少子化の星
調停任務を言い渡されたシャノンとモッズは宇宙船に乗り件の星へ降り立った。
シャノンは現在メンテナンスの終わった男の方の体で行動している。
「えーと、とりあえず助けを求めてきた勢力を訪ねるか。」
今回仲裁を頼んできた勢力の集落を目指し、提供されたマップを頼りに進んでいく。
それにしても辺り一面透き通った水ばかりで景色は素晴らしいのだが、ここの水はすべて汚染されているらしく魚一匹泳いでいない。
水に浸かってない細い足場を辿って行くと大きな岩山現れた。
そこに出来た自然の洞窟の入口には人魚族と思われる門番が立っている。
人魚というのだから下半身は魚かと思ったらただのエラと水掻きがついているだけの普通の二足歩行人間、しかも細身の男だった。
シャノン達の姿を目にした途端、門番は慌てふためき叫び声を上げた。
「おい!新種のチィトカアが襲来したぞ!
随分と小型だが二足歩行をしているし、どこで拾ったのか分からないが武装もしているようだ!」
すると兵隊らしき人魚がぞろぞろと現れてモッズに槍を向ける。
「え?これもしかして俺っちの事を敵だと思ってる?」
どうやらモッズの事を人を襲う原生生物だと思い込んでいるようだった、あれか、水の星だから環境に適応した人食い蟹でもいるのだろうか?足の数とか蜘蛛と似てるし。
それにしても集まってきた兵隊達も全員細身なのでなんとも迫力がない。
囲まれてしばらくたった後、リーダーらしき男が出て来てシャノンの姿を見た瞬間慌てて叫んだ。
「皆!この方達はアルシェの使者の者達だ!即刻警戒を解け。
あまり機嫌を損ねるとアルシェに見捨てられ我々は終わりだ。
最悪、ある事ない事報告され殲滅部隊を送られてしまうかもしれん。」
いや確かにそうなのだがその使者達の目の前でそれをいうなよ、あとアルシェ軍はそんな暇じゃない。
シャノン達はリーダーらしき男に平謝りされた後、自分達の身分を説明したら兵士達は真っ青になっていた。
少し逸れるが、シャノン達は自動翻訳機を使っているのでどの言語でも理解し、喋る事ができるという設定がある、これは今後ずっとそうなので覚えておいてほしい。
集落に入れて貰ったシャノン達は最奥にある会議場に案内される事になった。
道中の人々はこちらを珍しそうに見物してくる、観察すると皆年をくった男で細身の男達ばかりだ。
なんでも人魚は元々水棲の為、地上の活動では筋肉がつきにくいらしく食料も豊富でない為ヒョロヒョロか、よくて普通の体型らしい、リーダーらしき男は後者のようであった。
案内された天幕には岩でできた大きな机と椅子があり、早速事情を聞くためそれぞれ向かい合って着席した。
「端的に言うと我々は男だけで構成されたレジスタンスです。
まぁ現実は死にたくない男の逃げ場所みたいなものになっていますが…」
リーダー曰く。
数百年前の水汚染で住める場所はほとんどなくなってしまったが、故郷を捨てきれない人魚族はなんと遺伝子操作で足をもって生まれてくるように調整され、汚染されていない陸部分で暮らすようになった。
しかしそこで種の存続に関わる重大な問題が起きたのだ。
人魚族の女性はとても美人で性欲が旺盛、交尾はとても激く、その激しい交尾で死ぬ男性は少数いたらしいが、陸でまぐわうようになってからは、致死率が暴上がりしたらしい。
何でも前述の通り陸だと体が弱くなってしまい、エラ呼吸のできない肺呼吸のみだから行為が激しすぎると呼吸困難になるとの事。
人魚族の男性は長い間ずっと耐えていたのだが、ここ八十年程で人魚族の男性は決起し、交尾の時に死なない程度にして欲しいという主張を掲げつつ、都から逃げてきた男を集めてこの辺りでレジスタンスとして暮らすようになったらしい。
最初こそほんの一部であったが、交尾をしたら死ぬという生死を左右する事情のため賛同者は徐々に増えていった。
度々、都の女性達は主張をのんでくれたが、結局性欲に負けてしまった一部の女性が殺してしまうので、もう男性側は半ば諦めて男だけで細々と暮らしているらしい。
その結果が現在の超少子化、若い男を見ないのもそのせいらしかった。
だが最近、都側も少子化でまずいと思ったのかここ数年必死に男性側を説得してくるらしい、だが彼らは度々裏切られているので明確な解決案がなければ応じる予定はないという。
しかしついこの間、とある興味深い連絡がきたらしい。
───都では大量の水を処理できる浄化システムが開発されました。男性の皆さんは私達の種族本来の形である水中で暮らして頂き、我々女性と安全な種の繁栄に協力をして頂けないでしょうか───と
これが本当であれば男性も本来の肉体を取り戻し、死なない交尾も可能になるのだが、飲み水でさえどうにか確保しているのに暮らせる程の水の確保など可能なのであろうかとリーダーは悩んでいるらしかった。
悩みぬいた末、彼らはアルシェの存在は知ってはいたので、偶々星に降り立った交易船に頼み込んで連絡をとり、このどうしようもない状況を調停してもらうことにしたのだ。
正直この星の住民にそんなものが開発できるはずがない、汚染濃度はかなり深刻なはずだし、もしかしたらアルシェの研究機関が浄化システムを作ったのかもと思ったが、そんな大規模な干渉をしているなら報告を受けているはずだ。
シャノンはとにかく都の女性側の意見も聞かないとなと考えながらリーダーの男にいう。
「まぁお前らを他の星に移住させる計画もあるし、悪い事にはならないだろうから安心して待っててくれよ。」
そういうとリーダーの男は安心したように微笑みながら
「ありがとうございます。
正直アルシェという組織がこのような星の原住民の為にそこまでしてくれるとは思ってもみませんでした。」
まぁその考えは合っている。
ゼリス将軍がたまたま請け負ってくれたから対応してくれただけで、他の上層部なら一蹴していた可能性もある。
しかも激しい対立や戦争をしているわけではないので、他に重要な任務があったら忘れ去られていたであろう優先度の低い事案である。
しかし宇宙全体にとっては些細な事だが、彼らにとっては種の存続にかかわる重要な事件だ。
シャノンは簡単ながらも重要なこの任務に少しやりがいを感じ始めていたのであった。
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