異世界転生した少女

未開の星では中二病という一種の精神病があるという噂がある。

この閉鎖的な水の都で育った故にこの少女は異世界から転生してきたなどという妄想に取りつかれてしまっているのだろうか…とシャノンは考える。


この人魚の少女には前世の記憶があり、前世で習得した水を操る魔法を使えるらしい。

その魔法で水を浄化出来るので、一日の大半はここで浄化作業をし、外敵が出た時だけ討伐の為に外にでるという、いわゆる引きこもり生活を送っているとのこと。


宇宙には超能力者や突然変異の生物は稀に生まれ科学的には研究しつくされているのだが、科学の理屈が通じないエクシード種とカテゴライズされる幻の個体が確認された前例がある。


「私はこの星を救う使命を与えられて異世界から召喚させられたの」


疑っても埒が明かないので、とりあえず信じて話を聞くことにした。


水の魔法はその名の通りあらゆる水を自由自在に操る事ができるらしく、水の刃を作ったり、水の中から不純物を取り出すこともできる応用性の高いものらしい。

アリエルは0歳の頃からこの王宮に浄化する為の環境を整えさせ、それからずっと今の生活をしているらしく、こうして同い年位の、しかも異星人と話せてとても新鮮な気持ちと微笑んだ。


今気付いたがこの子、俺と話す時目を合わせないし、おどおどしながら話す典型的な人見知りのようで、年齢の割に見た目も相まって幼く感じる。

この環境ならそう育つのは仕方ない気もするが、0才にして人々を先導していたそうなのなのに、この性格なのは何故だ?


「君の今の人格は前世の物を引き継いだのか?」


「ううん違うの…なんて言ったらいいかな、他の人の体験を覚えてるだけみたいな。

小さい頃はね前世の人が体を動かしててね、使命から都の人達を凄い助けてたんだ。

けど私っていう自意識が出来たら、私に記憶と力だけを残して消えちゃったみたいなの。

自分はもう死んでいるから生きている人の体を乗っ取るのは間違ってるって。」


要は目の前にいるのは特殊な記憶と力をもっただけの16歳の人魚族の女の子という事だった。

アリエルはこれだけ引っ込み思案でおとなしいのに、街を守り、種族を繁栄させるという重責を丸投げして消えるとは何とも無責任な転生者だ。

それを聞くと物心付いた頃から自由がなく、水の確保のために犠牲になっている人柱だ、境遇だけ見ると凄く可哀そうな女の子でしかない。


「君が生涯、寿命が尽きるまで浄化し続けてもこの星の規模だと元通りには出来ないと思う。

この星を捨てる事になってしまうけど、人魚族を助ける為の手段をもって来たんだ。」


移住計画の事を教えると、悔しそうな顔をしてそれが一番だと思うと呟いた。

彼女も薄々自分のやっている事は、滅びの先延ばしに過ぎないと気付いていたのだろう、マリーナもアリエルもこの方法が最善だと認識したようだ。


「街の人には私が頑張って説得してみる。

皆私を救世主だと思ってるから故郷を捨ててなんてお願いしたら失望されちゃうと思うんだけど、お祖母ちゃんと一緒になんとかする。

それが救世主として星に呼ばれた、私にできる最後の仕事だと思うから。」


ゼリス将軍の事だからアルシェ上層部との交渉には失敗しないとは思うが、一応確定事項ではないので、しばらくは他言無用と念を押しておいた。


その後、重い空気をなくすべくしばらく他愛のない雑談をしたのだが、

アリエルは重荷が下りたように微笑んで話を聞いていた。



「話は変わるんだが、君は本当に異世界転生者なのか?

一応俺は科学の申し子だからイマイチ信じられなくてさ。」


「そうだよね。おばあちゃんも最初はなかなか信じてくれなかったもん。

じゃあ証拠を見せてあげる。

シャノンちゃんはお空の上から海って見れる?」


いきなりちゃん付けで呼ばれたが、まぁ信用の証であろうと納得し、モッズに頼んで上空からの海の映像をここに投影してアリエルに見せる。


「やっぱり科学っていうのは凄いんだね。

シャノンちゃん、ここになんか好きな絵を描いてみて。」


紙を渡されたので、好きなアニメキャラの萌え絵を描く。だって好きな絵って要求だし。


「?なんか変な絵、なんでこんな目がおっきくてキラキラしてて鼻がないの?

まぁいいや、ちょっと待ってて。」

喧嘩売ってんのか?

多分文化レベルが低いから高尚な絵を理解できないのであろうなと、シャノンは考えた。


アリエルが目を閉じながら、両手を天に掲げる。


地鳴りのような音が響くと、上空の映像には海が割れはじめ徐々に繋がっていき、なんと紙に書いた絵が直径2kmほどの大きさで描かれていた。


シャノンが呆気に取られると、モッズから通信が入る。

「驚いたな、事情は聴いてたけど本当にエクシード種なんじゃねぇか?

因みにこの海に描かれた萌え絵は証拠として保存しとくぜ。」


「やめて!上司になんでこの絵?って事情を聞かれたらものすごい恥ずかしい!」

萌え絵のミステリーサークルなんて珍妙にも程がある。


その光景を見ていたアリエルはとても面白かったらしく、声を出して笑っていたのであった。

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