強がりは弱さを隠すためにするモノだから、今はまだ変われずとも……

 部屋の中から現れたのは何と俺よりもまだ幼い少年だった。


ハッ!? 俺の想像してた人物と全然違うじゃん! 何で子供もがここに居るんだよ。てか、俺もまだ子供だけど……。

見たところまだ5~6歳くらいな感じか? 肌はチョコレート色をしており、黒髪はボサボサで前髪は真ん中できっちり分かれていた。


なんだよ、これならあの時の俺のドキドキを返せよって思っちゃうじゃんかよ!


少年は監視映像を観るのを一旦辞め、回転する椅子に座りながくるりと回し、俺達のいる方を見た。そして、少年は元気な声でたっくんに挨拶をした。


「やぁ、たっくん元気?」


「元気だよ!がっくんも元気そうで良かったよ。それよりどう? 今日は異常はなさそうかい?」


「今の所何も無いよ。もし、何かあればKAGUYAかぐやの音声通話を通して伝えるから大丈夫だよ」


と言いつつ少年は、たっくんの身体をまるで壁の様にして俺の事を左目でチラチラと見てきた。でも、その目はめちゃくちゃ俺の事を睨んでいるよ。


「それよりたっくん、さっきから気になってたんだけど、そこに棒のように立てる人は誰なの?」


棒……? 棒ってまさか俺の事か?!

あの少年には俺の事が棒の様に見えてるなんてふざけた性格してやがる。


「あぁ、この人はね、今日から僕達の仲間に加わった律君だよ!」


「ふーん……新しく仲間になったんだ……」


「それでね律君! この子がこの秘密基地の持ち主でね設計もしたガク君だよ。皆彼の事をがっくんって呼んでるんだ。今、がっくんにはこの監視室を一人で任せているんだよ」


「ボクが設計したけど、造ってくれたのはママとパパとその会社の人達だけどね。でも、そのママとパパはもう居ない……」


あの楽っていう少年に俺は棒って言われるは、鼻であしらわれるは、空気は重たくするは、なんなんだよコイツ!

俺の溜まりに溜まった怒りが頂点に達した時、たっくんが急に何かを思い出して、堰を切ったように昔話を始めた。


「僕達がこの場所を見つけたのは、本当に偶然だったんだ!

あの日、皆でこの廃ビルを探索している時の事だった。響がいきないりこんな事を言ったんだ。この辺りで鳥を焼いた香ばしい匂いがするってね。

僕達には全然わからなかったけど、響だけは野生の感でわかってたみたい。で、その野生の感を頼りに隠し扉の位置まで当てて、ここまで入って来ちゃったんだ!」


「あの時は、かなりびっくりしたなぁー。だって、ボク一人で焼肉パーティしてたのに、いきなりぞろぞろ人が入って来るんだも。まさか、お肉の匂いでここまで辿り着くなんて思いもよらなかった。お陰であの日は、一生忘れられない日になったよ」


俺はたっくんとガクという少年の話を夢中になって聞いてたら、いつの間にか怒る事を忘れてたよ。だって、たっくんが響のマネして言った時は凄く似てて最高に面白かった!


響の野生の感がなかったら、この秘密基地とも出会えてなかったのか!

俺は響の野生の感も案外捨てたもんじゃないなと思った。俺達は顔を見合わせて、また思い出して笑いあった。


「そうだ、がっくんお風呂まだでしょ?

入って来なよ、ここは僕と律君が見てるからさぁー」


「わかった、入って来る!

あっ、そこの人……律とか言ったけ?

色々と勝手に触らないでよね、絶対に」


それだけを俺に言い残して、ガクは部屋から出て行った。


ほんとっ、楽はムカつく奴だな……。

俺の一度鎮まった怒りが余計な一言でまた再び復活してきたじゃんかよ!

あのガクという少年覚えてろよ! っと復讐に燃える俺だったが、そんな俺とは違いたっくんは大人の対応をみせた。


「あの子を許してやって欲しい。

がっくんはあの齢でご両親と辛い別れをしたから、早く一任前の大人になろうとする焦りからワザと自分を強く見せてるんだ。そんな必要はないのに……。

がっくんは悲しみを全部独りで抱え込で、誰にもぶつけられないでいるんだ。歳が離れすぎているせいもあるのか、なかなか僕達には相談してもらえないでいる。

もっと同い年くらいの友がいて、喜びや哀しみを一緒に分かち合う事が出来れば、違う結果になっていたのかもしれない」


俺は何も言い返せなかった。

この世界では大人も子供も関係なく、どうしようもない理不尽な事に巻き込まれてしまう。


次会った時、俺はあのガクという少年になんて声を掛ければいいんだろう?

今あの楽という少年は、抱え込んでる痛みをここにいる歳の離れた俺達には見せないでいる。


なかなか大した奴じゃんか!

ちょっと見直したかも……本当にちょっとだけ…………。


俺も言えた義理じゃないけど、家族に関しては色々とある。

あんな独りで強がって生きる少年の姿に俺は、前世での家族の姿を思い出してしまった。


前世での俺は良い子とは程遠かった。

勉強が人一倍できる訳で無かったし、運動神経も特別良い方ではなかった。

だけど、こんな出来の悪い息子でも、俺の事をちゃんと見て、心配してくれる家族がいた。


それは、母親や父親、それにおじいちゃんおばあちゃんが俺には居てくれた。


居てくれる事が当たり前すぎて気づかなかったけど、俺が死んでしまった事で家族は、今頃どうしてるのだろとか、残された者が感じる痛みを俺は考えようともしなかった。


こんなダメな俺でも、哀しんで涙を流してくれる家族はちゃんといてくれたんだ!


正しい別れ方ないんてどこにもないかもしれないけど、前世では突然だったとはいえ、俺は皆を哀しませる別れ方をしちゃダメだったんだと今ならわかる。


やっぱり、一番大切な人達が哀しい涙を流すの辛いな……。


俺はまだ、大切な人達にごめんなさいもありがとうも何一つ言えないまま死んでしまったんだな…………。


「緊急通話ヲ受信シマシタ!」


「え?!」


そんな俺にさらに追い打ちをかける様、監視室のKAGUYAかぐやか一報のアナウンスが入った。

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