ハッピーエンドとバッドエンドは紙一重

 俺達が落ちた場所はとてつもなく広い空間だった。ゾンビを倒してもまた違うゾンビが現れて、次から次へと俺達に襲いかかってくる。余りにもゾンビの数が多く、俺達はバラバラになり分断を余儀なくされた。


俺は習ったばかりの剣技や銃を使い、なんとかその場を耐え凌ぐのがやっとだった。


早くみんなと合流しなくちゃ!

皆はどこだ、どこにいる?

俺はゾンビを倒し掻き分けながら、前か後ろかもわからない方へ進んだ。


無我夢中で戦っている俺を心配して、KAGUYAカーちゃんが話かけてきた。


「律様、一旦落チ着イテ下サイ。

闇雲ニ戦ッテハ、体力ヲ消耗スルダケデス」


「じゃあ、どうすればいいんだよ!」


「私ガ出口マデ案内シマス」


出口……出口があれば皆と一緒に帰れる!

俺は高鳴る鼓動を押さえつけ、KAGUYAと一緒に出口の方を目指し前へと進んだ。


出口へと向かっている最中に直人さんと合流できた。良かった、直人さん生きていたんだ! 俺は少し早口で直人さんに出口がある事を伝えた。


「よし、わかった!

律、確か手榴弾があったな。それを上に向かってまず投げてくれ。それで、皆に居場所を伝える事が出来るはずだ。いいか律、俺達で出口までの道を作るぞ!」


「わかったよ直人さん」


ポケットにある手榴弾を上に向かって放り投げた。その手榴弾はパーンっと大きな音と光を放った。


どうか皆にこの光が届いてくれ……。


俺達は次々と襲いかかってくるゾンビを倒しながら出口の方向へ向かった。ようやく出口と思われる場所に辿り着いた時俺と直人さんは有無も言わず、出口を前に背中合わせになりゾンビ達の前に立ちはだかった。


なーんだ、俺と直人さんは考えてる事は一緒だったからちょっぴり嬉しくてニヤけそうになる。直人さんは、背中合わせのまま俺に激励を言ってくれた。


「律、何としてでもこの出口を俺達が死守するぞ!」


「はい」


明るい希望の光が見えてきた。

きっとあの手榴弾の爆発を見て、皆がこっちに向かってきてる筈だ。だから俺はなんとしてでも直人さんと一緒にココを必ず守ってみせる!



戦いは一進一退の攻防戦が続いていた。

俺は極度の緊張と疲労で何度も心が折れそうになった。でも、その度に直人さんが俺の手を取り、折れそうな心と身体を支えてくれてれた。そして、俺はもう一度立ち上がり剣を握った。


俺は戦ってる最中に心の中で何度も皆に問いかけた。


皆、早くこっちに来てくれ!

出口がココにあるんだ。帰れるんだ……帰ってまた皆と一緒にいたいんだ。


どうして誰も姿を見せてくれないんだ。

もう、無理なのか…………。


そんな俺に運命という奴は更なる追い討ちをかけてきた。直人さんが戦場の状況を見て、これ以上は無理だと判断し俺に撤退するよう言った。


「これ以上はもう待ってない……」


「俺はまだ戦えるよ。元気だし、それにまだ皆来てないのに俺達だけ逃げる様な真似出来ない……」


明らかに俺達は誰の目にもはっきりとわかるくらい疲れきっていた。俺は何度も何度も直人さんに掛け合ったが、返ってくる言葉は同じだった。その状況に俺は愕然とし膝から崩れ落ちた。


「もう限界だ……。

これ以上戦っていたら俺達がもう持たない。頼むわかってくれ、律」


膝から崩れ落ちた俺に直人さんは手を差し伸べてくれた。俺はその手を取る事が出来なかった。だけど、どんな絶望的な状況に陥ろうとも、それでも俺は皆がココに来る事を信じて立ち上がろとした。


どうやら俺もあの響と一緒にいたお陰で、バカで諦めの悪さが移ったかもしれないな……。


だからもう一度だけ…………。

俺が立ち上がろうとした時だった、ゾンビの飛び散った液体に足を取られ滑ってしまった。


その瞬間に一斉にゾンビ達が俺に向かって襲いかかって来た。俺はもうダメだと思った瞬間に全てがスローモーションの様にゆっくりと動いて見えた。


直人さんが俺の名前を叫び助けようとしてくれたけど、もう手遅れなのはわかっていた。


全てがスローモーションに見えるせいか、俺を襲ってくるゾンビの顔が真ん中から裂けて見えた。見間違えと思い瞼を閉じてまた見てみると、ゾンビの顔の裂け目から見覚えのある顔が見えた。


あの顔は見間違えるはずない。だってあの顔は…………。


「ヒーローは遅れて登場するもんだぜ、なっ、律!」


「もう、響早いってば!

私追いつくの大変だったんだからね」


「響も詩も早いから僕がどれだけ大変だったかわからないでしょ!

けど、やっとココに辿り着けたんだ」


俺の窮地を救ってくれたのは響だったけど、詩もたっくんも皆いる。皆生きてたんだ、本当に良かった!


皆は次にどうすればいいか、言葉を交わさずともわかっていた。

まず、たっくんと詩がゾンビがいる方向にありたっけの手榴弾を投げた。その隙に俺達は全力で出口の方へ走った。最後に残り2つの手榴弾を全員が出口を通ったのを見届けた響が後ろから来るゾンビに向かって投げてた。


俺達が通った出口は瓦礫の山となり完全に出口を塞ぐ事に成功した。

これで、この出口からゾンビが襲ってくる心配はとりあえずない。


あとは道なりに通路を進んで行けばいい、だって皆一緒なんだから……。

皆一息ついて進もうとした時だった、急にたっくんに呼び止められた。


「皆ちょっと待って、僕は君達とは一緒にいけないや。ここでお別れだ……」


「あぁ、わかった……」


えっ?! 何言ってるのたっくんとお別れってどういう意味だよ。それに響もわかったって、何がだよ!


意味がわからない……。


「皆、急にどうしたんだよ? たっくんとここでお別れなんて何かの間違いだよな……。だって、たっくんは俺達の大切な仲間だよ」


皆は俯き黙ったまま何も答えようとはしなかった。どうして、誰一人俺の問いかけに答えてくれないんだよ。なんで、誰一人たっくんとここでお別れする事に反対してくれないんだ。皆おかしいし、こんなの間違ってるよ……。


「響、頼むからちゃんとわかるように答えてくれよ……」


「律、言葉の通りだ! ここでたっくんとはお別れだ」


「俺はそんな答えが欲しかった訳じゃない。ただ……」


「もういいんだ、ありがとう律君。

僕がさっきドジを踏んだせいで、やっぱりゾンビに噛まれてたみたいだ。これ以上一緒に居たら僕は君達を傷つけてしまう恐れがあると判断した。だから、僕はここで自らの意志で死ぬ事を決めた」


なんだよそれ……。

こんな、たっくんが死ぬ結末があっていいはずが無い……………。


響はたっくんの方を決して最後まで見ず、前だけを見据えたまま別れの言葉を口にした。


「たっくん、今まで世話になった」


本当にそれだけなのかよ……。

苦楽を共にしてきた仲間に、たったそれだけの言葉だけなのか…………。


「俺はたっくんを見殺しにする様な事は出来ない」


俺は最後に悪足掻きを続けた。

たっくんを見殺しにするなんて事、俺にはやっぱり出来ないよ。響達より過ごした時間は少ないかもしれないけど、俺にとってたっくんは掛け替えのない仲間である事に変わりはない。


俺は響を問い詰める為胸ぐらを掴みかかろとしたが、逆に響に胸ぐらを掴まれてしまった。


「良いか律よく聞いておけよ! この世界で生きていくには、皆ある程度覚悟を持って生きてるんだ。生きる事も死ぬ事も自らの意志で選び勝ち取ってるんだ」


悔しいけど響が言った言葉に俺は何も言い返せなかった。それでも、俺は必死になって言葉を探し搾りだした。


「だけど、それでも俺はたっくんと皆と一緒に生きたい。ただ、それだけなんだ……」


それを聞いていたたっくんがさっきよりも疲れてきった声で俺達に話し始め。


「僕は君達と出会えて、本当に幸せだった。だから、これが僕からの最後のお願いだ。僕の分まで生きてくれ……。もう、僕は持ちそうにない…………」


たっくんは自分の事よりも最後まで仲間の事を思い、強い覚悟を持って俺達に生きて欲しいという願いを託した。


詩と直人さんは覚悟を決め、それぞれたっくんに別れを告げるため傍に行った。


俺は、俺はどうしたらいいんだ……。

迷ってる俺にたっくんはいつもと変わらずに接してくれた。だけど、目は徐々に光を無くしていき濁り始めていた。それでも、手の中にある拳銃をしっかりと見据えていた。


「律君にはまだまだ教えたい事が山ほどあったけど、もう思い出せないや。僕の代わりに君に願いを託す事にするよ。だから、さぁ、皆の元へ行ってくれ」


俺は涙を堪えながら皆のもとへ歩きだした。20メートルくらい進んだ所でたっくんが愛する奥さんと娘さんの名前を言い、今から会いに行くと聞こえた瞬間に銃声の音が通路に鳴り響いた。


俺には振り返る事も足を止める事も出来なかった。ただそれでもまだ俺は、もう一度皆と一緒にいる未来を思い描いてしまう……。

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