どうか君の行く道に希望がありますように
たっくんが死んでも俺達は足を止める事なく前に歩き続けていた。
俺の心と身体はもうボロボロで、何度も胸が張り裂けそうになるくらい辛かった。それでも、歩き続けられたのはたっくんが言ってくれた生きて欲しいという願いだった。
「止まれ」
響が不意に足を止めるよう皆に言った。
通路がここで終わり、また新たな広い空間が俺達の前に広がっていた。
さっき俺達がゾンビと戦っていた空間よりかは少し狭くなっていたが、中央に目を向けると筋骨隆々の大男ゾンビが2体俺達の前に立ちはだかった。
敵はまた新たに俺達に戦場をご丁寧に用意してくれていた。
大男ゾンビ達は二人で争っていて、まだ俺達がいる事に気づいてはいない。
「先手必勝だ! どの道ココを通らないと、本当の出口には辿り着けない。オレが先に行くから皆は後に続け」
響は直人さんからバスターソードを借り、一人で大男ゾンビ達に向かって突っ走った。その後ろに直人さんと詩と続いた。
こんなの無茶だよ……。
だって、さっきの戦いで俺達はほとんどの武器を使い果たしてしまっていた。俺が持っている武器は後、短剣に護身用の小型銃だけだった。
俺達に勝ち目はないのは目に見えていた。それでも、皆は戦っていた。
皆が必死に戦ってるのはわかってるけど、俺の足は一歩も前に動こうとはしなかった。
響が一体の大男ゾンビの背後を取り、首を切り落とす事に成功した。
首を切り落とされた大男ゾンビの肉体は砂の様に崩れ落ちそのまま朽ち果てた。
もう一体の大男ゾンビが雄叫びを上げ、止まってる俺に気づきこっちに向かってきた。
あぁ……もうダメだ!
俺は……戦うのにも生きる事にも何だか疲れちゃったよ……。
俺は逃げも隠れもせず、その場に立ち止まっていた。たっくんから託された願いはもう俺の中で小さくなって消えてしまっていた。大男ゾンビがしっかりと俺を取らえて、拳を振り上げた。
皆、ごめんな……。
俺は一足先にたっくんの所に行くよ。俺は迫りくる恐怖から逃げる様に瞼を閉じた。
だけど、不思議な事にいつまでたってもその恐怖はやって来なかった。俺は何が起きたのか知りたくなって、瞼をゆっくりと開けた。
えっ?!
そんな、なんでこんな俺なんかの為に……何で、直人さんが俺の目の前にいるんだよ…………。
俺に当たる筈だった大男ゾンビの拳は、直人さんが背中を敵に向けて俺に当たらないように守ってくれていた。だけど、直人さんの身体は拳を貫かれ、大量の血が足元に流れ落ちていた。
直人さんは血を吐き、朦朧とする意識の中で俺の事を何よりも心配して優しく声をかけてくれた。
「怪我はないか、律」
「俺は大丈夫だけど……俺のせいで、直人さんが……」
「大丈夫なら良かった……。
仲間を守るのは当然だからな。響、やる事はわかっているな! 後はお前に任せるぞ……」
「あぁ、言われなくとも」
響は後ろからやって来て、俺と直人さんを軽々と飛び越えた。大男ゾンビの腕が直人さんの身体を貫通している為、思う様に身動きが取れず、大男ゾンビは地団駄を踏んでいた。
響は大男ゾンビの腕に着地し、そのまま首めがけ一気に駆け上がった。
大男ゾンビの首元に到着した響は、バスターソードで首を切り落とし止めを刺した。さっきのもう一体の大男ゾンビと同様に肉体が砂のようになり朽ち果てた。
それと同時に支えを無くした直人さんの身体は、俺の方に向かって倒れてきた。俺は身体と腕でしっかりと直人さんを支え受け止めた。
「直人さん、響が倒してくれたよ。だからもうだい……」
俺は響の方をを見ながら直人さんに呼びかけたが、何の反応も示さなかった。
あれ、可笑しい……なんで直人さんは返事をしてくれないんだ?
今、俺の腕の中にいる直人さんに目を向けると既に息絶えていた。
「そんな、直人も俺の前から居なくなるなんて、嘘だよな……。頼むから、誰か嘘だと言ってくれよ…………」
「律君、直人さんはもう……」
詩の言った言葉を俺は信じる事が出来なかった。そんな俺を見てた響が近づいて来て胸ぐらを掴み怒鳴った。
「直人はお前を守って死んだ。だからもう、二度と還ってこないんだよ」
俺は直人さんが死んだ事も響が言った言葉も何一つ理解したくなかった。
「なんでこんな俺なんかの為に直人さんは死ななくちゃならなかったんだよ……」
「助けられた事に後悔なんかしてんじゃねぇよ! 律、お前なんで直人がたっくんが俺達を助けたと思ってるんだ……」
「わからないし、知りたくない……。
俺……こんな悲しい思いをするなら、いっそさっきのゾンビに俺が殺されれば良かったんだ……」
「律、お前本気でそんな事言ってるのか
?」
「あぁ、本気だよ」
胸ぐらを掴んでいた響が無造作に俺を放り投げた。そして、響は俺に背中を向け吐き捨てるように言葉を言った。
「律、覚えておけ!
直人やたっくん、それに死んでいった全ての仲間達が助ける理由は一つだ!
仲間達の命は全てを懸けて戦って守りぬくに価する価値がオレ達の胸のココにあるんだよ……」
響は自分の胸を大きく叩いた。
詩が響の補足をするため俺の方に近寄ってきて、優しい言葉を掛けてくれた。
「あの、律君。命は一つしかないけど、その命が沢山の仲間と出会い、何倍にも大きくなって絆になりやがて輪になるの。私達の命はみんな大切な仲間達と繋がっている。律君、君もその一人である事を忘れないでいて欲しい」
詩の言葉一つで俺の頭の中に色々な思いが駆け巡った。俺にもあったんだ、響や詩、たっくんや直人さんと皆なとちゃんと心で繋がってた。そう思った瞬間、涙が溢れて止まらなくなった。
俺はなんて大バカなんだ……。
皆の一番大事な気持ちをわかってなかった。もう、俺の命は仲間と出会った時からとっくに俺だけの物じゃなくなってたんだ。
響達に謝ろう。謝って許してもらえるかどうかわからないけど、ちゃんと謝ろう……。
立ち上がろうとした時だった、俺のいる周りの床に亀裂が入った。次の瞬間、俺はバラバラになった床共々落ちていった。
響は詩の手を掴み、詩が俺に向かって手を伸ばしながら叫んだ。
「律君、手を伸ばして……」
俺と詩の手は僅かに届きそうで届かなかった。きっと、あんな酷い事を皆に言ったからバチが当たったのかもしれない。
穴の底の暗闇が俺を誘い包み込むかの様に、身も心も委ねるように真っ逆さまへ落ちてゆく…………。
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