秘密基地の居心地はどうですか?

 たっくんが申し訳なさそうな顔でさっき響が言った足りない部分の言葉を付け足してくれた。


「ごめんね律君! 響の言った荷物係っていうのは分かりにくいと思うけど、彼なりの律君への優しさなんだ」


 たっくんがそこまで言うならと思ったけど……。やっぱり、納得がいかなかった俺は響の言った数々の言動を手を胸に当てて思い返して見る事にした。


 うん! 響の言った数々のあの言動に俺は優しさの微塵も感じる事は出来なかった。よって、俺の心は至って正常だってわかった事に安心した。


「響の言葉はシンプルすぎるから色々と誤解されやすいんだ。僕も時々、注意するんだけど一向に直らなくてね……。

でもね、言葉に注目されやすい響だけど、君が初心者だって事は誰よりもいち早く気がついてたみたいだよ。荷物係って言葉悪く感じるけど、とっても重要な仕事に変わりないんだよ」


 響の言葉にそんな重要な意味が隠されていたのか?! って一瞬思ったけど、アイツに限ってそれはないなと思った。


「響はきっと律君に荷物係を通して色々な事を学んで欲しいと思ってるんだ。仲間のサポートや全体を見渡せる広い視野とあと銃の弾の種類とかをね。それに、戦場では補給が何よりも大事になってくる。補給を絶たれたら仲間は全員死ぬと思ってくれ!」


 全員死ぬ!?

 荷物係ってそんな重大な役割だったなんて知らなかった。響ごめん! 疑った俺がバカだったよ!


「それにだ律君、君は経験が浅いけど銃を扱った事はあるかい? それに、ゾンビや人を撃った事はあるかい?」


 俺は全部ないと答えた。

 ただ一度だけゾンビと戦ったけど、全然歯が立たなかった。それに倒してくれたのは詩だったし、あの大男ゾンビにいたっては響が倒してくれた。ましてや、人を撃つだなんて考えたくないし、俺には人を殺す勇気なんてない。そんな勇気は一生無くていい……。


「僕はゾンビも撃ったし、ゾンビになりかけてる人間も撃った事がある。そんな場面を嫌ってほど経験してきたからね。その度に思うんだ、戦う事に慣れてしまって、本当は自分があの恐ろしいゾンビ何じゃないかって、毎日自分の顔を鏡で確かめる日々だよ」


「ごめんなさい。俺何もそういう事知らなくて……」


「いや、こちらこそごめんね!

こんな話するつもりじゃなかった。話題を変えよう。そうだなぁー、部屋の案内をしようか!」


 皆どれほど怖い体験をしてきたんだろうか?

 俺にはきっと想像もつかないほどの体験をこの人達はしてきたのだろう。俺にはまだきっと分からなくて、いつか皆と同じ痛みを抱えて始めて分かち合えるんだと思う。


 ただ言える事は、その痛みは今じゃないというこだけ……。


 気を取り直して!

 次は部屋の案内か、ちょっと楽しみだ!


 俺達は少し場所を移動して、右側の一番奥にある扉の前で止まった。


「右側の一番奥にある部屋から紹介していくよ。この部屋は元は10人くらい寝られる大部屋なんだけどね、今や僕一人だけで使ってる部屋なんだ!」


 たっくんが開けてくれ部屋は、確かに一人で使うにはかなり広すぎる部屋だった。この部屋の中にポツンと簡易ベッドが1台とそれに本棚と机と椅子があるだけで、それ以外は何もはなかった。


「今皆それぞれ、この広い部屋を一人で個々に使っているんだ。律君、相部屋になるけど君さえ良ければ僕の部屋に来ないかい?」


「はい、ありがとうございます!」


 相部屋か!

 誰かと一緒に過ごすなんて修学旅行以来だな。なんか、凄く楽しくなってきたぞ! お次の部屋はどんな感じなんだ?


「僕の隣りの部屋は詩の部屋で、その隣りは監視室なんだけど、この中には実はもう一人紹介したいメンバーが居るからあとでね」


 どんなメンバーなんだろう?

 少し気になったけどたっくんが次から次へと休むことなく歩きながら説明してくれるから、俺はそれどころではなくなっていた。


「監視室の隣がトイレ。これで右側の部屋は終わり。次は左側の奥から順に行くよ! 左の一番奥の部屋が響で、その隣は直人の部屋なんだ。で、お次の部屋はなんだと思うかい律君? ちょっと開けてみてごらん」


 俺は恐る恐る扉を開けて見た。

 中を覗き込むとふたつに仕切られた部屋があり、扉が二つ付いていた。中には一体何があるのかと俺は内心ドキドキしていた。


「右側の扉は食料庫で、左側の扉は武器庫なんだ」


 食料庫にはたくさんの食材があった。

 俺はこれで一体どれくらい持つのだろうとちょっと考え込んだけど、左側の武器庫を見た瞬間にその考えは消し飛んだ。

 そこにはありとあらゆる武器に剣や銃といった定番の物から、見た事がない変わった武器も色々と取り揃えてあった。

 そして、どの武器も皆しっかりと綺麗に手入れされ、何処になにがあるのかちゃんと分かるように整理整頓してあった。


 俺の胸が高鳴るのを感じた!

 こんな光景を生まれて始めて見たから、そう思ったに違いないけどね。たっくんは満足そうな笑みを浮かべていた。


「あっ、この食料庫と武器庫の隣の部屋はお風呂だから使いたい時に使っていいよ!」


 俺は仲間に入れて本当に良かった!

 こんな秘密基地で皆と一緒に暮らせるなんて夢のようだ!

 もう、色々と最高すぎてお腹いっぱいだよ!


「そうそう、もう一人紹介するの忘れてたよ。彼はなかなか監視室から出たがらないからついね。それに、彼がこの秘密基地を設計したんだよ。まったく彼は凄いよ!」


 監視室からなかなか出て来ないって人は、どんな人物なんだろう?

 秘密基地を設計した人だからきっとものすごく頭のキレが早くて、オシャレなメガネを掛けてて、出来る男って感じの人が出てきたらどうしよう……。ちょっと、不安になってきたかも………。


 俺達は監視室のある部屋の扉に戻り、たっくんがいきなりじゃあ、開けるねと言って開けてしまった。俺はまだ心の準備が出来てないのにとは言えず、黙ったまま扉を見つめた。


 今、俺の心臓は激しく脈を打ってる。

 扉を開ける音よりも俺の心臓のドキドキと鳴っている音の方が勝っている。


「えっ!?!?」


 扉が開き中から現れたのは…………。

 俺が想像してた人物とは大分いや、かなり掛け離れていた。

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