第8話 似非方言の商人

「はぁはぁはぁ。」


VRなので息切れを起こすわけない。だが全力で走ればそういった錯覚を起こすこともある。


「くそっ!」


オッサンがいた場所に戻ってくるとそこにはぽっかりとスペースが空き、オッサンどころか店すら残っていなかった。


俺はすぐ隣で店を開いている男に目を付けた。紺の甚平に同じく紺のバンダナを額に巻いた、周囲の環境に不釣り合いなこの男は俺の記憶が正しければ、俺がオッサンから買い物した時にもそこで店を開いていたはずだ。


「すまん、ちょっといいか!」

「うおっ!どないした?」

「あんたの隣で店をやっていたオッサンを知らないか?」


そういって隣の空いたスペースを指さすと男は一度考えるように首を傾げ、何かを思いついたように「あぁ、あいつか。」と覚えがあるように手を打った。


「気が付いたらいなくなとったからどこにいるかは知らんなぁ。もうログアウトしたんじゃないん?なんかあったのか?」

「……あいつに詐欺られた。」

「へ~、何をいくらで買ったん?」


男が興味深々な様子で訪ねてきた。


「このソフトレザーのポーチとローポーションが2本、豆鉄球40個で1000Gだ。」

「クッ…ククッ……そ、それは、見事に、やられたなぁ。」


男は笑いをかみ殺しながらそういった。


「なぁ、本当に知らないのか。」

「知らんなぁ。俺はようこの辺りにこうして店を出すが、初めて見る顔やったきん。」

「そうか……。」

「なぁ、そいつ売買システムやなくてトレードシステムを使うつこうたやろ?」

「ん?あぁそういえばそうだな。」


男がオッサンの手口というかシステムのことを話始めた。


「売買システムを片方が得をしすぎる内容で使うつこうとると得をした方にペナルティがあるんよ。ただし、トレードシステムにはそれがない。だから取引でトレードシステムを使うやつには注意が必要や。」

「はぁ、そんなのがあったなんて……。」


思わずがっくりと肩を落とすと男が励ますように肩を叩いてきた。


「まぁ始めたばかりならそういうこともあるさ。それよりなんか買っていかん?励ましとか慰めとか兼ねてサービスするで。」

「そうは言っても金がな……。」

「手持ちがいくらで何が必要なん?」

「180G。必要なのは……投擲武器だな。」


一瞬投擲はもう諦めようかと思ったが今更他の武器に乗り換える余裕もない。こうなったらとことん投擲で行くしかない。


「投擲武器?あぁそうか、初期スキルで武器が貰えなかったんか。しかも投擲スキルはあると。」


オッサンと同じように現状を言い当てられ、そんなに分かり易いのかとまた肩を落とす。


「う~ん。基本的に投擲武器はある程度戦闘がこなせるようになってから余力で用意するもんやからそのぐらい稼げるやつが使うんよ。だから始めたばかりのやつが使うには攻撃力も値段も使い捨てるには高いんよ。」

「これと似たようなのはないか?」


ストレージから豆鉄球を取り出して見せた。


「詐欺のオッサンから買ったんだ。1つ8Gで店に並べてた。」

「あ~、前のイベントで使われてたやつや。」

「イベント?」

「あぁ、イベントにとにかく素早くて攻撃がまともに当たらんモンスターが出たんや。」

「へ~。それでこいつをどうしたんだ?」


「そいつはとにかく素早い代わりにダメージが無いような攻撃でも当たれば動きを止める。せやから威力度外視でとにかく広範囲に攻撃をばら撒く武器を作ったんや。まとめて握ってばらまけば避けきれんからな。」

「投擲ってそんなばら撒くように投げても全部に攻撃判定が出るのか?」

「あ~……出てたっていうのが正しいな。そのイベントの後半に不具合として一回の投擲動作で当たり判定が出るのは1つに修正された。」

「そうか。じゃあそのあとはどうやってその敵を倒したんだ?」

「魔法使いの範囲攻撃を複数重ねたり、いくつか回避パターンがあることが分かったきん、そのパターンから回避後の移動位置を読んでそこに攻撃を仕掛けたりだな。」

「あぁ~、その回避後の位置を読むのが正当な攻略パターンぽいな。」

「そういうこと。っと、この豆鉄球のことやったな。確かにこいつなら初心者が使い捨てにできる値段で用意できるな。知り合いにまだ持ってるやつがいないか確認するからちょっ待っとれよ。持ってたらそうやな……1つ5Gでどうや。もちろん売買システムを使うぞ。」

「ありがたい、頼む。」

「よし、じゃあちょっ待っとれよ?」


男が露店の奥に引っ込むとぼそぼそと何かつぶやき始める。


(あればフレンドコールってやつか。)


しばらくして男が戻ってきた。


「持ってるやつがおったわ。すぐ来るで。」

「わかった。なんか、悪いな。ここまでしてもらって。」

「気にすんなや。金欠で詰んで引退なんてつまらないやろ。プレイヤーは多い方がいい。」


しばらく男と話しているとモジャモジャの白髭を生やした小男が走り寄ってきた。


「おっ、来たか。」

「すまん、待たせたのぉ。」

「いや、急に来てもろぉて悪い。こいつが例の……っと悪い。名前を聞いてなかったな。」


男はばつ悪そうにボリボリと頭を掻いた。


「そういえばそうだったな。ここまでしてもらったのにこっちから名乗らなくてすまん。俺はローガンだ。」

「ワイはジン。今来てもろぅたこいつは……。」

「バルトスじゃ。ドワーフで鍛冶士をやっとる。」

「よろしく頼む。鍛冶師?AROに職業はなかったと思うが。」

「あぁ、あくまでスキル構成や普段の活動からそう名乗ってるだけじゃ。そういう奴は結構いるぞ。剣術、盾術、光魔法で聖騎士とかな。そういうのがあった方がパーティを組むときにも大体の戦闘スタイルもわかるからの。」

「なるほど。」


そうなると今の俺は投擲士とかになるのか?


「それで必要なのは豆鉄球じゃったな。」


そういうとバルトスはジンとの間にウィンドウを立ち上げて操作するとジンも併せて操作をする。


そしてジンから豆鉄球を1個5Gで180G分買い取った。


「豆鉄球はバルトスから多めに仕入れといたからなくなったらまた来ぃや。」

「わかった、助かる。ところでジンのそのしゃべり方、どこの人。」

「あぁ、これか?ワイは生粋のハマっ子、横浜市民や。」

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