第7話 初戦闘そして発覚

ポーチ、豆鉄球、ポーションを装備した俺は西門から街を出て、西の平原にやってきた。


辺りを見渡すとちらほらとデフォルメされたウサギが跳ねまわり、水滴型のスライムらしき物体が這っている。


「とりあえず適当に狙ってみるか。」


こちらに背を向けているウサギを標的に定めると4~5mほどの距離まで近づく。


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 名称:ハーブラビット

 Lv:1

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射程に入ったというかのようにウサギの名前とレベルが表示された。


(こっちを向くなよ……。)


そろりとポーチから豆鉄球を取り出すと思い切り振りかぶって投げつけた。


スカッ!


「げっ!」


豆鉄球はハーブラビットの頭を超えて向こう側に落ちた。それハーブラビットもこちらに気づき、走り寄ってきた。


「クソっ!こっち来んな!」


次の玉をポーチから取り出してそのまま投げつけると今度は顔に当たり、HPゲージが2割弱減るとハーブラビットの動きが止まった。


「チャンス!」


すぐに次の玉を取り出し投げつける。それが当たったかどうかも確認せず、次の玉を投げる。


それを6回繰り返してようやくハーブラビットが倒れた。


「はぁ〜。まさか一発目から外すとは…。」


インベントリを開いてドロップを確認するとハーブラビットの肉と毛皮が1つずつ追加されていた。


「結構豆鉄球使ったな。何発で倒せたのかも確認できなかったし。次はもう少ししっかり狙うぞ。」


辺りを見渡し、一番近いハーブラビットを確認すると近づいていく。


「そういえば一応付与魔法があったな。STRが少しでも上がれば必要な球数が減るか?」


チュートリアルを思い出して魔法を意識すると足元が光りだす。


魔法にはキャストタイム詠唱時間が設定されている。魔法の発動を意識したこの詠唱状態を設定されたキャストタイムの分だけ維持しなくてはいけない。


この詠唱状態は攻撃を受けるか魔法の発動から大きく意識をそらすと解除されてしまう。


詠唱状態を5秒維持すると視界の端に発動可能な魔法が表示される。この状態で魔法名を宣言すると魔法が発動する。


「『ストレンジアップ』」


宣言と同時に目の前に魔法陣が現れて一瞬で消える。すると俺の体に赤いオーラが薄く纏わりついた。


ちなみに設定されたキャストタイム以上に詠唱状態を維持しても発動した魔法に追加効果などの影響は一切ない。また、魔法の発動と同時に詠唱状態はリセットされるので複数の魔法のキャストタイムを一度に稼ぐことはできない。そして戦技と魔法にはクールタイムが設定されていて、使用したモノは一定時間使用できなくなる。


ステータスを確認するとSTRに2追加されて10になっていた。


「固定値なのか割合なのか。それか効果の最低保証値が設定されていてそれが2なのか。しばらく様子見だな。」


魔法が発動していることを確認すると効果が切れる前にハーブラビットに近づいて攻撃を始めた。






「ギリッギリ!」


MP回復のために休憩を挟みながら戦闘を続け、残弾数1でどうにかハーブラビットを5体討伐できたところで思わず腰を下ろした。


「ストレンジアップを使えば1匹につき最低5発か。ストレンジアップを使いながらうまく立ち回ったとして5匹で25発。1発8Gだから200G。クエストの報酬が100Gだからドロップで100G稼げないと完全に赤字だな……。」


ハーブラビットは5発当てれば倒せることが分かったが何発か外して無駄にしている。インベントリにはドロップ品の肉が3つ、毛皮が2枚入っている。


「最初に両方ドロップしたのが運が良かっただけであとはどちらかをドロップしたのが3匹、ドロップなしが1匹か。」


大きくため息を吐き出して立ち上がるとギルドに向かった。





「おめでとうございます。クエスト達成です。」


クエスト報酬の100Gを受け取るとファンファーレが響いた。驚いて周りを見渡すが誰も反応していない。


ログを確認してみるとレベルが1上がっていた。


「どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもない。それよりドロップ品を売りたいんだがどうすればいい?」

「それでしたらあちらのカウンターで解体と買い取りを行っております。」


受付嬢が掲示板とは反対側を指すとそちらのカウンターにはごついオッサンが控えていた。


「ただ、こちらでの買い取りは買取相場通りとなります。もし、相場より高く買い取ってもらえる伝手があるのでしたらそちらに持ち込む方がよろしいかと思います。」

「わかった、ありがとう。」


達成報告カウンターを離れ、買い取りカウンターに近づくとオッサンから話しかけてきた。


「買取か?」


それに答えると目の前に買取ウィンドウが開く。インベントリから肉と皮をすべてセットすると肉が20G×3、皮が10G×2で80Gになった。


他に売る伝手もない以上どうすることもできず、80Gで売ることになった。


「とりあえず、豆鉄球を買い足さないとな。」


180Gで豆鉄球を買い足すために市場のオッサンのところに向かった。


「ん?」


先ほどの市場に向かう途中ショーウィンドウが設置された店が目に留まった。そこにはポップと共に市場で買ったポーチも展示されている。


初心者セット200Gで販売中

セット内容:

 ・ソフトレザーポーチ(二口)

 ・初心者用ポーション×5

 ・初心者用マナポーション×3

 ・初心者用スタミナポーション×3


「……。」


ポップに目が釘付けになる。ソフトレザーポーチはオッサンから買ったものと全く一緒の物だ。俺が買ったローポーションとセットのポーションの性能はこんな感じだ。


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 名称:ローポーション

 分類:回復薬

 説明:プレイヤーのHPを20%回復する

 重量:0.1

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 名称:初心者用ポーション

 分類:回復薬

 説明:レベル5までのプレイヤーのHPを30%回復する

レベル6以上のプレイヤーのHPを5%回復する

 重量:0.1

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 名称:初心者用マナポーション

 分類:回復薬

 説明:レベル5までのプレイヤーのMPを30%回復する

レベル6以上のプレイヤーのMPを5%回復する

 重量:0.1

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--------------------

 名称:初心者用スタミナポーション

 分類:回復薬

 説明:レベル5までのプレイヤーのSPを30%回復する

レベル6以上のプレイヤーのSPを5%回復する

 重量:0.1

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「……いや、待て待てもしかしたらこの店が初心者支援で採算度外視の値段をつけてるだけかもしれない。」


俺は店に入ると店員に声をかけた。


「すいません。」

「はい、なんでしょうか?」

「ショーウィンドに書かれた初心者セットってそれぞれ単品で買ったらどのくらいになりますか?」

「単品で、ですか?そうですね……。ソフトレザーポーチが100G、初心者用ポーションが一つ15G、初心者用マナポーションが一つ10、初心者用スタミナポーションが一つ10なので235Gですね。」

「100G……。初心者支援のために低価格で提供しているとかですか?」

「いえ、相場通りの値段をつけています。」

「そうですか。ちなみにローポーションの値段はいくらですか?」

「ローポーションは中品質の物で一つ80Gです。」

「そうですか。ありがとうございました。」


怒りを抑えて店員にお礼を言うとそそくさと店を出た。


「あのオッサンやりやがったな!」


オッサンを問い詰めにダッシュで市場に向かった。

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