第2話 キャラクターメイキング
「another・reality・onlineの世界へようこそ。」
突然掛けられた声にハッと意識を取り戻すと何もない真っ白な空間でローブのような服を着た女性と向かい合っていた。
「私はサポートAIのルルネットです。まず、この世界での貴方の名前を決めて下さい。」
AI特有の抑揚の少ない、機械的な話し方ではなく、人間らしい話し方に思わず目を見開く。
「すごいな…本当にAIなのか?」
「はい、私は間違いなくAIです。昨今のAIと違い、表現抑制の制限を受けておりませんので限りなく生身の人間に近い振る舞いが可能です。」
そういうとルルネットはニッコリとほほ笑んで見せた。表情の変化や話し方、応答可能な話題の範囲もルルネットの言う通り本来なら制限の対象だ。
「初期設定を進めたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ、そうだな。進めてくれ。」
「かしこまりました。ではこの世界での貴方の名前を決めて下さい。」
「ローガンで。」
「ローガン、ですね。少々お待ちください。……重複していないことが確認できました。それではローガンで登録いたします。」
無事に登録できたことにほっと胸を撫で下ろす。ローガンはイギリス系の名前で小さなくぼみという意味だ。苗字の小窪から取ったよく使うプレイヤー名だ。ただし、よくある名前なので既に使われていることは十分あり得た。
「改めまして、ローガン様。another・reality・onlineの世界へようこそ。初めに注意事項をお伝えいたします。another・reality・online、通称AROをプレイするには注意事項に同意していただく必要がございます。」
「わかった。」
ルルネットが読み上げた注意事項は次の通りだ。
1. AROは多くの国で定められているフルダイブ式VR技術を制限する法律を採用していない国の中で運営されている。それによりプレイヤーが現在接続している国の法律でそういったサービスにアクセスすること自体を禁止していた場合、プレイヤーが罪に問われる可能性がなる。
2. フルダイブ式による感覚のうち痛覚以外はすべて再現されている。またAIの表現、行動なども一切制限していない。痛覚はフィールドと街中で異なり、街中では完全遮断。フィールドではある程度遮断しているが一般的に流通しているゲームに比べると遮断率は低く、それなりの痛みがある。
3. 流血や内臓、切断面などのグロ表現、胸や陰部などの性器表現、それらがもたらす感覚も制限されておらず、再現している。
4. AROをプレイすることで発生した身体的および精神的健康被害、金銭被害等あらゆる被害に関して自己責任であり、ARO運営は一切責任を持たない。
5. AROのNPCはすべて高性能AIが搭載されており、一部のキーキャラクターを除いてこの世界がゲームであり、自身がAIだとは認識していない。よってゲーム内でNPCにゲームやAIのことを教えることを禁止とする。
6.ゲーム内の時間は加速されていて、現実の6時間がゲーム内で24時間になる。そのため現実に戻った時に時間や日付の感覚が狂い、時差ボケのような症状が出ることがある。
「以上となります。こちらに同意していただけますか?」
1は納得できる。2、3はむしろそれを求めてプレイするし問題ない。4はまぁ、アングラである以上しょうがないだろ。完全再現のVRで問題が起きた過去があるからな。5についてはわざわざNPCにいうことはないだろう。6も問題ないだろう。
「問題ない。同意する。」
「ありがとうございます。では、キャラクターメイキングに進めさせていただきます。」
ルルネットが手をかざすと目の前にマネキンとウィンドウが現れた。
「まずは種族を決定します。一覧から種族を選んでください。」
ウィンドウに表示された種族をタップするとマネキンがイメージモデルらしき姿に変わった。ただし、何も身に着けていない。
「なんでフルチンなんだよ!」
「性器表現の制限は適用されておりません。」
パンツすら穿いていないのでイチモツがブラブラしている。
予想外の姿に思わず叫ぶとルルネットがさも当然と言わんばかりに告げた。
「……まぁこれはこれで。」
思わず、種族の特性も確認せずに股間だけを凝視しながら順番に種族を選択していく。
「……でかいな。」
「種族は決まりましたか?」
「あっ、いや、待ってくれ。」
ルルネットの声で正気に戻り、改めて種族の特徴とイメージモデルを確認する。
・人族
どのステータスも万遍なく上がる
良くも悪くも平均的
見た目は現実の人と変わらない
・エルフ
INTとDEXが上がりやすく、STRとVITが上がりにくい
魔法と弓が得意な種族
とがった耳と整った顔、スレンダーな体型が特徴
・ドワーフ
STRとDEXが上がりやすく、INTとMNDが上がりにくい
大剣や鎚など重量のある武器と生産が得意な種族
背が低くずんぐりとした体形と髭を蓄えているのが特徴
ルルネットに確認すると髭なしは選べなかった
・鬼人
STRとVITが上がりやすく、AGIとDEXが上がりにくい
大剣や大盾など近距離戦闘が得意な種族
長身で筋骨隆々な体格と額にある角が特徴
角は1本角と2本角が選べる
・獣人
狼、猫、狐、熊
共通してAGIが上がりやすく、MNDが上がりにくい
モデルとなる動物によって得意不得意が変わる種族
狼の場合STRが上がりやすく、DEXが上がりにくい
猫の場合DEXが上がりやすく、STRが上がりにくい
狐の場合INTが上がりやすく、VITが上がりにくい
熊の場合VITが上がりやすく、INTが上がりにくい
獣の耳と尻尾が特徴。体格はモデルとなる動物による
・妖精
INTとMNDが上がりやすく、STRとDEXが上がりにくい
魔法全般が得意な種族
エルフよりもやや長くとがった耳とキラキラと光る半透明の羽が特徴
体格は小柄
この羽は数秒間数センチ浮く程度はできるが飛行といえるほど高く長く飛ぶことはできない
・ランダム
システムが上記種族からランダムに選択
・課金ランダム1(日本円で500円)
システムが上記通常種族+レア種族からランダムに選択
出現するレア種族は上記種族と同様にステータス上の得手不得手はあるが特別強力な種族は存在しない。あくまでアバターとしての見た目上の要素
出現率:通常種族60%、レア種族40%
・課金ランダム2(日本円で2000円)
システムが上記通常種族+レア種族からランダムに選択
出現するレア種族は上記種族と同様にステータス上の得手不得手はある
上記種族よりレベルアップ時のステータス上昇値が若干増加しているが特別強力な種族は存在しない
若干成長補正のあるアバター
出現率:通常種族50%、成長補正なしレア種族40%、成長補正ありレア種族10%
「ずいぶんあるな。課金要素はランダム、ようはガチャで見た目だけレア種族になる物と成長補正のある物か。どうせ課金するなら成長補正がある方がいいけど、出現率が10%なのがネックだな。……そういえば、ルルネット。」
キャラクターメイキングの工程上、ここでランダムを選んだ時の疑問が頭に浮かぶ。
「はい、なんでしょうか?」
「種族を選んだらアバターを作るんだよな?ランダムを選んだ場合はアバターの編集ってどうなるんだ?」
「ランダムを選んで次に進んだ時点で種族は決定しますので決定した種族の特徴を反映したアバターを作成することになります。これはアバター作成だけでなくこの後の初期スキル選択においても種族がわからないと向いているスキルを選択できないからです。ちなみにランダムを選んだ場合は種族選択のやり直しはできません。」
「そうか、確かにスキル選択でも種族ごとの向き不向きがあるか。でも俺はアバター作成の時点で種族がわかるのはちょっとつまらないな。」
どうせランダムにするのなら開始するまでわからない方がいいな。
「それでしたらアバターもランダムにするか
「そんなこともできるのか?」
「できます。制限が少なく自由度の高いAIですので。」
「ならそうしてもらうか。種族は課金ランダム2でアバターは希望を伝えるからルルネットに任せる。種族はゲーム開始時まで秘密にしておいてくれ。」
「かしこまりました。」
登録しておいたクレジットカードで課金ランダム2の精算を済ませてアバターの希望を伝える。
「身長はその種族で設定可能な範囲でできるだけ高くしてくれ。体格は厚みを持たせて、かと言って太って見えないように。……そうだ、筋骨隆々な感じで。髪型、髪色は任せる。顔の大きさも体格に合わせて調整して、丸顔は避けて。あとはそうだな……。」
あまりいろいろ指定しすぎると出来上がった時の楽しみが薄れるよな……。
「……陰部についてはご要望はありませんか?」
「は?」
ルルネットの言葉に思わず思考が止まる。
「言い直しましょうか。チン「ストップ!」……はい。」
はっきりと言おうとしたルルネットを思わず止める。
「女性がそんなはっきりというのはどうかと思うぞ。」
「私はAIですので性別はありません。羞恥心もありません。」
「……そうか。で、なんでそれを聞くんだ?」
ルルネットは軽く咳払いをして続けた。
「アバター作成の際、男性プレイヤーは陰部の設定にこだわる方が多くいましたので男性にとって陰部は重要な要素だと考察します。なので何かしら要望があるのではと。」
「そこもいじれるのか?」
「はい。睾丸の大きさと陰茎の長さ、太さが平常時と勃起時で別々に設定可能です。ただし、勃起時の値を平常時より小さくすることはできません。」
「さらっと勃起とか言わない。どうしよう、めっちゃ気になる。」
「すべて最小値で作成しましょうか?」
「なんでよりによって最小にするんだよ。」
「では最大値で?」
「……そうだな。それで。」
ただのアバターだ。所詮偽物ではあるが、男としてのプライドと興味がそれを選択させた。
希望を上げるときりがない上出来上がった時の楽しみが減るのでアバターの希望はこの辺で切り上げて次に進むことにした。
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