水の都
自分が人魚族を助けに来たのだというと比較的簡単に信じてくれた。
「あなたは我々を助けてくれましたし、悪い方ではないのは何となく分かります。」
こいつら…俺の触手プレイを見たせいか全然警戒心がないらしい。
いや任務は楽になるのだがどうも納得がいかない。
彼女らに案内されながら色々と事情を話すと、あっという間に都の入り口にたどり着いた。
タコを倒した少女は道中事情を聞いてくれていたみたいだったが、到着すると一向を置いてトコトコと小走りで都の奥に消えていった。
「その…あの子は?なんか凶悪な兵器持ってたみたいだったし、少子化のはずの人魚族なのに随分若いよな。」
「アリエル様は突如として神が遣ってくださったこの星の救世主です。あの神通力でいつもチィトカアなどの外敵から我々を守ってくださるのですよ。」
答えになってねーよ、これだからこういう星の原住民は…とシャノンは思いつつも後であの力の正体を暴いてやるぞと決心した。
到着した都はなんと水が所々に流れており、プールの家らしきものもポツポツあった。
決して原始的な街でなく、機械で水を循環させているそれなりに近代的な外観であった、しかしながら道行く人魚族の女性は年齢が高そうな人ばかりだが。
「ご先祖様が残した都を最近ようやく本来の形で住めるようになってきたのです。
ここで男性達と共に暮らせれば子供もたくさん生めて、徐々に豊になっていくでしょう。」
どうやら大量の水の浄化システムがあるというのは本当らしい、でなければこんな贅沢な使い方は到底できない。
街の風景を観察しながら、シャノンは都中心部に立っている王宮にたどりつく。
「わしがこの水の都の代表のマリーナです。
ようこそアルシェの使いの方、お越しくださいました。」
代表の者は老婆だったがとても頭が良さそうで話をしやすそうだった。
奥の会議室に通されそれぞれ着席する。
「その…失礼とは存じますがとても若いようで、あなたの身分はどのような?
実はわしは若い頃、末端ではありますがアルシェの軍に在籍しておりました。あなたのような人族の少女がアルシェの使いとはとても思えず。」
アルシェという国は300年程前までは大昔の大きな出来事のせいで、人族を差別していた。
とある一人の人族の少年がアルシェの危機を救ったことによりその差別はなくなったのだが、それは現在でも残っておりグランディオ以外はアルシェ軍の役職になど到底つけない。
アメリア王女が重要視されずに、処遇をグランディオ部隊に丸投げされてるのも、この星が放置されているのも全ては人族絡みだからだ。
シャノンはこの人なら理解できるだろうと思い、グランディオの正体を説明し、軍証を見せると老婆は狼狽えた。
「驚いた、まさか人族の者が中尉とは…いや、これは喜ぶ事ではないな。
あたなのような少女が生まれた時から自由なく、一生を軍に捧げるなど良い事では決してない。
…わしが言える立場ではないが。」
マリーナはシャノンに聞こえないように悲しい顔をしながら呟いた後、非礼を詫びた。
事情を聞くと概ねレジスタンスの話と同じだったが、こちらの方がより深刻だった。
隠れすんでいる男性集落と違い、この水の都は先程のような外敵に頻繁に襲われるらしく、老人達を守る為に若い女の戦士が次々と戦死してしまうらしい。
しかも人魚族は珍しい種族の為、惑星外から無法者の人狩りが若い女を拐っていく事件も頻繁に起きていたらしく、それが人工激減に拍車を掛けているとの事。
老婆に人魚族の移住計画を伝えると二つ返事で承諾し、なんと嗚咽を吐きながら泣き始めた。
「これで人魚族の未来は…ようやくあの子を解放出来る。」
相当追い詰められていたのだろう。
この老婆はとても賢く、恐らく様々な対策を張り巡らしてきた事が予測された。
そしてアルシェの本質を知っているからこそ頼らなかったのだろうが、逃げ出した何も知らない男性達のおかげでこうしてあっさり助けがきたというのは何とも肩透かしだろう。
「けどよ、なんか水の浄化システムが出来たとか言ってたがそれはどうなったんだ?」
「あれは一人の少女の犠牲によって成り立っているもので、一時凌ぎの意味のないものなのです。」
少女の犠牲?どういう事だ?
ここに来てから少女は一人しか会ってないので彼女と関係あるのかと聞くと、どうもそうらしい。
「あの子はこの人魚族の中で生まれた一番若い子で、わしの孫娘です。」
人魚族というのは基本夫婦関係を持たずに複数人と交尾する習性らしいが、やはり恋愛感情を持ち夫婦になる者も昔から一定数いるらしい。
この人魚族の状況の中、老婆の娘はレジスタンスの一人の男性と恋に落ち、先程出会ったアリエルという娘を生んだらしい。
ただ一夫一婦を周りは許さないだろうから娘がある程度育つまで二人で隠れ住む事を提案したそうだ。
それが間違いだったと老婆は言う。
ある日海の怪物が大量発生したらしく、娘夫婦を心配して隠れ家に駆け付けたが、時既に遅く。
「わしが駆け付けた時そこにおったのは、怪物に食われた娘夫婦と、娘達を食った怪物の死骸と、生まれたばかりなのに怪物を殺したであろう血まみれの孫娘でした。」
孫娘はなんと0才にして言葉を理解して怪物を倒し、そして自分は星に遣わされた救世主だと名乗ったらしい。
孫娘を引き取ると、この水の都で宗教のように人々を先導し始めたらしい。
「人々を信じさせたのは年不相応の言動よりも、貴方も先程見た超常的な力の方でした。」
何でも彼女の先導は本当に正しく、その超常的な力を行使して人々を助けて支持を得ていったらしい。
浄化システムも彼女の力による物との事。
つまりはあの巨大タコを屠ったのは彼女の種も仕掛けもない素の力だと言うのだ。
シャノンはそんな非科学的な事あるか、なんか機械を使っているだろう、絶対あり得ないと思った。
「何にせよ、わしには理解不能なのです。
本当に遣わされた救世主と考えた方が楽な程に…
出来るならばシャノン殿に孫娘に直接話を聞いて判断して頂きたい。」
老婆は案内するといって、王宮の地下に降りて行く。
この水の都は海の上に出来ているので現在は水中にいるであろう、事実様々なところから水流が聞こえるし、そんな事を考えてると大きな部屋の前に到達した。
「正直最初は孫の事が恐ろしかった。
しかし年齢を重ねると何故か人格が年相応になったのです。
相変わらず超常的な力はそのままですが、それが逆に幼子に重責を背負わせているようで…
今はこのような状況から孫を解放したいと思っています。」
何でも老婆は最近はその孫娘と食事をしたり、たわいもない雑談をしたり、普通の家族の関係になりつつあるらしい。
よろしくお願いします、と言うと老婆はきた道を引き返していった。
「お邪魔しまーす…」
そういって部屋に入っていくと大きなプールがあり、中の水流はかなり激しく頻繁に水が入れ換えられているようだった。
その中にタコから助けてくれた少女は浸かっていた。
シャノンが近付いて行くと少女は気づく。
「あの時の銀髪の女の子…駄目っ!ここの水は汚染されてるから近づかないで!」
時既に遅く、シャノンはプールに足を付けていた。
「えっ?君汚染水に入ってて大丈夫なの?
因みに俺の体はそんな柔に作られてねーよ。
そもそもシールド張ってるし。」
少女はあっけに取られた後、少し照れながらプイと元の顔に戻った。
このプールの中で何をしているんだと訪ねる。
「ここに汚染水を入れて、それを私が浄化して街に流してるの。」
水質を調べると確かに浄化途中のようだが、彼女は薄布一枚で汚染水に浸かっていて普通ならば具合が悪くなるだろう。
納得いかないシャノンは周囲に特殊な機械がないかスキャンしたが汲み上げポンプ以外金属反応さえないようだった。
考察しても仕方がないので、単刀直入にこの浄化する力はどうやって得たのか聞く。
「この力は前世で得た水を操る魔法。
私異世界転生者だから。」
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