敵国フリューゲル

突然爆発音が鳴り響いた後、すぐさま二人は衣服を整え外に出ると村全体が燃え盛る炎に包まれていた。

住民達は逃げ惑い、中には黒焦げになって原型を留めてない者もいた…


「嘘…皆っ…」

アリエルは状況を飲み込めない様子だったのだが直ぐに決心の着いた顔になり、バッと両手を天に掲げる。

すると空に雨雲が集まり雨が降ってきた。


「汚染された雨だけどこのまま燃え続けるよりはマシ…」



雨乞いをこんな簡単にするのかよ…本当に魔法使いっぽいな、とシャノンは思いつつモッズに通信を繋ぐ。

「おいモッズこれはどういう状況なんだ?」


暫く通信が繋がらなかったが突然慌てた様子の声が聞こえてきた。

「すまねぇ今敵機と戦闘中だ!

俺っちの操縦技術ならやられはしねぇだろうが、敵船が半端なく重武装でかなりカツカツで気を抜けねぇ。

宇宙船の武装から見ると…おそらく敵国フリューゲルの軍用戦闘機だな。

理由は分からねぇがその街燃やしたのもフリューゲルの奴らに違いねぇ。」


通信が切れるとシャノンは慌てた様子で叫ぶ。

「アリエル!戦闘準備だ!

これは敵国フリューゲルの仕業の可能性が高い。

アルシェの宇宙圏でこんな大々的な事やるのはかなりヤバい奴らのはずだから気を抜くな。」


シャノンは武装を展開し、ビームブレードを構え周りを警戒する。


「シャノンちゃん、そのフリューゲルっていうの何?

なんで私達にこんなことしたの?」


すると突然炎の中から人影が現れてアリエルの質問に答える。

「そりぁ俺達はアルシェに恨み持ってるってのもあるが、お前…転生者を炙り出す為ってのが一番だな。」


その声の主はハイテクそうなパワードスーツを纏いフルフェイスのヘルメットをかぶっていた。

「この感じ…お前がそうかぁ!!」

するとその人物はいきなり巨大な火の塊を放ってきたのだが、間に巨大な水の塊が出現、衝突し大量の水蒸気が発生する。


シャノンは目の前の急展開に驚きアリエルの方を見と、その表情は今までの印象とは大きく違う険しい表情をして呟く。


「この火の魔法…お主はもしやカクスか?」


アリエルは水の刃を次々と放つが、火の壁を作り次々と蒸発されていった。

両者一歩も動いていないのに周囲では次々と火と水が激しくぶつかっていく様子は創作ファンタジー世界の魔法というほかなかった。


雨が降り火が弱まっていった静寂の街中に声が鳴り響く。

「この水魔法…お前まさかテティスか?七騎士の一人、水の騎士とこんな星でまた再開できるとは思ってなかったぜ。

急に気配が分かったって事は、お前現世の体を乗っ取ってないのか?」


テティスと呼ばれた人物は胸に手を当て囁く。

「ごめんアリエル、もう出てこないと決めてたんだけど前世の因縁の相手に襲われたから出てきてしまった。」


シャノンは蚊帳の外だったが、会話から察するにあいつは前世の因縁の相手で、襲ってきたからアリエルの中の前世の人格が出てきたという所なのだろう。

というかそうじゃないと目の前の光景は説明がつかない。

彼女は背後を向かずシャノンに語りかける。


「すまないな、こちらの世界の若者よ。

詳しい事情を話している暇はないのだが、あやつを倒すのを手伝ってくれんか?」

あの無邪気なアリエルがこんな話し方をするのは凄い違和感があったのだが、この状況では頼もしく思えた。


「ああ、あいつがフリューゲルの関係者で、アルシェ領のこの星の住民達を傷つけてる時点で、アルシェの軍人の俺は戦う理由は十分だ!」


その言葉を合図にテティスは上空に巨大な水の塊を出現させ敵に振り下ろす。

するとカクスと呼ばれた敵の周囲にドーム状の炎の壁が出来上がり、超質量の水を次々と蒸発させ大量の水蒸気が発生して視界が悪くなる。


「俺はお前を生かして国に連れて行かなきゃならなくてな。

悪いが多少痛めつけて…」

カクスがそう油断していた直後、背後の水蒸気の中からシャノンがビームブレードを振りかぶって襲い掛かる。


「なっ、気配が突然!?」


カクスにブレードが当たる直前、何者かにシャノンは吹っ飛ばされた。

「ほう、今のグランディオは短距離ワープまで出来るのか。」


吹っ飛ばした人物は竜人の大男だった。


「悪ぃ旦那、助かった。

感知魔法に引っかからなかったんだがあいつ何者だ?」


「あいつはアルシェの最新兵器を装備している生体兵器のグランディオだ。

しかも実用化されていない単身での短距離ワープを行使できるとは、おそらく武装に関してはお前の魔法に匹敵するかもしれん」


本来ワープは多大な演算が必要となり、宇宙船規模のものでようやく実用化されている。

グランディオは脳が遺伝子操作によって特別製になっており、普通の生命体ではあり得ない程の演算能力を有していて、演算の必要な兵装は脳に接続し演算を補助する事ができるが故本来は携帯不可なものも小型化し行使できる。

しかもグランディオ第三世代は脳も二つあるがゆえに演算能力が2倍になっていて、まさに強力な個人兵器である。


吹っ飛ばされたシャノンは立ち上がり男に問いかける。

「まさか絶滅したといわれているの竜人族と出会うとはな。

アルシェの飼い犬のグランディオなんか憎くて堪らないだろ?」


「別に何とも思っておらん。

お互いに生まれる遥か昔に起きた事。

我々はフリューゲルの軍人な故、国の命令に従っているだけだ。」


彼は竜人族といい巨大な力を持つ超人種だ。

竜人は大昔にとある特殊な力を持った人族と組み、アルシェという唯一無二の巨大な国家に反逆を目論んだ一族である。

これは愚人の大反乱と呼ばれていてもちろん人間側が敗北した。

この反乱のせいで、アルシェは人族の差別を初め、竜人族は絶滅寸前まで殺戮された。

だがこの反乱に触発された者達により反アルシェの国々が次々生まれるようになり、それは段々と集合し始める。

その結果できたのが、アルシェに匹敵する多種族国家フリューゲルである。

つまりフリューゲルを名乗る彼らはアルシェに対し対抗心や怨恨を持っているというわけだ。

シャノン自身から見てもアルシェという国は人道的ではないし、決して清廉潔白ではない、あの統治に納得できない者達がたくさんいるのは理解できる。

ただ一見非道でもやはりこれだけ広大な銀河を纏める為には仕方がない事で、創造神といわれているアルシェの意思決定機関の統治能力はかなり優れている、だからこそアルシェ軍の者達は従っているのだ。



「で、お前らはこの星に何をしに来たんだ?

住民のいる前で言うのもなんだけど、ここを荒らした所でアルシェは見向きもしないぞ。

そこのフルフェイスは異世界転生者だどうの言っていたが?」


フリューゲルはアルシェと頻繁に国境付近で小競り合いをしているが、この水の星は国境付近でもない奪い合う価値のない田舎の星だ。

正直この星にこんな戦力の軍人を寄越す意味が分からない。


「?アルシェは異世界転生者について把握していないのか?

この滅びかけの星にグランディオなぞ寄越しているから、異世界転生者を回収しに来ているのかと思ったが?」


異世界転生者だかの話は初耳だったんだけど…

シャノンは全然別の任務で訪れたのだが、その事は伏せて敵から情報を引き出そうと考える。


「アルシェでは異世界転生者だか分らんが、エクシード種を確認したら回収しろって命令受けているからな。

もしかしてお前らエクシード種の出現条件がわかっているのか?」


アルシェでは突然変異で脅威的な特殊能力を得る個体の事をざっくりとエクシード種と呼んでいる。

異世界転生者もいうなれば突然変異体だし、エクシード種といえるとシャノンは考えたのだが…


それの問に対しカクスが答える。

「何を言ってんだ?

大昔からエクシード種ってのは主に科学では解明できない[魔法]を行使する異世界転生者に対してカテゴライズされたものだろ。

出現条件も何も滅びかけの星が自らを救う為に異世界者の召喚をするんだ。」


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