気になるあの子もこれを読めばイチコロ! さぁーあなたも少女漫画のヒロインになろう(悠音の視点)

 今僕は、森の茂みから例の詩というゾンビと律をこっそりと観察している最中である。


「ジーーーーッ!」


「ヒィー?!」


「変な声出してどうしたの律君?」


「いや、誰かに見られているような視線を感じたんだけど、気のせいかな?」


「律様ニ見ル所何テ、アルノデショウカ?」


「あるよ! きっと何処かに……何処かに…………。自分で言ったら余計に悲しくなってきた」


 僕の律とほのぼしてるなんてずるい!

 あの詩とか言う奴、中々侮れん奴だ。前に律が連れがいると話は聞いていたが、てっきり僕はペットか何かだと思ってたのに……人間のゾンビだったとは思いもよらなかった。


 それに彼奴は、この僕を音ゲー野郎って言ってきた奴なんだぞ。音ゲーとは古代のいにしえの良きふるき時代から続く誇り高い舞なんだぞ、まったくこれだから素人は!


「律君にはいっぱい良い所があるの私知ってるから大丈夫だよ」


「ありがとう詩!」


 ぐぬぬ……。悔しいが、今ので距離がぐっと近づいたのが手に取るようにわかる。

だがしかし僕は諦めない。律と僕の固く結ばれた親友の絆は、彼奴には絶望に壊す事は出来ないのだ。


「フフフ……ハッハッハッハッ!」


「今、何か変な笑声みたいなのが聞こえたよね詩?」


「うん、私も聞こえたよ」


「やっぱり、不気味だからちょっと移動しようか?」


「そうだね」


 チッ! 場所を移動したか。身を隠すには持ってこいの茂みだったのにやられた。


 しかし、あの詩とかいうゾンビまるで読めない奴だ。ちょっと前々ではあんなに落ち込んでいたかと思ったら、急に元気になったら僕の親友の律といつも一緒に行動しているなんて気に食わない。


 今思うと、あの詩って奴が現れてから僕のポジションは奪われるは、親友の律の隣は独占されるし、何故か律を慕ってる所も僕と似ててキャラが丸被りではないか!

お陰で僕は律と離れ離れになって、心にぽっかりと穴が空きまくりだよ。だけど、律とは常に半径1メートル以内にいるようは心がけている。そう、何故なら僕達は親友だからだ! 親友ってそんなもんだろ!


「…………ハッ! 今わかったぞ!

僕のこのモヤモヤとした感情の正体が何なのか、今ハッキリとわかった。これがあの噂に聞くって奴なのか?!?!」


「悠音君それは違うと思うわよ」


「えっ?! 姉御何時からそこに……」


「うーんっと、たった今かな? 悠音君、何か心配事があるなら私で良ければ聞くよ」


「心配事か……」


「そう、心配事! 皆は私のもう大事な家族だから、力になりたいのよ」


「姉御には何もかも全てお見通しって事か……。やっぱり姉御には敵わないな。

 ありがとう姉御! 僕はこの三角関係を制してみせる!」


「えっ! ちょっと、悠音君?!」


 そうと決まればあの本の出番だ!


 もしもの時にあの本を取って置いて良かった。このもこれを読めばイチコロ! さぁーあなたも。これだ!


 この本を読んで戦術を上手く組み立てれば、必ず何もかも上手くいく。って、あのなんでも屋のおばあちゃんが言ってたんだから大丈夫だ。やっぱり持つべきは心の師だな。ありがとうなんでも屋のおばあちゃん、とうとうこの本を使う時がきたようだ。


 では、早速読むとしよう。えーっと、何なに……食パンを食べながら気になるあの子に突撃すれば必ず上手くいくよ。


「なるほど……食パンを食べればいいんだな。だが、ちょっとこれだとインパクトが足りないなぁー…………。

 そうだ! アレを食べながにした方がもっと上手くいくに違いない」



 よし、準備は整った!

 おっ! どうやら律は今、詩というゾンビとは一緒に居ないみたいだな。よし、僕はこのチャンスを絶対に物にしてみせる!

 

 さてと、食パンの変わりにこのお祭りでよく見かけるりんご飴を食べながら律にぶつかって成功させてみせる。おっ! 早速律を見つけたぞ。


「喰らえ、オラァ!」


「イテっ! 」


「グハッ!!」


「えっ?! おい、ちょっと悠音どうしたんだよ」


「律、僕はもうダメみたいだ……。

 僕の喉に……喉にりんご飴の串が刺さったみたいだ。僕にはこの邪眼で全て見えている。どうやらお迎えが来たらしいな……。天使エンジェルじゃなくて死神グリム・リーパーデスサイスを持って迎えに来たようだ。こんな最後を迎えるとは僕は思ってもみなかった……」


「おい、悠音! しっかり気を持つんだ。天使と死神がなんだって……?」


「あれ? おかしいな……。 中々お迎えが来ないだと?!」


「いや、だから何やってるんだよ?」


「ハッ! そうか……僕とした事がすっかり忘れていた。僕はゾンビだから頭とか心臓を殺られない限り死なないんだった。

 ふぅー、これだから迫真の演技は疲れるな…… 」


「紛らわしい事するな! 良い子の皆が真似したらどうするんだよ」


 僕の為を思って注意してくるなんて、律は何て良い奴なんだ。僕は律みたいな親友を持て幸せいっぱいだ。今のできっと律との仲は縮まったに違いないな……うんうん!



 じゃあー次に行ってみよう!



 うーんっと、次はなになに……主人公とヒロインはいつも喧嘩しがちだけど諦めないで! 喧嘩すればする程、気になるあの子のハートを鷲掴み!


 なるほど、殴ればいいのか!


「律、ちょっと顔貸しな」


「えっ、ちょ……悠音何する気なんだ?

 おい、早まるなよ。やめろって……やめろォォォオ!!」


 うんうん、効いてる効いてる! 今ので律のハートをぐっと鷲掴みしたよ。良い調子だ。この調子でどんどん行こう。さて、お次はどんなのにしようかな? おっ! コレなんてどうだ? うん、いい感じだ。これにしてみよう!



ドジっ子をアピールすれば間違いない!



 ドジっ子か……そうだ! 台所にあった高級そうなお茶を律に持って行ってやろう! そこで、滑ってドジ踏めばきっと僕の姿がドジっ子に見える事間違いなしだな。待ってろよ律、僕の勇姿をお前に見せてやる。


「ハッハッハ!!」


 ん? 今、丁度熱いお湯しか無いみたいだな。疲れた時には水出し茶が一番なのだが、仕方ないここは熱々のお茶を律に出すしかない。それにしても、このお茶熱いな……。僕の手が火傷しそうだが、まっいっか!


「律、疲れた時はこの悠音特製のお茶を飲みたまえ」


「ありがとう悠音! 丁度喉がカラカラでお茶が飲みたかったんだ」


「おっと、手がたまたま滑った」


「熱っ! バカヤロー熱湯かける奴があるか!!」



 どんどん行こー!



 で、お次はどんなのだ?

 フムフム……何なに、壁ドンは王道中の王道! これで遂に気になるあの子もノックダウンする事間違いない!


 壁ドンか……。余り聞いた事ない技だが、とりあえず相手を壁にドンっと叩きつければいいんだよな。それなら、この僕にも出来るぞ。楽勝、楽勝!


「よっ、律!」


「今度はどうしたんだよ?」


「壁に……ドーンッ!」


「グホォ!! …………ちょ、俺の身体がどんどん壁にめり込んでるからやめろ! やめろって言ってるんだ。今ので俺は本気で怒ったぞ」


「…………。」


 という訳で何故かはわからないけど、僕は今正座しながら律に説教されています。一様、怒らる様な事をしたのか自分の心臓に手を当てみたが、思い当たる節はこれといって何も無い……。


「最近の悠音なんかおかしいぞ!」


「この僕がおかしい? どの辺がおかしいというんだ」


「全部だよ」


 全部……? まったく持って思い当たる節が無いってさっきわかったばかりだし、これ以上どうすればいいというんだ!


「僕はこの本に書いてある事を実行したまでだ! 文句があるならこの本に言って欲しいよ……」


「何なに……気になるあの子もこれを読めばイチコロ! さぁーあなたも少女漫画のヒロインになろうって悠音は乙女かっ!

 ……何でこんなの読もうと思ったの悠音は?」


「だって、最近律は詩って子とばっかり一緒にいて相手にしてくれないからつまらない……」


「詩はここに来て最初に出会った仲間だし、それに大切に思っている子だよ。もちろんそれは悠音も同じだと思うよ多分な多分だからな……。

 そうだ! この機会に悠音も詩と友達になればいいんだよ! 詩を連れてくるから待ってて」


 親友である僕を一番に思ってくれているなんて嬉しい限りだ。さすが、律だよ!

 だけど、僕があの詩って子と友達になる……。ダメだ、想像がつかないし全身に拒否反応が出る。


「詩を連れてきたから、友達の印に悠音と詩は握手しよう」


 僕の手はこの詩って子と握手するのを拒否している……。ならば、ここは宣戦布告するしかない!


「僕はこんな奴と仲良くするつもりはない!」


「奇遇だね! 私もこんな音ゲー野郎と仲良くするつもりはない!」


「どうしよう……。俺、二人の背後から炎がメラメラと燃えてるのが見えるよ……」


 今日は色々な事が沢山あったけど、一番の親友である僕にこの本は必要なかったみたいだな。上手くいかない事も多いけど、あの場所で一人音ゲーしてるよりも今はずっと毎日が楽しい!


 きっと、親友の律と皆がいるお陰なのかもしれないな……。

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