第5話 ゲーム開始

「おぉ……。」


視界が暗転した後に感じる浮遊感に思わず声が漏れる。そして浮遊感が収まるとともに石造りの建物が並んだ街並みが目の前に広がった。あたりを見渡すと噴水が設置された広場になっていて、いろいろな種族の人がいた。


キョロキョロと見渡しているとふと、視界の端に「!」が点滅しているのに気が付いた。それに意識を向けると目の前にウィンドウが開く。


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 クエストタイプ:チュートリアルクエスト

 クエスト名:冒険者ギルドに登録しよう

 内容:

  冒険者ギルドに登録する

 報酬:

  ギルドカード

  10EXP

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「チュートリアルの続きか。これは受けに行くとして、それよりまずはステータスの確認だな。」


背後の噴水の傍に設置されたベンチに座り、ステータスを開く。


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 プレイヤー名:ローガン (Lv.1)

 種族:獣鬼人族

 HP:100/100

 MP:10/10

 STR:8

 VIT:6

 INT:4

 MND:4

 AGI:5

 DEX:6

 BP:5


 装備スキル(5/10)

 ・下級投擲術:エピック Lv.1/10(AP0)

 ・下級付与魔法:レア Lv.1/10(AP0)

 ・魔力強化:アンコモン Lv.1/30(AP0)

 ・下級鍛冶:アンコモン Lv.1/10(AP0)

 ・水泳:レア Lv.1/30(AP0)

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獣鬼人族

獣人族と鬼人族のハーフ

獣人族と鬼人族二つの要素を併せ持つ

STRがかなり上がり易く、VITとDEXが上がりやすい。

INTとMNDが上がりにくい

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下級投擲術:エピック Lv.1/10(AP0)

有効アビリティ:

 ・強化:投擲攻撃

  ・投げた物を投擲攻撃として当たり判定を追加する

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下級付与魔法:レア Lv.1/10(AP0)

有効アビリティ:

 ・魔法:ストレンジアップ(消費MP:3)

  ・5分間対象のSTR増加(増加量は術者と対象者のステータスに依存)

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魔力強化:アンコモン Lv.1/30(AP0)

有効アビリティ:

 ・強化:MP2%増加

  ・最大MPが2%増加される

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下級鍛冶:アンコモン Lv.1/10(AP0)

有効アビリティ:

 ・強化:鍛冶施設使用解禁

  ・街の鍛冶施設、携帯鍛冶施設を使用し鍛冶が可能になる

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水泳:レア Lv.1/30(AP0)

有効アビリティ:

 ・強化:水中行動制限3%緩和

  ・水中行動制限率が3%緩和され77%になる

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種族の特徴とスキルを見た俺は無言でベンチから崩れ落ちて膝をついた。


「……これは成長補正が入った種族なんだろうな。」


種族選択画面になかった「かなり上がり易い」という表記と上がり易いに分類される項目が3つもあることから当たりなのが伺える。


ただし、それとスキルが半分かみ合っていなかった。


種族の特徴とスキルを見比べてプレイスタイルを考える。


「DEXが上がるなら投擲術はまぁ当たりだ。レアリティもエピックだしな。ただ、投擲って斥候とかが牽制に使う程度のイメージだよな。DEXが上がるって意味では鍛冶もありだけど生産系か……。水泳なんてレアを引いたけど水辺に行けるのはいつになるのか。下級付与魔法と魔力強化なんてINTが上がりにくいんだからMPを上げる意味もない、外れも外れだ。せっかくレア引いたのに。当たりは1、微妙が1、外れ3か……。」


種族の特徴とスキルを見比べてプレイスタイルを考える。


「とりあえずせっかくのエピックだから戦闘は投擲をメインにするか。BPはとりあえず1回のレベルアップでどのくらいステータスが上がるかわかるまでは貯めておくか。」


気持ちを切り替えて立ち上がると噴水の水に自分の顔が映りこんだ。


ぴょこぴょこ跳ねまくった癖のある黒髪を後ろに流して、横と後ろは刈り上げているように見える。こめかみからは太い角が正面に向かって生え、途中から上に向かって曲がっている。元の耳があるはずの位置からは三角の2点をくっつけたような半筒状の動物耳が付いている。


「獣人族と鬼人族のハーフって、これ何獣人だ?」


角は鬼人族の物だろう。そうすると耳は獣人の物のはずだ。


顎に手を当てるとジョリっとした髭の触感があった。揺れた水面では見えなかったが顎髭も生えているようだ。


「全身が確認できるような画面はないのか?」


再びメニューを表示して項目を確認していくと装備画面で全身を確認できた。


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・頭:なし

・顔:なし

・上半身

 ・アウター:初心者レザー用アーマー

 ・インナー:白シャツ

・下半身:

 ・アウター:初心者用ボトム

 ・インナー:ブリーフ

腕:なし

右手:なし

左手:なし

脚:なし

足:初心者用レザーブーツ

アクセサリー1:

アクセサリー2:

アクセサリー3:

アクセサリー4:

アクセサリー5:

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画面を横にスワイプすると全身像が回転して、ピンチ操作で拡大もできた。


防具と言えそうなのは胸当てのみのレザーアーマーだけでシャツもズボンも簡素な作りで体格の良さを強調するような体にピッタリと張り付くサイズだ。


「おぉ~。体格もよさそうだし、希望通りだな。……ん?」


ピンチ操作を繰り返して各部を確認しているとあるところで手が止まった。


「なんだ、この不自然なふくらみ……。この形……いや、でもさすがにこの大きさは……。宿屋!宿屋はどこだ!」


個室を求めてメニューを操作しマップを表示すると町の地図が表示されるがほとんどがグレーアウトしていて、はっきりとわかるのは自分がいる噴水広場の周りだけだった。それでも広場の端に宿屋があるのがわかった。


宿屋に駆け込むと利用料100Gを払って部屋に急ぐ。


部屋に入り、鍵を掛けると装備メニューからインナーも含めて装備をすべて外した。


身に着けていたものがすべて消え、下半身に異様なふくらみを作っていた原因が姿を現した。


「うわぁ……。」


500mlのペットボトルほどの大きさの肉の棒がブラブラと存在を主張し、その根元にには野球ボールほどの大きさがありそうな物を内包した袋がぶら下がっている。


思わず額に手を当て、ため息が漏れる。


「最大でOK出したけどコレはないだろ……。おぉぉ……。」


呆れてぶら下がったイチモツを持ち上げてみるとその重量感に思わず声が漏れる。


「玉もずっしりしてる。自分のとサイズが全然違うのにちゃんと感覚がある……。」


触っているとだんだんと呆れよりも好奇心と興奮が勝ってきた。それに答えるように段々固く、太く、長く、上を向いていく。


「すげぇな。両手でも手が回りきらない。」


完全に上を向いたそれは二の腕よりも太く、肘から手の先までよりも長かった。





「やっちまった……。」


好奇心には勝てなかった。両手を必死に上下に動かしてしっかりイクところまでしてしまった。


「けど、気持ちよかった。しかも片付けしなくていいとかメッチャ楽。」


イったあと賢者タイムに浸りながら、こんなモノまで再現してるのかと吐き出したモノに触れてみるとフッと消えた。それはもう跡形もなく。体やイチモツにべとつきも残さずきれいさっぱりだ。


「とりあえず、見た目をどうにかしないとな。」


メニューからインベントリを開いてみるも当然空っぽ。所持金は初期の1000Gのみ。


「そういえば投擲用のアイテムもない?うわ、マジか……。投擲術は初期装備がもらえないスキルかよ。」


こうなると1000Gは無駄遣いできない。


「股間が目立たない下半身装備が買いたかったけど、まずは投擲アイテムを買わないとダメか……。そうするとまずは武器屋だな。それかプレイヤーが出店できる市場的な場所が見つかればそっちは掘り出し物があるかもな。」


マップを開くが相変わらず、ほとんどがグレーアウトしている。かろうじて先ほどの広場と宿屋周辺はわかるようになっているが武器屋も市場らしき場所も載っていない。


「とりあえずギルド、武器屋、市場を探しながら歩き回って地図を埋めるか。あんな膨らみ晒しながら街中歩くとかどんな羞恥プレイだよ……。」


大きくため息をつくとすべて装備し直して宿屋を後にした。




しばらく歩くと違和感を覚えた。


「なんかみんな小さくないか?」


ドワーフや妖精は別として周囲の人族や獣人、エルフと比べても比べて頭一つ分から一つ半ほど差がある。そのせいか先ほどからやたらとチラチラ見られているみたいだし、ヒソヒソと話す声が聞こえる。いや……視線は俺の身長ではなく、もっと下に向けられている気がする。


「……気にするな、気にしたら終わりだ。そういえばさっきの宿屋も入り口で頭ぶつけそうになったな。身長はできるだけ高くと希望したがあまりに差がありすぎる気がする。」


身長について考えることで羞恥心を紛らわしながらしばらく歩くと盾の前で剣と杖をクロスさせた看板を掲げた建物を見つけた。


「これか?」


マップを確認すると建物は冒険者ギルドと記載されている。


「それじゃあ行くか。」


スイングドアを押して入ると中はそれなりの人数でにぎわっていた。人の隙間を縫って空いているカウンターに進む。


「ギルドに登録したいんですが。」

「はい、登録で……ひっ。」


カウンターでうつむいて作業をしていた人に話かけると顔を上げてもらえたがいきなり悲鳴のような声をあげられてしまった。


「なにか?」

「い、いえ、失礼しました。それではこちらの水晶に触れてください。」


そういう受付嬢の視線は俺の顔ともっと下の辺りを行ったり来たりしている。


羞恥心を押し殺し、平常心を装いカウンターに設置された水晶に手を触れるとぼんやりと光を放ってすぐに消えた。


「これで登録は完了です。こちらがギルドカードです。なくさないようご注意ください。」

「ありがとうございます。」


差し出されたカードを受け取るとピコンと電子音がなり、視界の端に「!」が点滅した。そこに意識を向けるとチュートリアルクエストのウィンドウが開いてクリアと表示され、次の任意の依頼を達成するというクエストが表示されている。


「冒険者ギルドについて説明させていただきます。」


冒険者ギルドについてはよくある設定のままだ。

・冒険者ギルドでは冒険者に様々なクエストを斡旋している。

・冒険者には下からE、D、C、B、A、Sとランク付けされている。

・クエストにもランクが設定されていて自分と同じランクのクエストしか受けることができない。

・一度に受けることができるのは5つまで。

・クエスト失敗時には罰金と評価にペナルティがある。

※常設クエストには評価ペナルティのみで罰金がないものもある

・罰金を払えない場合、手持ちのアイテムによる物納か強制労働となる。


「クエストはあちらの掲示板から探して受けてください。完了報告はこちらのカウンターへお願いします。」

「わかった。」


他のVRゲーム同様、所有者が自分になっているアイテムは意識するだけでインベントリに入る仕組みのようで意識するとギルドカードは光になって消え、インベントリに追加されていた。


依頼が張り出されているという掲示板に近づき、意識を向けると目の前にクエストのウィンドウが表示された。


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 クエストタイプ:冒険者ギルドクエスト(常設)

 クエスト名:西の平原の魔物討伐

 内容:

  西の平原で任意の魔物を5体討伐

 報酬:

  100G

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 クエストタイプ:冒険者ギルドクエスト(常設)

 クエスト名:回復草納品

 内容:

  回復草5本を採取して納品

  購入した物は不可

 報酬:

  100G

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表示されたのは2件。おそらくチュートリアルクエストの一環として、初めはこれしか表示されないのだろう。購入した物はクエストに使えないとなると魔物討伐一択だ。


魔物討伐を選択して、受注すると武器屋を探してギルドを出た。

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