第14話妙ナ噂
チキータがイジメを受けているという事実を見逃せなかった俺は、ヒマを見つけては彼女の下校に付き合っていた。もしイジメの主犯格が現れでもしたら、文句の一つでも言ってやろうという魂胆だ。流石に校門で待ち伏せるのは怪しすぎるので、少しはなれた場所でチキータを待っていると、俺に向けられたであろう声が後ろから響いた。
「タ…ッ、タケシ兄ちゃんッ!?」
声のする方へ振り返ってみると、全く知らないガキが俺を誰かと勘違いしている様だった。チキータと同じ学年くらいの少年は、俺を『タケシ』と呼んだ。在り来たりな名前だが、そう呼ばれる筋合いに心当たりがなかった俺がポカンと口を開けていると、少年は『すみません…人違いでした…』と言って消えて行った。
そうこうしている内にチキータと合流すると、その一部始終を見ていた彼女はさっきの少年と知り合いなのか尋ねてきた。チキータの質問を否定する形で答えたが、彼女は何か引っかかっているかの様に考え込んでいた。
そんな出来事を経て事務所に戻ると、何やらゴキゲンなミケが不気味な笑顔を引っ提げて近付いてきた。
「ゼータゼータ、これ見てッ!!絶対あんたの事だってッ!!」
そう言いながらミケは一台のノートPCを差し出した。そこには匿名掲示板のスレッドが開かれていて、この街の情報や噂がいくつも書き込まれていた。その中には俺をドキッとさせる様なレスが複数あった。内容はこうだ。
『Flying Squirrelの幽霊が高速走ってた』
『あのスポーツスターは間違いなくタケシの物』
『総長のタケシはまだ生きてる』
『俺もこないだタケシくん見た』
これらの書き込みと、さっきされた人違いを繋ぎ合わせると、おバカな俺でも容易に解答に辿り着く。
『Flying Squirrel』とはチキータが皆殺しにした暴走族だ。現在の俺の顔はその元メンバーも物だし、俺の愛車となったバイクもその元メンバーの物だ。何の因果か顔とバイクの持ち主は同一人物だったみたいで、しかもFlying Squirrelの総長ときた。
つまり俺は、総長である『タケシ』の顔とバイクでこの街を走り回っていたワケだ。そりゃ噂の一つや二つ立っていてもおかしくはない。しかも彼の弟と思われる少年と接触してしまった。これで噂の信憑性が増してもうた。
だからと言ってどうこうできる問題ではない。これからは周りに気を配るしかないか。それに、タケシという人物はなかなか評判が良く、畏怖と尊敬の念を抱かれていた。俺が彼の顔して彼のバイクに乗っていた所で、襲われる心配はないだろう。
笑い話の一つとしてこの出来事を受け流したが、その終日後、事態は急変した。
「ゼータ、話ガアル。チョット来テクレ」
アミーゴに呼び出され、テレビ電話越しのボスを交えて三人会議が始まった。議題は先日の噂についてだ。そもそもの事の発端は、Flying Squirrelと東南アジア系のコミュニティとの諍いだった。その件は族の殲滅にて解決を見ていたが、Flying Squirrelに心頭するメンバーではない下の世代が水面下にいたらしく、総長のタケシの存命を聞きつけたヤツらは、再び彼を頭とする暴走族の結成を目論んでいた。その先駆けかは分からないが、連中は『東南アジア狩り』を始めた。既に多少の被害が出ている様だ。
この街の総意として、アジア系の労働者が狙われるのは看過できない。生産性の低下に繋がるからだ。存在自体が何の利益にもならない暴走族より、守るべき外国人労働者を守るのがBLACK MARKETの本懐である。しかし、アジア系の彼らは前回の依頼で財力の殆どを失っていて、改めて依頼を出す事が難しい状況にあった。
《お金の事は後回しにするにしても、あまりのんびりしていたら犠牲者が出るかも知れない。こちらでも色々と探りを入れてみるから、情報が整い次第ゼータくんに動いてもらいたい。お願いできるかな??》
確かに連中の凶行を食い止めるには、俺が直接手を下すのが最良だろう。『俺はタケシではない。タケシは既に死んでいる。外国人に舐めた真似をするなら、いつでも何人でも殺してやる…』この街の子供たちにそう知らしめる事が、被害拡大の防止に役立つ。
「分かりました。俺でよければ好きに使ってください。ちなみにターゲットは皆殺しですか??」
《うーん…、そこもまだ決めかねているんだよねぇ。大量の殺しは予算が嵩むから、上手く折り合いを付けるのに微妙な仕事になちゃうかも…》
どんな条件でもやり遂げてみせます、とボスに約束し、会議は終了した。本当の事を言えば、この件については引け目を感じてしまう。もしかしたらこの前会ったタケシの弟くんも殺さなければならないかも知れないからだ。流石に俺より年下は気が重い。
だが外国人というだけで、自分たちと見た目が違うだけで、理不尽な暴力を振るう輩がこの街には大勢いる。チキータだってその被害者だ。そんな連中には、それ以上の理不尽を突き付けてやればいい。この思考が正義ではない事は充分に理解している。
だって俺は、『殺し屋』という絶対悪なのだから…。
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