれないが、人生経験はお前より上だ。アイツ……レッドもそうだ」
彼はそのまま話し続ける。
「お前が来る前からずっと……『この世界に生まれなければよかった』と言っていた。お前が来てから……あえて言わなくなったようだが、レッド本人が1番辛いんだ……」
僕は何も言い返せず、ただその話を聞いていた。
「これ以上、被害者を増やすわけにはいかない。俺たちの手で【S】とか【G】の……お前の幼馴染みたいな奴らを救おう……。俺たちの手で……」
ドンのことを思い出した。そうだ、彼は僕の目の前でモンスターに喰われた……。それもこの国の王に。嫌な記憶が甦ってくる。
でも、今の僕は独りじゃない。この仲間がいれば、何にだって立ち向かっていける気がする。
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作戦までの1週間。僕はとにかく魔法の勉強をした。火炎魔法も透明魔法も創造魔法も完璧ではない。
それでも少しずつ、上達はしていく。
火炎魔法は、トートさん程ではないが、小さな炎なら操ることが出来るようになっていた。
透明魔法は、前回より3分ほど長く透明になることが出来る。隠密行動にはもってこいの実力はあるはず。
創造魔法は……正直まだまだ。レッドさんには及ばない。しかし、想像した物をそのまま作り出すことが出来るようになった。あくまで”偽物”だけれとも。
剣術は……クリムさんのお陰。とても感謝しています。
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「エストくん、行ける?」
レッドさんに肩をポンポンと叩かれた。
本人が1番辛いって……この前クリムさんに言われたばかりだ。
ならば、僕の答えはただひとつ。
「はい……行きます」
クリムさんが続けて話す。
「そして俺たちはな……なんてったってSランクだ。ちょっとやそっとの魔法じゃかすり傷程度だ。絶対に生きて……帰るぞ」
今回の作戦は、トートさんが指揮をするようだ。彼女は説明を始めた。
「全員で真正面から強行突破は……流石に危険だったから……、今回は3つの班に分かれるよ! 私とエストくんで真正面から突入! クリムとレッドで上空から城を攻撃しつつ突入! リーゼは……遠くからテレパシーで伝達してね! 無理だったら、私たちと合流!」
「行くよ、みんな」とレッドさんが意を決した声で僕らに言う。多少の犠牲は仕方ない。多少の犠牲は仕方ない。多少なら、いい。多少なら。
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ワープ魔法で、城の近くの森まで来た。
ここからはトートさんと2人で行動することになる。
彼女は火炎魔法の使い手。その威力は絶大。本人によると「屋敷ひとつを消すくらいの炎を出せる」らしい。実際に使ったことはないみたいだが。
「じゃあ、行こうか! ちゃんとフードで顔を隠してね!」
言われた通りに僕はフードを深く被り、クリムさんから直々に貰った剣を持った。極力、この剣を使わないように行動したい。甘えと言われるのは分かっているが、15歳で人を殺せというのはほぼ無理だと思っている。猫でも犬でも殺せと言われたら断る。
「誰だ!」
すぐに兵士に見つかってしまった。にフードを深く被っている上、片方は剣を持っている。どう見ても、不審者だろう。
もう、戻れない。
僕は目を瞑る。そして大きく息を吸い、大きく息を吐く。
目を開くと、既にトートさんが兵士を倒していた。周りの兵士は全身に火が燃え広がっている。
「何やってんの? 早く中入ろうよ!」
彼女は早すぎる……。行動に移すのも、相手を倒すのも。
「助けてくれぇ……!」
「頼むか……ら……!」
兵士の悶える声が、城の門の前で響き渡っていた。
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「おい、悲鳴が聞こえたぞ」
「例の地下室を消し飛ばしたヤツらか?」
「分からない。とりあえず、急いで準備を……うわっ」
「おい、大丈……ぐはっ……」
辺り一面に、黒い液体が広がる。血だ。兵士は即死で、誰にどのように刺されたのかも把握していない。
「城って広いから、ここが何階か分からないわ……君たちもそう思わない?」
雲とは正反対の色。城の中の一室の床が……黒く染ってゆく。剣を持つある人間は、容赦なく人を殺しながら進んでゆく。抵抗されたから殺した訳でもない、人がいたから殺した。
こいつに、人間の心などない。
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