ゾンビと一緒に食卓を囲む晩ご飯は美味しですか?

 うーんと、何なんだろうこの状況は……。俺は今、もしかしたら歴史的快挙な事をしているんじゃないだろうか? だって、あのゾンビと同じ食卓で晩ご飯を一緒に食べてるんだよ。もう、これって歴史的快挙って以外なんて呼べばいいんだ!


「姉御、僕肉は嫌いなんでいらないです」


「あら、家の旦那さんと同じなのね悠音ゆうと君は」


えぇぇぇぇ?!

あのゾンビの悠音がまさかとか意外過ぎるだろうが。ゾンビならゾンビらしく肉を食えよ肉を! ここは俺がビシッとゾンビとは何たるかを悠音に言わねば!


「カノンさんの旦那さんも悠音もゾンビなのに肉を食べないとかおかしいよ。イメージと違いすぎる。ゾンビのイメージって言ったらやっぱり肉でしょ! だから、お肉をたべなさい」


「まっ、好みは人それぞれだよ律!」


「うーん、納得いかない……」


本当に好みの問題だけなのか?

ゾンビに対する俺の固定概念がどんどん此奴らによって破壊されていく……。

それに、あれからKAGUYAカーちゃん全然呼んでも音沙汰無いしそんなに調べ物って大変なんだろか?


「えーっと、皆食べ終わったかな? そろそろ私達の話について聞きたいんじゃない? 聞いちゃう?」


カノンさんは皆が食べ終わったのを見計らってから、茶目っ気たっぷりに本題についての話を始めた。


「私は32歳までローズグレイ社って会社で医者として働いてたの。この会社はね、最初に建築開発から始まってのちに製薬開発やロボット開発で成功し、莫大な富を築いたのがローズグレイ社なの。しかも、たった一代で築き上げたんだから凄いよね。それに、この会社は自然保護にも積極的に取り組んでいたから、誰もが憧れ悪く言う人なんていなかった」


「そんな大きくて良い会社がどうして、ゾンビと関わってくるんだよ?」


「律君、話は最後まで聞く事!」


「ごめんなさい……」


だってさぁー、しょうが無いじゃないか! そんなに凄い会社なのにどうしてゾンビと関係があるのか、つい知りたくなっちゃったんだから……。


「で、どこまで話たんだったかな……? そうだ! かなり大きい会社だから、病院もその敷地内にあってね、そこで旦那と私は運命的な出会いをし恋に落ちたのよ。旦那さんは製薬開発部門にいたから、私は時々実験のお手伝いをしていたの。そんな事もあって私達の仲は更に良好になったんだよね。

だけど、そんなある日事件は起こった。このローズグレイ社という会社、実は裏で生物兵器という名の不老不死の実験をしていたの。その実験体が何らかの方法で外へ逃げ出した。そして、一夜で街中の人々がゾンビに変わってしまった」


これってあの時……。たっくん達と一緒に行った研究施設で似た様な話を聞いたような気がする。確かそこで、KAGUYAが不老不死の実験があったとか言ってたな……。もしかして、あの研究施設にいたクリーチャー達って不老不死の実験で生まれた生物兵器だったりするのかな?


「私と旦那さんは生きる為に必死で逃げたけど、逃げている最中に旦那さんがゾンビに襲われてしまった。私は自分の死と旦那さんの死を覚悟したわ。だって、ゾンビに噛まれた人間はゾンビになるか死かの二つだけと聞いた事があったから……。だけど、旦那さんはゾンビに変わってしまう運命に必死に抗ったの……愛のパワーでね。確かにゾンビになった旦那さんは見た目は昔と大分違っていたけど、ゾンビになっても私の旦那さんである事に変わりはなかったのよ。だから、私は決めたの! ゾンビになっても旦那さんを永遠に愛すると。だって、ゾンビであっても人間であっても私の心と旦那さんの心は何一つ変わる事はなかったんだから……」


カノンさんの話はここで一旦終わってしまった。と言うよりか、いつの間にか話がゾンビの話から愛について語り出し話がそれてしまった。愛については、まだ俺にはよくわからなくて聞く耳を持てなかった。


だけど、一度に色々な話を聞いたからまだ頭の中が整理出来てないよ。でも、さっきのカノンさんの説明だけじゃあ、ゾンビなのに人間部分を残してる説明が足りないし曖昧で納得がいかない。


「でも、カノンちょっとおかしいよ! 愛パワーってそんな不確かな事だけじゃあ、ゾンビになのに人間部分を残してる説明がつかないよ」


「律君がきっと今まで出会ったのも正真正銘ゾンビだし、ここにいる私の旦那さんや悠音君も何一つ変わらなゾンビだよ。ただ一つだけ違うとしたら彼らには普通のゾンビにはない強い思い、信念のようなモノがあったからこそ人としての形を残せたのかもしれないと私は思うの……」


強い思いと信念……。

それが、悠音やカノンさんの旦那さんにあったからゾンビでありながら人としての形を残してる。俺は悠音やカノンさんの旦那さんを見てから、まっすぐとカノンさんの目を見つめた。


「それって一体……」


「人はそれを心と呼ぶのよ律君!」


「心……」


「そう、心なの……。

心はまだ私達にはわからない未知な部分を秘めている。その秘めた力がゾンビでありながら人として生きる奇跡をもたらしてくれたのかもしれない。だから、人間の可能性はゾンビになっても無限大だと私は思ってる」


人間だけが持てる心の可能性……。

カノンさんの旦那さんはカノンさんの事を何よりも愛する強い心を持っていた。普段はあんな無口で、そういえば旦那さんの名前はよく分からないけど。カノンさんと旦那さんがお互いの事を思い合ってるのはよくわかる。


悠音は誰よりも音ゲーに対する熱い心を持っていた。だから、ゾンビでありながら人としての形を失わないで済む事が出来たのかもしれない……。


じゃあ、今眠っている詩はどうなだろうか? 詩にも強い思いや信念があればひょっとしてもしかして……。


「きっと、あの子も……。今眠っている詩ちゃんも自分の可能性を見つけようとしてる最中なんだと私は思んだ律君。それにね、私は匂いでピンと来てわかったんだから! だから、律君は詩ちゃんの事を信じて待ってあげなさい」


「はい!」


俺にはまだこの世界の事はよく分からない事が多いけど、カノンさんの言う人間の可能性の事についてだけは、不思議と信じてみたくなった。


だから、詩早く目を覚ましてくれ……。

詩の目覚めを待っている人がここにはちゃんといるから……。

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